Opinion : 続・豪州向け潜水艦輸出に関する徒然 (2015/5/11)
 

本当にもう、歯痒いんだから…

といっても、誰かさんの恋バナの話ではなくて、オーストラリア向け潜水艦売り込みの話。本来なら、官民の総力を挙げて売り込みをかけて、先方が喜びそうな提案をバシバシ繰り出して、それでようやく受注獲得が見えてくるんじゃないの。と思うのだけれど、目下の日本側の対応は、そういう様子には見えない。

ひょっとすると、「最初から日本の一択で指名してもらえるのなら受けるけれど、他国と競争してまで受注を勝ち取ろうというのは、ちょっと…」という了見なんだろうか。と思ってしまいそうになる。真相は知らないけれど。


なにせ大型の航洋型潜水艦を 12 隻も調達しようという大型案件だから、すでに潜水艦輸出で実績がある各国、なかんずく現用中の Collins 級のタイプシップを手掛けたスウェーデンが、目の色を変えないはずがない。

特に欧州勢は、なにも潜水艦に限らずどんな分野でも、採算度外視じゃないかと思えるぐらいに好条件を乱発してくるのがお約束。オフセット率 100% だって大概だと思うが、130% とか 150% とかいう数字が出てくることすらある。

しかも、内心で本命が決まっていたとしても、最初からそのつもりでコンペティションなし、あるいは形だけのコンペティションをやれば、後になって大騒動になるのは間違いない。カナダが F-35 でそれをやって、現にもめている。

コンペティションはやるけれども、内心の本命が有利になるような条件設定を露骨にやらかせば、たちまち看破されてスッタモンダするのは、ほぼ間違いない。軍の大口装備調達計画ともなれば、当事者だけでなく、競合各社や野党まで巻き込んで、多数の人が鵜の目、鷹の目、ニャンコの目になるのは目に見えているのだから。

といったことを考え合わせれば、本気のコンペティションは避けられない。そうなると少なくとも、現地メーカー、つまり ASC になにがしかの仕事を落とす提案をするのは当たり前の前提で、そこからさらにどれだけ好条件を積み上げるか、というぐらいの話になってもおかしくない。

そこで、「うちの製品は優秀だから、黙っていても採用される」なんて思っていたら、まず間違いなく足元をすくわれる。第一、性能の優劣や技術レベルの高低 *だけで* 採否が決まる業界じゃない。

さらに付け加えれば、「輸出したらお宝技術が外部に出てしまう」と心配するぐらいなら、完成品の輸出どころか、共同開発・共同生産だって実現できるかどうか怪しい。そうやって内にこもるよりも積極的に他流試合に打って出る方が、視野が広がったりスキルアップにつながったりする部分がある、とはいえないんだろうか ?

どんな選択肢でも、プラスもあればマイナスもある。メリットもあればデメリットもある。それらを天秤にかけて「メリットの方が大きいからやろう」とか「将来に向けて必要なことだから、当座はデメリットの方が大きいかも知れないけどやろう」とかいうようにして決断を下すもの。以前にも書いたかも知れないけれど、いいとこ取りのノーリスクなんて話は、まず存在しない。


そもそも、防衛装備品移転のための新原則をこしらえた背景には、「装備品の高度化・複雑化により、RDT&E やその後の量産における負担が、一国では背負いきれないぐらい大きくなってきている」という認識があったのではなかったか。

それだったら、とにかく小さい案件でもいいから実績をつくり、それをとっかかりにして話を広げていくぐらいが、新参者にとっては現実的な選択肢。それと比べると、今回の潜水艦の一件は、はるかに恵まれた話だというのに。

それを本気で獲りに行こうというのであれば、官民で意思統一を図って積極的にアピールしていかなければならないのだけれど、どうもそこのところで足並みが揃っていないような印象を受ける。部外者は「日本の優秀な潜水艦が海外で認められる、わーい」と勝手に盛り上がっているけれど。

そういえば、F-35 で「輸出して利益が出たら初度費を返還しろ」という話が出ているが、これは暴論。それをいうなら、「輸出して利益が出たらしっかり納税しろ」が筋ではないか。

以前から書いているように、防衛産業基盤の維持をいうのであれば、ちゃんとメーカーが利益を出せる状況を作らないと始まらない。そういう根本のところで、どうも財務省と経済産業省と防衛省とメーカーの間の足並みが揃っていないような印象を受けるのだけれど、どうなんだろう。

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