Opinion : 目に見えるコストと目に見えにくいコスト (2018/5/7)
 

さて、大型連休が終了して通常モードに戻った本日、皆様、いかがお過ごしでしょうか。

働いてばかりだと疲弊するから、適宜、休ませないと。というのは人間も飛行機も同じ。で、日本の対領空侵犯措置に関連して「安い機体、古い機体を用意して充てればいいじゃないか」という意見がときどき出てくるのを思い出した。

同意しかけたのだけれど、「ちょっと待てよ」→「不同意だわ」となってしまった。というのが、今回のお話。


南西方面でスクランブルに上がる件数が増えているのは、御存じの通り。そして南西方面に F-15 の近代化改修機を優先配備しているのも、御存じの通り。ということは、F-15 の近代化改修機ほど飛行時間がどんどん伸びる構図になっているであろう、と推測できる。

すると、貴重な近代化改修機が先に疲弊してしまうかも知れない。それなら Pre-MSIP 機を回した方が… と思いかけて、「待てよ」となった。

理由その一。単に、上がってコンタクトして証拠写真を撮るだけで、相手がその間、何もしないで漫然と飛んでいる… とは限らない。冷戦中、ソ聯機との間でチキン レースみたいになった事例があったとかなかったとかいうけれど。

今だって、機動で妨害するとか、ジャミングをかけてくるとかいうぐらいのことは起きても不思議はない。そうなったときに、古い機体、センサー能力や電子戦能力が落ちる機体でいいのか、という話。こちらからジャミングを仕返すかどうかはともかく、仕返さなくても ECCM 能力は問題になる。

相手がジャミングをかけてくるのであれば、ついでに ELINT (Electronic Intelligence) 機を飛ばして情報を盗ってしまえ、という考えも成立しうるのだけど、肝心の ELINT 機の手駒が少なすぎる。スクランブルに上がる度に ELINT 機を連れていくわけにも行かない。

理由その二。単に、上がってコンタクトして証拠写真を撮るだけで済むならいいけれど、警告射撃、さらにはその先までエスカレートする可能性も視野には入れておかないといけない。(冷戦中だけど、実際に警告射撃までいった事例はある)

「いざとなったら撃つぞ」が露骨すぎるのであれば、もうちょっとオブラートをかけて「妙なことをすれば、タダでは済ませない覚悟はあるぞ」(あんま変わらないか)
…という気構えが感じられないのでは、果たして抑止効果があるのか、という話になる。

オーストリアみたいに、近隣に敵対的な行動を仕掛けてくる国がいないところだったら、話は別。それだったら BAe ホークあたりにサイドワインダーを積んで送り出しても用は足りるかも知れない。でも、日本の近隣だと状況は違う。

そして、「そもそも、対領空侵犯措置のために安価な機体を別口で用意することが、本当に安上がりなのか」という問題。なぜかといえば、有事の際には第一線戦力になり得ない機体を抱え込むことになるから。

いいかえれば、第一線戦力を目減りさせる結果になってしまう。「絶対に花火が上がることはない」と断言できるのであれば、それでもいいかも知れない。でも、そんな断言ができる人はいない… わけでもないか…


「安い機体で済ませる」ことよりもむしろ、機体や人員の過重負担と疲弊を防ぐ手を考えることの方が重要では。たとえば、ずっと那覇に張り付けっぱなしにするのではなくて、定期的にローテーションして入れ替えて。そうすれば、経験の平均化にもつながるだろうし。

なんてことを、まるで当事者が考えていないとも思えないし、何も考えていないのなら大問題。疲弊を防ぐ策をとらないと、そうでないと「見えないコスト」が積み上がってしまう。

明示的に部隊単位でローテーションさせるか、人事異動という形で結果的にローテーションにするかどうかは、それこそ場合によりけりだろうけれど。

「安い機体を別に用意すれば」の話もそうだけど、「目に見えるコストを下げようとして、目に見えないコストを上げることになりゃあせんか」という話は他にもありそう。といったところで、今回はこの辺で。

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