Opinion : 数字に出ない能力 (2021/2/22)
 

いま書いている原稿の関連で調べ物をしていたら、(軍隊の) 能力 (capability) を構成する要素を並べた図に行き当たった。Defense System (weapon や ammunition など)、Enabler (logistics, facility, maintenance など)、Personnell (training, education, edployment management など)、Strategy/Doctorine/Plans、Institutional Suport (resource management, human resource management, public relations など) といった具合で、構成要素は実に多種多様。

世間一般に意識されやすいのは、装備品の性能であるとか、頭数であるとか、あるいは教育訓練の度合であるとか、そんなところだろうと思う。それはもちろん重要な要素であるけれども、それだけじゃないというのが、件の図を見ると理解できる。

ただ、そのすべてに手を広げて書くのは無理な相談なので、少し的を絞ってみることにして。


そもそも、なんでこんなことを書こうと思ったのかといえば、「銃器はメンテナンスフリーでなければいけない」なる主張をしている人がいる、という話が流れてきたせい。そりゃもちろん、メンテナンスフリーは極論だけれど、メンテナンスにかかる負担が少なくて済むのなら、それに越したことはない。すると、整備性というファクターが出てくる。

そこで話を脱線させると。E7 系の報道公開があったときに、いろいろ担当の方に伺った話の中でも印象的だったのが、「床下側面のフサギ板 (側カウル) のうち、頻繁に開けるものはボルト止めではなく、ラチェット止めにしてありますという話だった。

その後、取材で長野新幹線車両センターに伺い、交番検査の現場を見せていただいたけれど、確かにフサギ板が外されていたのはラチェット止めになっている部位。簡単に脱着できるようにするのもまた、整備性に関する配慮のひとつ。それにボルト止めと違って、外したボルトがどこかに行ってしまう、なんて事故が起こらない。

あと、新幹線電車についていえば 500 系以降、床下機器はなるべく側面からアクセスできるようにする (いいかえれば、床下に潜り込まなくても済むようにする) という思想が定着している。これもまた、整備性に関する配慮のひとつ。狭い場所で、無理な姿勢で作業をするよりも、普通に立った状態で作業できる方が作業環境が良いのは当然のこと。

そういう観点から F-35 を見ると、「なるほど」と思う。電子戦や通信・航法関連の電子機器室は胴体両側面、レーダー関連の機器は機首に収まっていて、地上に立ったままでアクセスできる。E7 系と同様、頻繁に開けるアクセスパネルはラチェット止めになっている。

あと、コンピュータ機器室や OBOGS (On-Board Oxygen Generation System) はコックピットの床下。え、「それではアクセスしづらいだろう ?」って ? ところがどっこい。首脚収納室に頭を突っ込めばアクセスできる場所だから、たぶん問題ない。

整備性の良さとか、それが絡むところでターンアラウンド タイムの短さとかいう話は、仕様一覧には出てこない。でも、手持ちの機材を有効活用する観点からすれば重要な要素だし、ひいては実効戦力を増やす要素にもなる。

ちょっと極端な例を挙げれば、可動率 40% の機体が 100 機いるのと、可動率 80% の機体が 50 機いるのでは、可動機の数は同じなんである。そこにターンアラウンド タイムの長短という要素が加われば、逆転もあり得る。

整備性が悪くて可動率が低いのに、ターンアラウンド タイムが短い、というのは考えにくいから、そういう話になる。


ところが、整備性の良いモノを作ろうとしても、整備の現場で何をどういう風にやっているかが分からないと、たぶん実態に即したモノは出来てこない。だから、開発側が早い段階から運用現場の声を聞いていかないと、本当に整備性の良いモノは出来てこないんじゃないかと思う。

昔の話だけれども、ダグラス AD スカイレイダーを開発している途中、エド ハイネマンは艦隊の現場に出て、使われている環境を見たり、現場で話を聞いたりしていたという。開発側が最初から、そういうやり方で行かないと。

そして、そういう「諸元一覧」に現れない部分が案外と、戦力としての有用性を左右するのかも知れない。開発側の配慮が足りずに現場に余計な負担をかけて、それを現場の頑張りでなんとかするようなことばかり繰り返していると、どこかで破断界が来るんじゃないだろうか。

「極限まで無駄を省く」という思想に染まりすぎると、その「諸元一覧に現れない能力」のための配慮あるいは余裕といったものまで、へつってしまう結果になるんじゃないかと心配で。それでは結果的に能力をへつることになる。

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