Opinion : カタチだけでは問題解決にならない (2020/12/21)
 

何か問題を解決するのに、ハードウェアが必要。これはよくある話。

しかし、ハードウェアはあくまで道具であって、「それをどう活用するか」という運用コンセプトが大事なのも事実。それに、ハードウェアを取得したり維持したりするにもおカネや人手がかかるのだから、「手持ちのリソースをどう配分するか」という問題も関わってくる。

とどのつまり、ハードウェアを買ってくるだけでは問題解決にならない。にもかかわらず、ハードウェアを手に入れることにばかり血道をあげたり、ハードウェアさえあれば問題解決だと勘違いしたり、という人が後を絶たない。

情報機関を作ったり、そこに人をアサインしたりするだけではダメで、そこから上がってきた情報分析を政策や戦略に有効活用しないと意味がない、のと似ているかも知れない。そういう意味で「デジタル庁」にも危惧を感じる部分はある。


いい例が電気自動車 (EV)。もちろん、それ自体はゼロ エミッションであるけれども、電動機を駆動するためには電源が必要で、それは充電池。すると、電力供給源たる充電池を充電する電力を、どうやって手に入れるかが問題になる。

その電力が、火発で化石燃料や天然ガスや石炭を燃やして作られたものであれば、トータルのエミッションはなにがしか、発生する。サルには分からないかもしれないけれど、人間なら分かる理屈。

なんだけれども、そこのところを無視しているのか、あるいは目をつぶっているのか、「とにかく EV を導入しろ」ばかり連呼する人がいるのが実情。面白いことに、なぜか HEV や PHEV は眼中にないようで、純 EV ばかりプッシュしている様子 (でなければ「ノルウェーを見習え」とはいわないわな)

でもねえ。最終的な目標が CO2 排出の削減であるならば、「トータルで CO2 排出削減が最大になる」「手持ちのリソースをうまく配分できる」「経済的ダメージを最小にする」のバランスがとれた施策でなければならない。

そこで「EV 導入」というのはピースのひとつでしかないのに、そればかりプッシュするのはバランス感覚を欠いている。というか、EV というアイコニックなハードウェアを揃えて、「形を整える」ことしか考えていない。「まず形から入る」という言い方があるけれど。形が入り口ならともかく、形を整えただけで満足してしまえば、成果が上がらないか、または不十分で終わる。

AAMDS の代替案をめぐるスッタモンダにも、似たものを感じる。そのとき、そのときのトレンディな脅威を持ち出して、その脅威に対処するためのハードウェアが必要だといい、調達・配備が決まると安心してしまう。無論、実際にそれを運用する自衛隊の現場は話が違うはずで、これははあくまで、政治・世論レベルの話。

ところが、「脅威を排除するためのハードウェア」は EV と同様に、ピースのひとつでしかない。「最終的な勝利条件 or 負けない条件」という終局的な大目標が明確で、それを戦略・作戦・戦術レベルに落とし込んで初めて、「脅威を排除するためのハードウェア」に出番が巡ってくる。

そして、終局的な大目標が不明確だったり、戦略・作戦・戦術レベルで誤りがあったりすれば、優秀なハードウェアだけあっても国の護りの役に立たない。リテラシーが足りない人に、最高性能・機能てんこ盛りの情報機器を渡すようなものである。

では、なんで「脅威を排除するためのハードウェア」があると、とりあえず安心してしまう人が出るのか。そこで考えた仮説は、「戦術的勝利を積み重ねていけば戦争に勝てる」と同じデンで「あらゆる脅威を排除していれば戦争に負けない」という考えがあるんじゃないだろうか、というもの。

いや、それ違うから。まず、自国が優位にあるポイントを活用して、敵国の "重心" をつぶせるようなゲームのルールを考えて、実行できるようにしないとダメだから。


自著などで何度も書いていることの繰り返しになるけれど、ハードウェアよりも先に、まず「達成すべき目標」と、そこからのブレークダウン、そしてそれを実現するためのリソース最適配分という課題を片付けないとダメ。

そしてリソース最適配分のためには、手持ちのリソースがどれだけあるかを願望抜きで評価した上で、優先順位を明確化する必要がある。「あれもこれも」と総花的にリソースをばらまいても、たぶんすべてが中途半端に終わって総倒れになる。

軍事作戦と一緒で、重点は明確にしないといけないし、手持ちの戦力は経済的に使わないといけない。でも、これが日本の政官界ではいちばん苦手なことなのかもしれないね…

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