Opinion : ○○になりたいという夢 (2017/7/17)
 

「夢をあきらめないで」という歌があったけれども、実のところ、子供にしろ大人にしろ、抱いている「夢」を現実にするのは、あまり簡単なことではない場合が多い。

そういえば軍事評論業界では「自分の子供がこの仕事を目指したいといいだしたら、全力で止める」という定番ネタがある。でも、実際にそういう事態には直面した人は、誰もいないと思われる。

自分の場合、いろいろな運やタイミングや御縁に恵まれて、こういう仕事をしている。でも、一心不乱に脇目もふらず、この仕事を目指して突っ走ってきたのか… というと、それは違うと思う。むしろ、自分の中に蓄積してきたものと周囲の状況、それとさまざまな御縁が上手く噛み合った結果、というべきか。

そりゃ確かに、学生の頃には休講や講義の空き時間があると図書館に籠もって、「航空ファン」や「世界の艦船」や「ジェーン年鑑」をせっせと見ていたし、家にあった戦史書や鉄道誌も片っ端から読んでいた。

でも、学生の頃に今の自分の姿まで思い描いていたかというと、それはなかったと断言できる。「そうなったらいいなあ」ですらなかったんじゃないかと。


「情報通信・システム系に強い鉄道・軍事・航空系物書き」という立ち位置に至ったのは、先に書いたような昔の経緯だけに拠るものではない。むしろ、その後の職歴が影響した部分が大きい。

それに、鉄道にしろウェポン システムにしろ、情報通信技術がないと二進も三進もいかないという状況まで、昔から予見していたわけではない。そういう状況になってきているのを見て「これは出番だ」と思ったのは事実だけど、それは結果論。

つまり、過去数十年間に蓄積してきたり、経験してきたりしたあれやこれやのビルディング ブロック、それと自分が興味を持っていた分野・得意とする分野における状況の変化が、たまたまいいタイミングで噛み合って、そこに上手く乗ったということ。

人によっては、「子供の頃から描いていた夢に向かって一直線」という人もいるだろう。でも、そういう人ばかりでもないんだよ、という一例。それで何をいいたいのか。それはこういうこと。

  • どんなポジションであれ、それを実現するためには「周囲の状況」と「自分の持ち駒」が噛み合うことが必要。
  • 必要と思われる持ち駒を確保することは当然ながら、さらに、周囲の状況を見定めて適切に動くことが必要。

「夢をあきらめないで」っていうのは、上の 2 項目のうち、特に後者があってのことじゃないんだろうか。ただ闇雲に突っ走ればいいってもんじゃない。

だから、たとえば子供が「将来は○○になりたい」といったときに、ただ無条件に「おお、よしよし。頑張れ」といって煽るだけでは、ちと無責任じゃないだろうか。わざわざ腰を折ることはしないにしても、せめて「○○になるためには△△が必要だぞ」と教えるぐらいのことはしないと。

もちろん、その「○○」について回るリスクや苦労というものもある。それをちらつかせて「だから止めろ、あきらめろ」とやるか、「こういうリスクや苦労が予想されるから、それにはこう対処するべし」あるいは「対処するには××が必要」と教えるかは人それぞれだろうけど。

そりゃまあ、「夢を叩っ壊す大人」になるよりは「夢を盛り立てる物わかりのいい大人」の方がいいけれど。でも、ただ単に「物わかりが良さそうな姿勢」を見せるだけではなくて、プラスもマイナスもキチンと教えることこそ、本当に必要なことなんじゃないだろうか。

それができて初めて、目標を実現するための行程表を作れるのでは ?


Twitter で茶化し半分に書いたジェーン年鑑の話って、実は「膨大な資料から必要なデータを引き出す根気」と「外国語でも臆せず突撃すること」の必要性を指摘した、ということでもある。それができるぐらいなら見込みがあるかもしれない、ほんと。

余談だけど。フリーランスで仕事をするということは、会社でいうところのバックオフィスとフロントオフィスの両方を独りでやるっていうことなわけ。だから、そのバックオフィスの部分で負担を軽減して、フロントオフィスの部分に時間やリソースをできるだけ多く回すにはどうすればいい ? ってことも考えないといけない。

そういう付随的課題を知らずに突撃されても、結局は本人が困るんである。

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