Opinion : 同じモノがあれば対抗できる、とは限らない (2016/9/5)
 

先月末に、韓国の聯合ニュースが報じたニュースで「韓国で高まる『原子力潜水艦保有論』 当局は対応に苦慮」というのがあった。いわく。

北朝鮮が SLBM (Submarine-Launched Ballistic Missile) の発射に成功した、と発表したほか、現行のものよりも大型の潜水艦を建造する可能性がある。それは原潜になる可能性がある。これを受けて、韓国国内で「原潜保有論」が持ち上がっているが、当局は慎重な姿勢を取っている。

2016 年の 1 月に国防事業庁 (DAPA : Defense Acquisition Program Administration) の関係者が定例記者会見を行った際に、進行中の 3,000トン級潜水艦建造計画について「原潜の計画はない。進行中の事案もない」と答えた。

「ああ、どこの国も一緒やね」と思った。


「軍事的脅威」の種類や内容はいろいろあるけれど、「仮想敵国が新種の兵器体系を導入する」というのも、そのひとつ。既存の兵器体系について対処方法を考えて、対処するための装備を整備していても、それで新種の兵器体系に対処できるかどうかは分からない。

ただ、そこで陥りがちな落とし穴が「あちらさんの新種の兵器体系に対処するには、こちらも同じ、あるいは同種の兵器体系が必要だ」となってしまうこと。もちろん、本当にそうする必要がある場合もある。ただ、そこに至るまでの思考過程が問題。

つまり、本来の目的は「新種の兵器体系を無力化する」あるいは「新種の兵器体系を叩き潰す」ことにあるのに、それがなぜか「新種の兵器体系と同じものでなければ対応できない」に短絡してしまうと問題がある。

たとえば、外洋海軍同士が睨み合っていて、相手の原潜戦力をつぶそうと考えたらどうするか。対潜哨戒機で制圧するか、対潜ヘリと水上戦闘艦の組み合わせで制圧するか、通常潜で制圧するか、原潜で制圧するか。

相手の潜水艦をピッタリ追尾してやっつけるというなら、同等の機動性・航続性が必要になるから、それなら原潜が要る。しかし、地理的条件によっては、敵潜をチョーク・ポイントで捕捉して叩き潰すという「待ちの ASW」もあり得る。それなら、通常潜と哨戒機とヘリの組み合わせで対処できるかも知れない。

あと、相手の潜水艦が攻撃型か、弾道ミサイル搭載型かという違いもある。攻撃型の方が味方のシーパワーにとっては脅威だから、それは敵潜そのものを叩き潰す必要がある。しかし弾道ミサイル搭載型の場合、本来の脅威は潜水艦が搭載するミサイルの方。

だったら、場合によっては「弾道ミサイルの迎撃が優先」という考え方もあり得る。もちろん、「クサい臭いは元から絶たなきゃダメ」(古) ということで、ミサイルを搭載する原潜を沈めてしまえという考え方もあり得る。どちらを取るかは、利用できるリソースや各種の制約要因、地理的条件などによって決まってくる。

つまり「何が脅威で」「どう対処すべきか、どういう対処なら可能か」という話が先に来るべきであり、それが決まって初めて「どんな兵器体系が必要か」という話になる。単に「敵さんと同じ兵器体系があればよい」というだけの単純な話ではないはず。

先に「東洋経済オンライン」で記事を書いた、日本のレールガン開発に関する話だってそう。どんな脅威があって、それに対してどう対処するのがベストかという話がまず必要。そこで初めて「その中でレールガンをどう位置付けて、どう使うか」という話になるのが本筋。

といっても、そのすべてを当局が開けっぴろげにできないのは無理もない。外野としては、そこのところはちゃんと考えているのだろうと信用するしかない。とはいえ、「弾道ミサイル迎撃にレールガン」なんて報道が出てくると「は ?」といわざるを得ないのだけれど。


といってもこの業界、往々にして「あっちが新しいものを持ち込んだから、対応して、うちも同じものが必要」「あっちが新しいものを開発してるから、うちも同じものを開発したい」となりがち。だから「弩級戦艦ブーム」とか「単発多座戦ブーム」みたいなことが起きる。

でも、目的と手段の混同あるいは取り違えは、納税者に対する説明責任という観点からいっても、国防という責務を果たす観点からいっても、問題があると思う。

また、当事者がちゃんと考えていても、マスコミや「専門家」が妙なことを煽ったり、当局を突き上げたりすることもある。それもまた問題がある。冒頭の韓国の件についていえば、北朝鮮の一件をダシにして「原潜願望」を満たそうとしてるだけなんじゃないの、という思いが抜けない。そして、我が国だって他国のことを笑えない。

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