Opinion : 地方移住煽りに見られる落とし穴 (2020/7/27)
 

こんな記事があった。

テレワークした 20 代の 6 割が「都心生活」を希望することが明らかに (マイナビニュース)

「そりゃそうだよなあ」と思った。


今回に限らず以前から、何かある度に「○○をきっかけにして地方移住」「○○をきっかけにして U ターン / I ターン」という類の記事が出てくることがあった。と記憶している。なんとなく、「地方移住」あるいは「U ターン / I ターン」を盛り上げるための手段として、時事ネタを利用している感がある。

自分みたいな物書き業の場合、「どこに住んでいても仕事できるんじゃないの ?」と思われそうではある。実際、新幹線や飛行機で移動しているときでも仕事、なんてことはままある。はなはだしきは「サンディエゴ空港のロビーで、待ち時間の間に某誌の特集原稿をダダダダと書いていた」というやつ (実話)。

しかし実際に住んでいるのは東京 23 区内。「どこに住んでても仕事はできそうなものなのに、なんで ?」と訊かれそうだけれど、違うんだな、これが。

家で仕事をする職種だからこそ、却って利便性が大事なんである。取材などでお出かけする機会が多いから、新幹線の駅、あるいは空港にサッと出られる方が便利。これはけっこう大事な話。実際、新幹線で東京駅や品川駅に着いた後で「あー、さらに自宅まで 1 時間以上かかる」となれば、それだけで萎える。

あと、国会図書館で調べ物をすることもあるから、それがあまりに遠いと不便。今は、COVID-19 のせいで抽選制になってしまい、迂闊に行けなくなってしまったけれど (おにょれコロナめ)。

そして、本やその他のあれこれをサッと調達できることも大事。最寄りのヨドバシカメラまで 30 分とかからないのは、たいへん重宝である (そこか ?)。秋葉原にはパナソニックの修理拠点があって、Let's Note がいかれてしまっても、すぐに修理してもらえる (これは何回か御厄介になっている)。

これ、みんな 23 区内に住んでいるから実現できる話なのである。

冒頭で引き合いに出したテレワークの話も、たぶん、似ている。家で仕事をする場面が多くなるということは、家にいる時間が増えるということ。つまり自宅が「寝に帰るだけの場所」ではなくなる。すると、住む場所に対して求められる利便性・快適性のレベルが上がってきても不思議はない。

あいにくと、単純な「地方移住」では、それが失われる可能性があるのが実情だと思う。だから冒頭の記事みたいな話になるのでは。


それともうひとつ。実はこっちの方が大問題かも知れない。

改めて COVID-19 騒ぎで浮き彫りにされたけれど、「相互監視と口コミ情報網の恐ろしさを考えると、そんなところには迂闊に住めたもんじゃない」と考える人が出てきても不思議はない。COVID-19 で死ななくても、生きながらにして社会的に抹殺されるのでは、たまったもんじゃない。

そういう話をそのままにして、何か使えそうなきっかけがある度に「地方移住」を煽る記事を書いたり、地方自治体がそれを呼びかけたりしても、そりゃ無理ってものではないのかなあ。いずれは元鞘になってしまうと思う。

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