Opinion : そんなに戦争だと煽りたいんか ? (2017/4/17)
 

何がきっかけだったのか、先週の後半あたりから突然「米朝開戦か !?」と煽る話がゾロゾロと出てきた。もちろん、弾道ミサイルの開発が進んでいるとか、核実験をやらかす可能性があるとか、恒例のパレードの時期だとか、いろいろと背景事情はあるのだが。

しまいには、今すぐにも日本国内に弾道ミサイルが飛んでくる、といわんばかりに煽る人までいた様子 (あのねえ)。夕刊紙の一面なんてひどいもんで「○○日に開戦 !」なんていうのも見かけた。まあ、あの辺は「刺激的に煽り続けていないと死んじゃう」病にかかっているから仕方ない。


噴飯モノだったのは、便乗して「○○という現象が起きているから開戦間近だ !」と主張する人が出てきたこと。でも、その内容がいかれている。GPS の精度が落ちたとか、北朝鮮の上空を民航機が飛んでいないとか、米軍基地の FPCON (Force Protection Condition) が最高ランクの Delta になったとか。

GPS の精度低下というけれど、たいていの人が持っている GPS 受信機といえばカーナビである。カーナビの位置決めは GPS が基本だけど、GPS 「だけ」でやっているわけではない。ジャイロセンサーも使うし、マップマッチングだってやっている。そういう複合的な要因の成果として「カーナビの測位精度」があるわけで。

だから「カーナビの測位精度が下がったみたい」→「DoD が民生用コードの精度を下げた !」と即断するなんて早とちりもいいところ。第一、精度が下がったと主張する人が、それ以前の「精度が高い」データのエビデンスを出して見せられるとは思えぬ。

民航機の件にしても、平素から北朝鮮の上空を飛ぶ民航機なんてロクにいないだろうに。しかもソースが Flightradar24 である。まず Flightradar24 の動作原理を考えてみろ、と。

FPCON の件なんか問題外で、写真を見ればちゃんと「EXERCISE (これは訓練)」だと書いてあるし、日本語の「訓練」を意味する「訓」の字も映っている。それを見て見ぬふりをして「最高レベルの警戒態勢」と煽るのは、もはや嘘つき。

嘉手納の 18WG では F-15 や HH-60G や E-3 を並べてエレファント ウォークをやって見せたけれども、空軍のえらい人がいうように本物の「臨戦態勢」だったら、見世物のエレファント ウォークなんてやってない。

本当に本気だったらむしろ、短時間で航空団の保有全機を全力発進させるソーティ サージの演習をやるとか、(青帯ではない) 黄帯を巻いた実弾を搭載する作業の画を見せるとか、そういう話になるのではないかと。

でも、見る人が見れば「黄帯が実弾」だと分かるけれど、一般向けには効果はなさそう。そのことを考えると、これみよがしにエレファント ウォークをやって司令官が一発吹かしてみせる方が、「開戦間近か !?」と煽っているマスコミは容易に食いつくと思われる。

それを使って北朝鮮に圧力を感じさせる、というメディア操作の宣伝戦を仕掛けるぐらいのことは、考えていても不思議はなさそう。金ちゃんがそれで圧力を感じるかどうかは別の問題なれど。


当たり前の話だけど、弾道ミサイルを発射する可能性があるということと、それが日本国内に着弾する可能性があるということは別問題。そして、「軍事的選択肢を検討」という報道があったけれども、そりゃ検討ぐらいするだろう。

それに乗せられて過剰に煽ってしまった背景には、何があったんだろうか。中には、「本当に弾道ミサイルが飛んできて、日本国内に被害が出れば、『政権の無策』を言い立てて総辞職に追い込むきっかけができる」とワクテカしている人がいる、のかもしれない。

え。「シリアで巡航ミサイルを撃ち込んだのだから、北朝鮮でもやるかも知れない ?」。もっともらしく聞こえるけれども、廃棄したことになっていたはずの化学兵器が使われたシリアである。そこのところをお忘れなく。それに、特定の施設を狙った外科的攻撃で北朝鮮の弾道ミサイル開発/核開発を止められるんか ? という問題だってある。

とどのつまり、「えらいこっちゃ、えらいこっちゃ」と騒いでみたかっただけの人がいっぱいいた、ということなんじゃないだろうか。

ああそうだ。「開戦になれば、米タンがいっぱい走るんじゃないか」と期待している向きがあるようだけれども、それはいささか不謹慎の度が過ぎると思う。米タンがいっぱい走って撮影チャンスが増えるのなら、何がどうなってもいいというのか ?

Contents
HOME
Works
Diary
Defence News
Opinion
About

| 記事一覧に戻る | HOME に戻る |