Opinion : 増やす予算の使い道 (2017/6/19)
 

与党の部内で、「防衛費を倍増してはどうか」という話が出ていると報じられた。

その昔、防衛費が GNP 比 1% の枠を (瞬間的に) 突破したことがあって、そのときにはもう「軍国主義への前触れだ」「日本が軍事大国化する」みたいな、すごい騒がれ方をした。その後でどういうことになったかは、まあ、説明の必要はあるまい。

これに限らず、その後も「大変なことになる〜」の恐怖感マーケティングが繰り返されては失敗に終わっているのだから、日本の野党ってのは学習能力がないものだと痛感する。

現実問題として、NATO は加盟国に対して「国防費は対 GNP 比 2%」をひとつの基準として示している。だが、NATO 諸国がおしなべて軍事大国化したとか軍国主義化したとかいうわけではないのは、いうまでもない。なお、その 2% の基準を達成できている国が数えるぐらいしかないのはナイショである。


さて。「軍事大国になる」かどうかは政治と国家としての意思の問題だが、もうひとつ、重要なのは予算の使い方、配分である。国防費に限らず、会社のおカネでも家庭のおカネでも、配分が大事なのは同じである。

じゃあ、日本で防衛費を倍増したとき、それをどう使うか。そこで値の張る正面装備をドカスカ買い込むつもりなのだとしたら、個人的にはまったくもって不同意である。他にも予算を回すべき対象はいろいろあるはずだ。

といっても、巷間いわれる「コピー代」とか「古い建物」とかいう話ではない。

たとえば、哨戒機の搭乗員が監視任務の際に使用する双眼鏡が足りない、なんて状況が今も続いているのだとしたら、それはどうにかしないといけない。個人用の装具類が官品にないせいで自腹購入しているとか、官品の出来が悪いなんて状況があれば、即刻改善しないといけない。

燃料や弾薬の在庫を積み増すとか、弾薬庫の施設を強化するとかいう話だってあっていい。ずっと前からいっている話だけれども、戦闘機の基地をすべて掩体化しなければならないのは、もういうまでもない。

そして実射訓練を含めて実戦的な訓練の機会を増やすこと。実弾を撃つのが難しければ、リアルなシミュレーション訓練ができる環境を整えること。

装備面では、同じ名称・同じ分野でいろいろな仕様が入り乱れるのではなく、仕様を統一して形態管理や兵站支援の負担を減らしたい。戦車が 3 種類も同居しているなんて、お話にも何もなりやしない。

あと、これはおカネの話ではないけれども、儀礼・儀典・イベントの類は縮小してもいい。使える時間はできるだけ本来任務とそのための訓練に回して、集中して錬成できるようにしたい。何かというと「日本を取り巻く安全保障情勢は厳しさを増しており〜」というけれど、それなら尚更である。

あと、海外の合同訓練、合同演習、あるいは展示会やカンファレンスといった場面に、もっと人をどんどん出したい。知見を広げる役に立つし、「井の中の蛙」にならずに済む可能性が高まる (まあ、これは当人の意識に拠るところも大きいけど)。

そういう、地味だけど大事な取り組みをコツコツとやっていってこそ、「精強な戦力」が実現できるのではないか ? 値の張る派手な正面装備だけ増やしても、O&M 経費に予算を食われて、他の分野を圧迫するのがオチではないか ?


珍訳語が多発したことで、一部で有名な「トム・クランシーの海兵隊」(東洋書林) という本がある。訳語は妙だが内容はまともで、Guided Tour シリーズ恒例の将官インタビューは読み応え充分。

「海兵隊」では第 30 代司令官のチャールズ・クルラック大将が登場するのだが、そのクルラック大将がこんなことをいっている。

「士気に関して最優先で取り組んでいるのは、海兵隊司令官が個々の海兵隊員の面倒を見ることを示すことです」
「司令官が議会から、何かできることがあるか、と質問を受けますと、一千万ドルか二千万ドルの追加を頼むのです。雨具とかブーツのようなものを買うためにです。両用艦艇とか飛行機、車両用のお金ではありません」
「彼らに『何をいっているのですか』と問われれば、私は『海兵隊員に私が渡したいものは、朝鮮戦争の頃より新しいデザインの装具です』と答えています」

もちろん、正面装備が「どうでもいい」「後回しでいい」といっているわけではない。件のインタビューの中では、古いトラックを使い続けている状況や、戦闘機や両用戦艦艇の後進にも言及している。

しかし、正面装備の更新だけでなく、個人用装具にもちゃんと気を配っていることを示したい、という姿勢を海兵隊のトップがちゃんと示している。そのことを強調したいと思って、上の文を引用した。

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