Opinion : 飛び道具願望は事故の元 (2020/7/20)
 

お手軽に「国民性」という言葉を使うと、墓穴を掘りそうではあるけれど。

ただ、COVID-19 をめぐるあれこれを見ていたら、改めて国民性というか、宿痾というか、そういうものを感じてしまった。具体的にどんな話かといえば、「派手な飛び道具に頼りたがる傾向」というお話。

特にそれを感じるのが、「○○が COVID-19 に効くらしい」という話が出た途端に、それに飛びつく個人あるいは報道が続発すること。

「まだ確定したわけじゃないんだし、これから治験をやるんだから、ちょっと待て。その結果を見てからでも遅くない」と思うんだけれど。ところが、いきなり特効薬が出現したかのように勘違いして「どうして○○を使わないんだ」みたいなことをいいだす人もいる。せっかちだなぁ。

その一方で、地味な対策をコツコツと積み上げるのは嫌がられる。


6 年前に、入院生活を余儀なくされたときに実感したけれど。「患部を切って終わり」みたいな分かりやすいやつならともかく、地道な治療を延々とやらないといけない場合だと、どうしても「先が見えなくて不安になる」という心境は避けがたい。

幸いにも自分のところにはやってこなかったけれども、そういう心境につけ込んで「現代医学では解決できない」といって怪しげな「○○療法」を吹き込む輩がいる。もっと始末が悪いのは、それにつけ込んでカルト宗教に引っ張り込むこと。

どちらにしても「飛び道具願望」が強い人だと、コロッとひっかかってしまいそう。

そういえば、企業の経営がヤバくなり、その後で「V 字回復」に至るストーリー。これも似たところがある。「危機に瀕したメーカーが、そこで危機感をバネにして画期的な新製品を送り出し、一発逆転 !」みたいなやつ。

そこで派手に回復しないと盛り上がらない。「V 字回復」とはいうけれど「U 字回復」なんて聞かないでしょ。たまにはいうのかも知れないけれど。

機会があって自著にしたネタだけれど、「ゲームチェンジャー」願望も一緒。「○○さえ導入すれば一発逆転 !」みたいな夢を見てしまいがちな人ほど、このキーワードに釣られて「とりあえずハードウェアを導入」みたいな話になる。

でも、自著でも書いたように、筋論としては「勝てるゲームのルール」が明確でなければ話は始まらないわけで。したがって、実際には「とりあえずハードウェアを導入すれば、一発逆転の大勝利 !」とはならない。

Aegis Ashore の一件にも、似たものを感じる。これに限らずどんなウェポン システムでも、メリットもあれば限界もあるわけで、「これひとつ導入すれば、すべての問題が雲散霧消する」なんてわけではない。

ところが、そこで勘違いすると、「一発逆転の飛び道具」とみなしてしまったり、それの対極で「すべてのミサイルを撃ち落とせないなら意味がない」となったりする。どっちにしても極端に走りすぎですがな。


じゃあ、なんで「飛び道具願望」みたいな話になるのか。

ひとつには、先にも書いたように「地味な対策をコツコツと積み上げるのは嫌がられる」がありそう。時間も手間もかかるし、なかなか結果が見えてこないし。病気したときの服薬治療と似たところがある。

あと、なんといっても「画期的な飛び道具が出てきて危機を救う」みたいな場面には「華」がある。テレビドラマや映画だったら、この手のストーリーは不可欠のものといっていいかも知れない。そうでないと話が盛り上がらない。

でもねえ。その「飛び道具願望」に引っ張られると、カスを掴んだりインチキに引っかかったりする可能性が高くなると思う。

Contents
HOME
Works
Diary
Defence News
Opinion
About

| 記事一覧に戻る | HOME に戻る |