Opinion : 沼に突き落とす仕事 (2018/11/12)
 

自分は仕事や雑事を抱えていたので行かなかったけど、土曜日に尾久車両センターの公開があった由。事前の予告で「働く車両が集まる」とされていて、実際、訪れた知人によると保守用車が何両もいたらしい。

自分は保守用車大好き人間だから、それを見たら「おおお !」とテンションが上がったと思われる。でも、そういう人ばかりではないわけで、車両展示が少ないといって文句をいっていた人もいた模様。

趣味・趣向は人それぞれだから、万人が満足する展示内容にするのは難しい。それに、普段は営業運転に使用しているものを持ってくるのだから、車両繰りという問題もある。だから、内容によっては不満の声があがることがあっても仕方ない。

とはいえ、保守用車は保守用車で面白いんだけどなあ… と思ってしまったのも事実ではある。


たまたま自分は仕事で保守の現場を何回か取材しているから、保守用車が実際に働いている現場を見ている。だから、たとえば道床交換作業車が置いてあれば、「ああ、これがアレしてナニするのか」と、たちまち納得してしまう。

でも、保守の現場を見ていないと「???」となってしまうのも無理はない。そこで「これはこういうものだよ」と紹介するのは自分のミッション ステートメントのひとつだから、機会があればバンバンやりたいところ。

ただ、一般公開イベントで現物が目の前にあるのであれば、まずはそれを動かしてみせることはできないんだろうか、とも思った。実際、東鷲宮の特別公開では、レールを溶接して見せたり、レール削正車で実際にレールを削って見せたり、と気合が入りまくっている。

メジャーなところだと、マルチプルタイタンパー。タイタンパーをバラストに突っ込んでガーッと突き固めてみせるとか、(もしも可能なら) レールの狂い修正をやってみせるとかいう出し物があると、メカ好きの狂喜乱舞は間違いなし !?

逆に、道床安定作業車は動きが目に見えづらいから、デモって見せても分かりにくいかも。

LRA やロンキヤも、実のところ「珍しい車両を見ました」だけでは面白みは半分以下。あれの本当の見所は、レールの搭載・卸下にある。ただ、この手の作業は深夜にしかやらないから、捕捉するのはまことに難しいけれど。

そういえば。REXS の先頭車に付いているマニピュレータ アーム。知らない人が「レール交換作業車です」といってあれの写真を見せられたら、マニピュレータでレールをひっつかんですげ替えていくのだ、と勘違いされないだろうか。

なんていう心配が、REXS の紹介記事を手掛けた動機のひとつ。これの取材も、鷲宮で見た現物のデモも大変面白かった。

見ていて「華」があるし、エキサイティングなのはロングレールの交換。しかし、これは全工程をやると時間がかかるので、一般公開イベントでやってみせるのは無理そう。でも、切断や溶接だけでも盛り上がる。大変なのは溶接した後なんだけど。

ともあれ、そういう裏方の部分にまで目を向けてみると、また世界が広がる。いつも書いていることだけど、いわゆる「ネタ列車」ばかり追いかけるだけが鉄道趣味じゃない。いっちゃなんだけど、それはまだ沼の入口にもたどり着いていない。

ということは、自分のようなメカ系物書きの仕事はある意味、沼の入口に立ったばかりの人、沼の存在をまだ知らない人を、沼に突き落とすことなのかもしれない。


よくよく考えたら、これは鉄道趣味に限ったことではなくて、飛行機でも艦艇でも同じだった。どちらも、追求していけば行くほど際限がなくなる「沼」があるし、そこにいったんはまりこむと、とても面白い。

レンズ沼にはまった人だって、口ではいろいろいっていても、内心では面白い、楽しいと思っていることが多そうではあるし、それは他の分野にも共通する話。さて、自分の職域について、どうやって沼の存在を知ってもらい、突き落とそうか…

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