Opinion : ローカル線ツアーに関する徒然 (2018/4/16)
 

7 年ちょっと前に、乗りつぶしのために木次線を訪れた。もともとガラガラの列車が、南下するにつれてさらに空いてしまい、亀嵩-出雲横田間は自分一人だったと記憶している。

その出雲横田で乗り換えた備後落合行きも、事情は似たり寄ったりだった… のだが、出雲坂根駅に進入する際に見たら、ホームが人であふれかえっている。その大集団がドヤドヤと乗り込んできて、1 両しかないキハ 120 は立席まで含めて満員になってしまった。

スイッチバックは進行方向が変わるから分かるけれど、ループ橋なんか見られなかった人もいるのと違うか。と思っていたら…

この大集団、次の三井野原でみんな降りてしまった。その降車の際に、なにやら運賃の収受に手間取っていたようで、どう見ても何分かの遅発であった。もっとも、ダイヤには余裕があるようで、備後落合に着いたときには所定だったかと。


「この大集団は、いったい何だ」と気になるのは当然の成り行きで、手に持っていたペーパーをチラチラと盗み見てみたら。この集団は某旅行会社のツアー客で、名所めぐりの一環として木次線のスイッチバックと、並行する国道のループ橋が旅程に組み入れられていたようであった。

さて。席が全部埋まるどころか、向こう側が見えないぐらいの立客もいたので、キハ 120 の定員を基に、バス 2 台分の 90 名ぐらいはいたと仮定する。

出雲坂根-三井野原間の営業キロは換算 7.1km、この区間の大人 1 名の普通乗車券は 210 円である。210×90=18,900 円。しかし団体割引をかけていた可能性もあるので、その場合には 15% 安くなる。

車内をツアー客で埋め尽くした挙げ句に乗降に手間取ったのだから、地元の一般客がいれば大迷惑もいいところだが、その地元の一般客がいなかったのは、いいのか悪いのか。

似たような経験はもうひとつあって、3 年ちょっと前の三陸鉄道。確か、島越から久慈まで、木次線のときと同じ旅行会社のツアー客がワッと乗ってきた。一般客もそれなりにいたので正確なカウントは難しいけれど、仮にバス 1 台相当の 50 名とする。すると、島越-宮古間で 1,080 円。50 名で 54,000 円。

そういえば、先日に廃線になった三江線では、増結しても足りずにバス代行まで発生していたというが、その三江線に乗るツアーを組んでいた旅行会社があったらしい。ただでさえ葬式鉄が押しかけているのに、なんだかな。

木次線の場合には地元の一般客がいなかったからいいとして。ツアー客まで加わると、混雑率を一気に上げてしまう。そこで団体以外の利用者にトバッチリが行かないように、増結しようとなったらどうするか。

乗務員は増えないが、車両は増える。予備車を充てるにしても、燃料代は車両が増えた分だけ増える。

先の三鉄の場合、久慈-宮古間は 71km だが、増結車を送り込む必要もある。回送列車を割り込ませるわけにも行かないから、車両基地がある久慈を出る時点で増結しておいて、往復させるのが妥当か。すると往復で 142km。

その増結車が消費する燃料は、リッター 1km として 142 リッター。軽油がリッター 110 円とすると 15,620 円。かなり大雑把な数字だけど、先の「50 名で 54,000 円」よりは少ないから、燃料代だけ考えれば増結しても元は取れる。

しかし、それが成立するのは、それなりに長い距離を乗ったから。先の木次線のケースみたいに 1 駅だけで降りられたのでは、増結したら大赤字である。まあ、そんなときには「1 駅だから混んでも我慢して」となるのだろうけれど。


もちろん、「利用が少なくて困っているのだから、集団で乗りに来てくれるのはありがたいお客さんではないか」という意見はあると思う。それはそうなんだけれども、なんとなく釈然としない。

そこで当の団体さんが「せっかく乗りに来ているのだから、優遇されるのが当然」なんていいだしたら、それはさすがに怪しからんと思うし、実際にはそんなことはなかった。先日に東北本線であったみたいに「敬老者が乗るので席を空けておけ」なんてこともなかった。

じゃあ、なんで釈然としないんだろうと思ったけれど。これはひょっとすると、いわゆるひとつの「葬式鉄」に対する感情に通じるものがあるのかも知れない。「普段は見向きもしないところに、何か話題性があると急に寄ってくるの ?」みたいな。

もちろん、旅行会社にとってみれば、話題性がないと集客も成立しないのだろう。ただ、話題性に関係なく「興味があって訪れた」とか「応援したくて訪れた」というのと、話題性があるときだけ押しかけてくる集団を一緒にするのは、なんか抵抗がある。

動機が何であれ、運賃収入につながるのは確か。ただ、「まず大事にすべきは日常的に利用している地元の利用者」という観点からすれば、「一発モノ」のツアー客のせいでブタ混みになったり、発車が遅れたりするのはよくない。

すると、「増結するから、それをやっても元が取れるぐらいの距離を利用する旅程を組んでよ」というところに落ち着きそう。1 駅・210 円では、なんぼなんでも、ねえ。

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