Opinion : 愛好の対象として見る vs コンテンツとして見る (2021/7/19)
 

東京五輪のうち、宮城県の会場で行われる試合を観戦する人のために、事実上の夜行となる臨時列車が東北新幹線に走る。というプレス発表があったので、「新幹線 EX」誌で担当しているニュース欄の原稿にも入れた。

ところが、それが載った雑誌が店頭に並んだときには、件の臨時列車は運行中止が決まっていた。この辺、紙媒体ではつらいところだけど、次号では「中止になった」という話が入る。

"東京" 五輪なのに宮城県の会場で競技をやるのは、千葉県にある東京ディズニーランドどころの騒ぎではないけれど、まぁそれはそれとして。


で。件の夜行運転の話が出たときから、「競技観戦と関係ない人が押し寄せるんじゃないの」という心配をしていた。最初の発表があった日だったか、「すでに、件の列車に乗る算段をしてるユーチューバーが 10 人ぐらいいるんじゃないの」とツイートしたけれど、実際に何人いたかどうかは知らない。(数える術もないし)

ただしなんにしても、その手の人が押し寄せる心配が、中止の判断に影響したのは確かであるらしい。河北新報の記事から引用すると、「大会組織委員会が五輪の深夜運行という希少性から、鉄道ファンが乗車する可能性を挙げた」とのこと。

日中でもどうかと思うけれど、夜間の列車で、一晩中カメラを回しながらブツブツ喋られたりしたら、近くにいる人にとっては大迷惑であろう。

だいたい、報道公開の現場でも、スチールならサッと撮って終わりなのに、誰かがスマホで動画なんぞ撮り始めると、時間がかかってしょうがない。Web 媒体をやってると、動画も欲しくなるのは分かるけど、それならスチール主体の取材陣とは別枠にして欲しい。

おっと話が脱線した。要は、今回の件に限らず「特定の層を狙った臨時便が、狙った層と違う利用者を引きつけてしまう」という問題が本題。たぶん、他所の業界でも似たような話はあるんじゃないだろうか。

五輪観戦という明白なターゲットがあれば、観戦ツアーとセットにして「ツアー専用列車」に仕立てるのが、もっとも無難な解決。しかしあいにくと COVID-19 騒動の状況下では、観戦ツアーを売り出すこと自体が難しい。もしも無観客開催になりましたなんていったら、ツアーを企画する側は損しかないし、それでは二の足を踏んでしまう。

「全席指定」にすれば、少なくとも定員以上の人が乗ることはなくなるけれど、五輪と関係ない人で瞬殺になったのでは洒落にならないから、これもボツ。結局のところ、通常の枠組みを使って、かつ本題と関係ない利用を止めるための "銀の弾丸" は、なさそうだという結論になってしまう。

それなら運行そのものを止める方がマシ、という結論になるのは無理もないし、今回の決定はそれでよかったのだと思う。


以前から何度も書いている「ネタに群がる撮り鉄」の話も、今回の話も、もしかすると共通する因子があるんじゃないか。なんてことをふと思った。

それは何かというと、ついつい「鉄道ファン」とひとくくりにされてしまうけれど、実はその中に「鉄道そのものが好きな人」と「コンテンツとしての鉄道が好きな人」がいるんじゃないの、という話。で、希少性のある列車に群がって動画を撮り、ネットで公開して稼ぐようなのは、たぶん後者。

なんて書くと「そんなことはない、自分は鉄道愛好家で、それが動画も撮るようになったんだ」という反論が出てくるのは容易に推察できる。でも、スチールにしろ動画にしろ、いわゆるネタばかり追っかけてるような話を見聞きすると、「それしか興味ないのん ?」といいたくもなる。

ネット上でウケるためのネタ、トレンドに乗るためのネタ、周囲の話題に置いて行かれないようにするためのネタ、動画を投稿して稼ぐためのネタ。そういう領域になってしまうと、そりゃもう「対象に対する愛好」とは別次元の話なんじゃないだろうか。

そういう生き方を否定するつもりはないけれど、それはもう「愛好家」とは別枠なんじゃないかなぁ、とは思った次第。ほら、似たような話があるでしょ。インスタ映えするために何かするとかいう。

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