Opinion : 展示よりも本来任務が先 (2016/10/24)
 

米艦の入港お出迎え取材に、何回か行ったことがある。もちろん、「何時に入港して、何時から何時まで取材」とのスケジュールは事前に知らされているけれど、たいていの場合、押す。

その一因は、着岸・繋留して舷梯を架けて、艦に乗り込めるようになるまでに時間がかかること。米艦の場合、そこのところが案外とラフ… というと間違い。繋留作業はきちんとやるのだが、必ずしも事前に決めたスケジュール通りにならない、という方が正しい。

これが海上自衛隊だと、もっと「スケジュール通りに整斉と」進む印象がある (注 : 個人の感想です)。それ自体は「何事もキッチリ、キチンと」という自衛隊の美風だけど、それがネガティブな方に出る場面もあるんじゃないかなあ、と思うこともある。

【ヒトとカネは減った】自衛隊に集まる期待が裏返るとき【仕事は増えた】 (Togetter のまとめ)

つまり、↑のまとめで部谷直亮氏が述べておられる話に尽きる。


前に富士総合火力演習に行ったときに、「これって "演習" (exercise) と銘打っているけれど、実際には "展示" (demonstration) じゃないのかなあ」と思った。たぶん、本番当日にこれを観に来ている各国の武官が、そのことをいちばんよく知っていると思う。

だってそうでしょう。本番よりだいぶ前から現地入りして、事前訓練やリハーサルをやっているわけだから。失敗がないように、成果を見せられるように、という形で「何事もキッチリ、キチンと」精神が出て。

有名な出し物 (あえてこう書く) の「富士山」にしても、弾着のタイミング・起爆のタイミングを合わせる訓練だといえばいえるけれども、それをわざわざ富士山の形にして見せるところは、やはり「出し物」である。

「どこかの部隊を抜き打ちで召還して、東富士演習場に急速展開。到着したら直ちに射撃を実施。しかも目標はその場にならないと分からない」というのであれば、演習といってもいいと思うけれど。

「何事もキッチリ、キチンと」も「術力を出し物としてみせる」ことも、それ自体はいいことなのだ。ただ、その精神を発揮した結果として、本来任務である訓練や時間・費用・消耗品といったリソースを食われるような事態になったら、それはまずい。

「たまに撃つ 弾がないのが 玉に瑕」というフレーズをときどき聞く。冗談でいっているのならともかく、本当にそうだったら大問題。特殊作戦部隊並みにとはいわないけれど、実弾を撃つ機会を充分に用意できてこその「戦う組織」であろうに。

自衛隊の本来任務は「外敵の武力侵攻に対処すること、あるいはそれを抑止すること」なんだから、まずそれをちゃんとやっていただかないと。たまたま、そのために用意している装備や資材が役立つから災害派遣にも出るけれど、それはあくまで余技。

術力を、あるいはキチンと統制のとれた様子を見せて「頼もしい組織だなー」と思ってもらうことも大事だけれど、そのために本来任務のための訓練に回す時間、あるいはその他のリソースが削られるようなことになれば、本末転倒といわざるを得ない。

観艦式にしても、そりゃ勇壮で血が騒ぎますよ。見事なシップ ハンドリングを見せてくれるのは、見ていて気持ちが良い。ただ、これも事前の計画や訓練、そして一般公募にまつわるあれこれの作業、当日の接遇など、あれこれと手がかかっている。

参加しているフネの乗組員も、あるいは港務隊などの支援担当部門も、全体を仕切る司令部のレベルでも、そりゃ大変だろうと容易に想像できる。そのために、本来なすべき訓練・任務が後回しになっていないか、と心配になるぐらい。


もちろん、自衛隊の活動について知ってもらうとか、人員募集の一助にするとかいう事情もあるから、広報イベントは必要。ただ、それが負担になってしまったのでは本末転倒だから、部谷直亮氏が書いておられるように、もっと頻度を下げてもいいんじゃないかと。

総火演は「部内教育の一環」という本来主旨があるから毎年やるにしても、常に外部に見せないといけないというものでもなかろうし。観閲式や観艦式や航空観閲式は、今は陸海空の持ち回りで毎年どれかやっているけれど、頻度を半分にしてもいいんじゃないか、ぐらいに思っている。

日本の周辺がキナ臭くなっている昨今だからなおのこと、本来任務のためにリソースを集中する必要があるんじゃないのかなぁ。

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