Opinion : 戦艦武蔵のこと (2015/4/6)
 

「ネットの噂も 75 時間」というぐらいの時の流れを考えると、一周半ぐらい遅れてこの話をするような気がするけれど、まあいい。

で。その、シブヤン界の海底に眠っている「武蔵」の残骸 (こんな言い方はしたくないけれど、他に適当な言葉も思いつかないので、こう書く) を引き揚げるとか、どこかに展示するとかいうことをいいだしている向きがある様子。引き揚げるという考えがなければ、残骸の所有権がどうとかいう話も出てこないはず。

その残骸が、自分が勝手に想像していたよりもバラバラになっているらしい。弾薬庫の爆発があればバラバラになってしまっても不思議はないけれど、そうでなくても意外と激しく壊れるようだ。よくよく考えれば、浮力を維持できないぐらいの損傷や浸水があったわけだから、さもありなん。


と、それが本題ではなくて。

「思ったよりもバラバラになってしまっている」とか「引き揚げに費用がかかる」とか「引き揚げた後の置き場所はどうする」とか、「そもそも所有権はどこに帰属するのか」とかいう話が出てきているけれども、個人的には「もう、そっとしておこうよ…」と思う。

これが陸戦の話だと「遺骨の収集を」という声が出てくるし、実際、各地で遺骨収集事業が行われている。でも、海戦になると、同じような話が出てきたとは聞かない。海に沈んでしまっているのだから、という諦観がそうさせるのかも知れない。

厚生労働省の Web サイトを見たら「戦没者の遺骨が残されている地域としては、相手国の事情で遺骨収集ができない場合や、海没その他の自然条件等により収集できない地域等があります」との記述があった。それは確かにそうだろうと思う。そんな、海底までの深度が浅い、アクセスしやすい場所で沈没した軍艦ばかりじゃない。

これは個人的な物の見方・感じ方の問題になるので、もう間違いなく異論百出になりそうだけれど、そのことを承知で「自分はこう思うのだけれど」というところについて書いてみると。

そもそも沈没した軍艦、それ自体が、そこに乗っていて戦死した乗組員にとっては一種の墓所みたいなものじゃないだろうか。そこのところが、陸の上で戦死した場合とは違うように思える。

そういう考えがあるから、「沈没艦の引き揚げ」という話に対して「そっとしておこうよ」という考えにつながるのかも知れない。いったん水葬にしたものを掘り返すような話だと思ってしまう、ということだろうか。

もちろん、乗組員の遺族の方には違った意見があってもおかしくない。死生観とか宗教観とか、いろいろな要因が絡む話だから、人によって考えが違って当たり前。上で書いたのは、あくまで自分の個人的な物の見方だから。

ともあれ、今回の探査によって精確な沈没場所や現場の状況が部分的ながら明らかになったことが、なにがしかのプラスの影響につながればよいのだけれど、と思う次第。


ところで。真珠湾のような浅海面ならともかく、外洋で沈没した軍艦を後から引き揚げた事例がどれぐらいあったっけ… と思ったら、あった。ソ聯のゴルフ型ミサイル潜水艦を Glomer Explorer が引き揚げようとして失敗した事案が。

このときは部分的な引き揚げにとどまり、その際に 6 体の遺体が回収され、CIA によって改めて葬儀が行われたそうである。

Contents
HOME
Works
Diary
Defence News
Opinion
About

| 記事一覧に戻る | HOME に戻る |