Opinion : 左警戒、右見張り (2020/4/20)
 

自分が実際に勤務していた訳ではないから「聞きかじり」ネタになるけれど。海上自衛隊に「左警戒、右見張り」という言葉がある、と書いている本があった。警戒も見張りも、意味は似たようなもんじゃないかと思いそうになるけれど、この標語の真意は別のところにある。

たとえば、右舷側に何か脅威が出現したというときに、皆が右舷側に集まって、その脅威にばかりかかりきりになれば、左舷側がお留守になる。それを戒めるのが狙い。

実際、皆が何か特定の方向を向いてしまっているとき、他の方向がおろそかになると、えてしてそっちから脅威がやってくる。ミッドウェイ海戦がいい例で、皆が低空の雷撃機に気をとられていたら、頭上から急降下爆撃機が突っ込んできた。

まあ、これは「対空警戒を見張員の目視に頼っていたからいけないので、対空捜索レーダーがあればよかったのだ」というのが教科書的解答かも知れない。でも、「皆が特定の方面にだけ目を向けてしまい、他の方面がお留守になるのはマズい」は、一般論として通用する。


なにも海軍に限った話ではないと思う。ビジネスの世界でも、ないだろうか。「その時点で勢いがある事業、重点と位置付けた事業に皆が集中してしていたら、別の事業分野で強力なライバルが出現して足元をすくわれた」とかなんとか。

パッと具体例を思いつかないけれど、そういう目に遭った会社は実際にあったのではないかなあ、というのが個人的な考え。ビジネス以外の分野でも、おそらく、同種の話は起き得る、あるいは実際に起きている。

だから「左警戒、右見張り」。全員が同じ方を向いて、そちらに注意を集中してしまうのではなくて、他の分野に目配りする人も維持しておく。すると、別の方面から奇襲を受けるリスクは減らせるのではないかと期待できる。

そういえば、撮り鉄業界でも、これは起こり得る話だった。といっても、単線区間以外でという話だけれど。つまり、「皆が下り方から来る列車にばかり気をとられていたら、反対方向から意外な被写体がやってきた」という類の話。身に覚えがありませんか、そこの貴方 (私はあるぞ)。

単線区間の本線上でこれが起きたら、正面衝突事故である ()

あと、これをわざとやるのがサンダーバーズ。ある方向から突っ込んできた機体に気をとられていたら、いきなり別の方向からソロ機が、しかも結構なスピードで突っ込んできて観客をビックリさせる。

これは「左警戒、右見張り」をおろそかにしている (っていうのか?) 観客の裏をかく、意図的な演出。ただし、一度やってしまうと覚えられて、次も驚いてくれるとは限らないけれど。


そういえば。飛行機の操縦訓練を受けていて、途中でエリミネートされるのは「一点集中型」が多い、と書いている本があった。飛行中に、どこか特定のところに注意が行ってしまい、他がお留守になるような人は操縦がうまくできず、えてしてエリミネートされると。

よくよく考えれば、クルマの運転にも似たところがある。たとえば、前方にばかり注意してスッ飛ばしていると、後ろから銀色のクラウンが忍び寄ってきていても、気付かない。うむ、ありがちだ。

それは極端な例としても、前方、側方の人やクルマの動きだけでなく、天候や路面の状態にも注意しないと危ない。昔に比べれば信頼性は桁違いに高くなったけれど、クルマそのものの状態にも注意を払わないといけない。

まぁ、銀色のクラウンに忍び寄られるぐらいなら、免許証の色が変わるとか罰金を取られるとかいう程度で済む。でも、話の内容によっては、「皆が特定の方向ばかり向いて話題にしているときに、ノーマークになっている方向からとんでもない脅威がやってきた」結果として、破滅的な事態になることもあり得る。

一応、「そんなことにならないように、注意した方がいいんじゃなーい ?」と警鐘を鳴らしてみたくなった。

Contents
HOME
Works
Diary
Defence News
Opinion
About

| 記事一覧に戻る | HOME に戻る |