Opinion : 趣味活動における情報暴露について (2016/2/8)
 

こういう仕事をしていると、「聞いたけれども書けない」話のストックが増えていく。ときには「オフレコにしますから聞かせてください」とやることもあるけれど、そうではないことも多い。

あと、おそらく自分に限ったことではないだろうけれど、何かの報道公開の現場に行ったときに、レーダーをクルクル回して「見なくていいものまで見てしまう」人はいるだろうと思われる。

ただ、その「見なくていいもの」について表沙汰にするかどうかは別の問題。とりあえず胸の中にしまって置いて、参考資料にしたり、差し支えないと判断できる状況になったところで表沙汰にしたりする (こともある)。


といったところで、最近になって自分の周囲で話題になっている「外部から自衛隊の基地、あるいは部隊の状況について見た結果を公開することの是非」という話。

こういう話が出ると、当然ながら「外から見えるということは、見られても差し支えないと当事者が考えているわけだから、それを公表しても問題ない」という意見は出てくる。確かに、本当に見られて困ることがあれば、ちゃんと隠蔽策を講じるもの。

横須賀に行くと、港を一望できる高台に高層マンションが幾つも建っている。そこから観察していれば、フネの出入りは一目で分かる。海自や米海軍の人は内心「面白くない」と思っているかも知れないけれど。

だいたい、港の中を軍港めぐりのフネが行き来しているのだから、外から港の中が見えるぐらいはいいだろうと考えている… とみるのが自然。本当にヤバかったら、横須賀軍港めぐりは営業できない。

ただ、「当事者が自らの意思で公開あるいは発表した話」(たとえばプレスリリース) と、「当事者が積極的に公開も隠蔽もしていないが、見る人が見ると分かる話」(航空機や艦艇の動向・運用情報、施設の配置や内容など) を同一視していいのか、という問題はある。

後者はまさに、「公開情報を丹念に積み上げていくことで情報資料になり得る」の典型例。前者にも同じことはいえるが、公開する側の意思が介入できる、つまり情報操作 (というと言葉が悪いが) が可能というところで微妙に違いがあると思う。

たとえば、基地のゲートひとつとっても、警衛の人数や装備や交代のタイミングなどを丹念に調べることで、警戒態勢やそのレベルの変化を掴むことができる可能性がある。だから、米軍基地の一般公開で「ゲートの写真を撮るな」という話が出てくるのだろうと思われる。(特に NAF 厚木が厳しい)

「当事者が誰でも見える状態にしていたのだから、その結果に対して文句をいうのはおかしい」という理屈は、たとえば「ネット上での炎上事案につきものの個人情報バレ」にも通じるものがある。つまり、「本人が自ら個人情報につながる手がかりをばらまいていたのだから、それによって個人情報がバレても仕方ない」と。

なんてことを書くと「国家機関の話と個人情報バレを一緒くたにするな」といって叩く人が出てくるのは目に見えているけれども、本質的なところは共通しているのではないか。

昔なら「ブン屋」とか「その筋の団体・組織」だけ気をつけていれば良かったものが、今だと一般市民レベルでも観察力を発揮した挙句に、その成果物を全世界にむけて拡散できる。そういう状況の変化に対して、カウンター インテリジェンスを考える側の意識がついて行けていない可能性はあるかも知れない。


インターネットの普及、そしてとりわけ SNS の普及によって、情報を公開の場に晒すことの敷居はグッと低くなった (昔なら新聞社や雑誌社にたれ込むぐらいしかなかったのだ)。そこでは「貴重な情報、珍しい情報を出すとスターになれる」という傾向があるから、それがまた、情報晒しのエンジンになる。

ただ、実際にそれによってなにかしらの問題が起きれば、当然ながら意識は変わる。すると、目隠しの塀が増えるとか、写真撮影禁止の場所が増えるとか、ネタ元が消えてしまうとかいう具合に、いろいろと制約が増える可能性は出てくる。すると結果的に、マニア的には自分の首を絞めることになるわけだ。

似たような話は軍事分野以外でもある。鉄道業界でも、「表立って公開はしていないけれど、見る人が見ると分かる、知っている人は知っている」という類の話はある。また、それが撮影の際のいい情報源になることがある。ただし上記のような理由から、それが何なのかをここで書くことはしない。

実のところ、観察力を発揮して発見したこと、あるいはそのための情報源などについては、公に触れて回らないで、内心あるいは仲間内にとどめてニヤニヤしている方がいいのではないかと思う次第。

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