Opinion : "好き" がもたらすパワー (2021/6/14)
 

といっても恋愛話ではなくて (誰もそんなの期待してない)。

いつだったか、「日本のアニメにのめり込んだ結果、日本語まで上達してしまった外国人」なんて話を伝え聞いた。ような気がする。この手の「好きな○○のために、ものすごいエナジーが湧いてきて…」という類の話、いろいろな分野にありそうな話ではある。そして、その手のエナジーは、うまく使うと良い意味で「背中を押す」力になるんじゃないだろうか。

たとえば、レーシングカーの設計者になりたい、飛行機の設計者になりたい、といった類の話があれば、「そのためには何を勉強しなければならないか」が分かってくる。この辺の分野だったら多分、物理学と数学の話はプライオリティが高い。もちろん、材料力学にも通じていないと。

そういう、何か具体的な目標があって、それを実現するためにお勉強するとなれば、単に「就職に有利そうだから」みたいな漠然とした理由でやるよりも、はるかに馬力が出るんじゃなかろうか。


そこまで大上段に振りかぶらなくても、「○○を生で見たい」という欲求が背中を押して、それまで「とてもとても無理でしょ」と思っていたソロの海外旅行を断行してしまった、なんて話もありそう。

え、それは自分のことだろうって ? あーあーきこえなーい

先に挙げた「将来、○○になりたい」というところまで具体的でなくても、「自分が好きな○○のために」という動機付けがあるだけで、気分が盛り上がるだろうし、調子が上がるもの。

そこでちょいと煽ると。英語のリスニングが得意になれば、海外の軍やメーカーが出している公式動画を見るのが 3 倍は楽しくなると思う。日本で、どこの誰が作ったとも知れない、ケバケバしい見出しの文字と扇動的な内容が踊る動画を見ているよりも、ずっと身につくものがあるだろう。なんてったって一次情報ですよ ?

語学は「知らない世界を知るための窓」みたいなところがあるけれど、他の学問だって同じこと。なにもミリタリーに限らず、鉄道だろうがクルマだろうが飛行機だろうが同じである。他所の世界のことは知らないけれど、この手の「乗り物系趣味」って往々にして、世の中にあるたいていの学問が、何かしらの形で関わっているものだし。

たまたま自分の周囲にはカメラ好き・写真好きが多いけれど、これなんか実は、気象・天文の知識だって絡んでくるんだかんね ?
あと、走行中の列車を真横から、ドンピシャ 1 両だけフレームに納めたいといったとき、どれだけの画角が必要か。実は線路までの距離とハコの長さが分かっていれば、後は三角関数 tan の問題。撮り鉄に三角関数が影響する一例。

してみると、何かを学ぶための動機付け、エネルギー源を持っているという点で、個人的関心があって、のめり込める対象を持っている人は有利なんじゃなかろうか。

それに、その「何かを学ぶ」が、当初には想像もしていなかった分野に飛び火しないとも限らない。たとえばの話、「趣味を通じて収集したデータの整理・分析・活用を効率化するために、○○を勉強するようになった」とか「薄い本を作るために DTP を覚えた」とかなんとか。そうやって人生は豊かになる (懐具合のことは知らぬ)。


すると難しいのは、その「個人的関心があって、のめり込める対象」を持っていない人はどうするかということ。なにせ個人的関心が根底にあるから、周囲から「○○の勉強に有利だから、△△に首を突っ込んでみたら」は成立しない。

それでは「大学入試問題に取り上げられるから、ぜひともうちの新聞を」と宣伝する新聞社と同じになってしまう。周囲にアピールするためのキャラ作りとして、手っ取り早く「尊敬される物知りのヲタク」を目指すのと同じになってしまう。

現実問題として、誰がいつ、どんな分野に関心を持つかなんて、本人どころか周囲にだってコントロールできない部分がある。それまで見向きもしなかったものに対して、ある日突然… という経験、おありの方は少なくないのでは。

あと、のめり込みすぎて勉強が疎かになってしまっても、それはそれで、また問題があるわけで。それで周囲から睨まれれば、結果として趣味そのものまでやっていられなくなる。となると、先に書いたような話って、かなりの部分「周りの人間がどう接するか、どう誘導するか」にかかっているような気もする。

たぶん、これには明快な答えはなくて、「興味の押しつけはしないで、でも本当に興味を示したら芽を摘まないで」としかいいようがないのが難しいところ。ぬう。

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