Opinion : 武器輸出をめぐる夢想と無双 (2016/5/2)
 

オーストラリア海軍 (RAN : Royal Australian Navy) の次期潜水艦調達計画・Project Sea 1000 は、とりあえず「フランスの DCNS を優先候補に選定」という結論に落ち着いた。いっとき「日本有利」との報道が流れたこともあったので、「いけるんじゃないか」と思っていた人もいたと思う。

この件については、同じ「売れなくてガッカリ」でも、二種類のガッカリがあるはず。つまり「優秀な国産装備が世界を席巻する」という夢に破れた人と、「"武器輸出三原則の規制を緩和したせいで、日本が武器輸出大国になった" といって叩いてやろう」という夢に破れた人。

個人的には、この結論は「だからいわんこっちゃない」に尽きる。なにも武器輸出の世界に限ったことではないけれど、モノがよければ売れるとかいう単純な話ではないし、ことに武器輸出の場合、政治が絡む。

オーストラリアみたいに、すでに潜水艦を国内建造する基盤 (それがいかほどの実力を有しているかは別として、メーカーが存在するという意味) があれば、そこに仕事を回すようにしなければ受注が覚束ないのは、以前にも書いた通り。

率直にいえば、そういう政治面・産業政策面の配慮なくして売れると思っていた人がいたのだとしたら、それこそ見識を疑う。井の中の蛙もいいところである。


さて。こういう結論に落ち着くと、きっと今度は、Project Sea 1000 の難航や炎上を祈願する人や、いざ難航したり炎上したりしたときに「それ見ろ」と腐す人が出てきそうである。

でも、そんな尻の穴の小さいことをいうぐらいなら、はなから「国産装備品の海外輸出」なんて夢を見るのは止めた方がいいと思う。

なにも武器輸出に限ったことではないけれど、自分とこだけでなくライバルも、必死になって受注を勝ち取ろう、売上を上げようとしている。そこでどういうアプローチをとるかは人それぞれであるにしても、何も努力しないで勝利が転がり込んでくるはずがない、とはいえる。

それだからこそ、情報を集めて分析して、ライバルの強みと弱みを洗い出して、それに対して自分の強みをぶつけつつ、弱みを突かれないような戦略や戦術を立てるのが当たり前なのでは ?

まして、日本は国際武器市場における新参者である。これまでは自国の需要に特化して、自国内で通用するプロトコルに乗っかって商売をしていた。でも、海外に打って出ようとすれば、需要構造も違うしプロトコルも違う。そのことに文句をいってみても始まらないし、そういう状況に適応していかなければ、商売は成り立たない。

だってそうでしょう。民生品の分野だって、モノやサービスが市場に受け入れられなかったときに「うちの製品やサービスの方が正しくて、それを受け入れられない市場の方がおかしい」なんてマーケティング担当者が発言したら、炎上間違いなし。いや、その前に市場からソッポを向かれて終わりか。


だから、潜水艦だの飛行艇だの哨戒機だのと「大物正面装備」の輸出に夢を見る前に、まず頭を冷やさないと。そして、どの製品なら、あるいはどの分野なら国際的競争力を発揮できるのか、政治がらみのゴタゴタを回避しやすいのか、不慣れや弱みを突かれにくくできるのか、ということを考え直すべき。

その過程で、メンツとかプライドとかいうものは、ひとまず横に置いておく必要がある。民生品ならともかく、武器輸出の世界では新参者なのだから。そこで「民生品の分野における過去の経験や実績があるから、武器輸出だって」というのであれば、それを活かせる分野には何があるかを考えないと。

そういえ考えができないと、いつになっても「大風呂敷を広げては挫折する」の繰り返しに終わるんじゃないかと心配になる。夢想ばかりしていても無双にはなれない。

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