Opinion : 組織の風通し (2020/11/23)
 

先日、Twitter で「笑いが出ない組織は事故が起きる」の話を書いたら、たぶん個人的最高記録の拡散になった。普段、バズることを意識してもいなければ狙ってもいないせいもあり、「通知が止まらない」なんて状況はほとんど初めてといっていいぐらい。

ただ、そうなってみると逆に、考え込んでしまった。この投稿が拡散されたりふぁぼられたりするのは、「笑いが出ない組織は事故が起きる」を身にしみて実感してる人が多いことの裏返しなんじゃないかと。これはかなり深刻な話なんじゃないか。


元ネタの話に戻ると、「そうなるだろうな」というのはなんとなく理解できる。雰囲気がギスギスしていたり、迂闊にものをいえない雰囲気だったりすると、なにかまずいことがあっても口に出せなくなりそう。

それでは本当に事故の元になる。なぜかといえば、まずい状況になっているという指摘がなされなければ、ストッパー欠如の状態になってしまうから。

あと、些細な失敗でもすぐに怒鳴りつけられるようでは、これもまずい。怒鳴りつけられないように失敗を避ける努力をするだろう… というのは物事を良い方向に考えすぎで、むしろ萎縮させてしまう悪影響の方がデカい。

それに、大きな事故や失敗を避けるには、その前段階の、いわゆる「ヒヤリハット」事例について皆で情報共有する方が望ましい。ところが、「ヒヤリハット」の度に怒鳴りつけられるようになれば、それを口にするのが憚られて、結果として失敗情報の共有が成り立たなくなってしまう。

失敗した話、あるいは気付いたことなどをノートに書き付けて、誰でも見られるように置いておくのは、職場の情報共有・経験共有に際してポピュラーな手法だと思う。ただ、それが成り立つ前提条件は「ヒヤリハットや失敗談を口にできる雰囲気がある」あるいは「分からないことを口に出して質問できる雰囲気がある」こと。

それができないと、個人個人がそれぞれで本当に失敗するまで、「何をすると失敗につながるのか」「失敗の予兆に何があるか」といったことが分からない。この「失敗」は「事故」に置き換えてもいい。

失敗した話やまずい話を口に出せず、成功した体験談ばかりが幅をきかせているような組織は、実は自壊する原因を自らこしらえている、と思う。なぜかといえば、そういう雰囲気は前述した理由により、却って事故や失敗を生み出す土壌になってしまうはずだから。

民航の機長さんが書いた本で、出発前に運航乗務員と客室乗務員が集まってブリーフィングする席での「雰囲気作り」に言及しているものがあった。いわく「いかに笑ってもらうかを考えていた」。別の機長さんで、「ちょっとくだけた… ね」と書いている人もいた。なるほど。

これもやはり「話しやすい雰囲気作り」が主眼だという。そういう雰囲気を作っておけば、何かまずいことがあっても躊躇せずに機長のところに報告が上がる、という理由なのだという。CRM (Crew Resource Management) あるいはクルー コーディネーションの見地からすれば、当然の話ではある。


組織の雰囲気作りをどういう方向に持っていくかという話になると、それは「ボス次第」。なぜかといえば、下が「笑いが出る雰囲気」「まずいことでも口に出せる雰囲気」「質問ができる雰囲気」を作ろうとしても、ボスが「そんなのダメだ」といえば、全部吹っ飛んでしまうから。

あえて実名を出してしまえば、ハイマン・リッコーヴァー提督とウィリアム・ラボーン提督と、どっちの下で働く方がいいですか、って話になる。

無論、ラボーン提督の仕事の仕方が雑だったなんてことは断じてない。ちゃんとポラリス計画を成功させているのだから。ただ、部下が仕事をしやすかった、のびのびと仕事をできたのはラボーン提督の方ではないのかな、とは思うわけ。

なんて話はともかく。短期的には、ピリピリ・ギスギスした組織でもなんとか回っていくかも知れないけれど、長期的には「笑いやユーモアを欠いた組織」って、ちゃんと回っていかなくなるんじゃないだろうか。組織の長に立つ人には、そこのところをちょいと考えてみて欲しいと思うのであった。

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