Opinion : 特定の視点だけにこだわるべからず (2021/10/18)
 

北海道新幹線というと、「新函館北斗駅の場所が云々」といわれることが多い。確かに、函館市内から移動すると、電車でもクルマでもそれなりに時間がかかる。どちらの方法でも行き来したことがあるので、それは分かる。

でも、それは「鉄道ですべてを完結させる」という発想だからでは。開業に際して、自分は「新函館北斗駅から先はクルマ、という手もアリだし、それだからこそ北斗市は駅前にデカい無料駐車場を整備したのでは」と書いた。(今は有料になっちゃったけれど、新幹線利用者への優待はある)

現実問題として、新函館北斗駅は国道 5 号線からそんなに遠くないので、ここからクルマを使えば、リーチできる範囲は広い。大沼なんてあっという間である。実際にやったことがあるから分かる。

この新函館北斗に限らず、岐阜羽島、本庄早稲田、くりこま高原、新花巻など、駅のそばに駐車場を充実させて「新幹線 + クルマ」を普及させている事例はいろいろ。そうやってみると、ことに整備新幹線は「地を這う飛行機」みたいなものなのかもしれない。つまり、駅は空港みたいなもんだということ。

クルマでアクセスしても何でも、要は新幹線の利用が増えればよろしい。そういう考え方もアリではないか。「何が何でも鉄道だけで完結させなければ納得できない」となると、受け入れがたい考え方かもしれないけれど。


特定のモードに固執して他のモードのことを忘れてしまったり、さまざまなモードを組み合わせて総合的に問題を解決する発想を忘れてしまったりという事例は、他の分野でも見られそう。

たとえば「空の護り」の話。主役は戦闘機だから、ついつい「仮想敵国の戦闘機よりも性能面で優越した戦闘機を」という発想にばかり目が行ってしまう。もちろん性能が良いに越したことはないけれども、そこにだけ目が行ってしまうのは、果たして正解なのかどうか。

あちこちで書いていることだけれども、第二次世界大戦中にいわゆる英本土航空決戦でイギリスが負けずに乗り切れたのは、なにもハリケーンやスピットファイアの性能が勝っていたからとかいうだけの話じゃない。

多少、分かっている人だと、そこで「レーダーがあったから」という話が出てくるけれど、それだけでもまだ不十分。個別のモードにばかり目が行って部分最適化に邁進する発想に囚われると、そこでまず「性能のいいレーダーを」ばかり考えてしまう。

でも、本当に重要なのは、「レーダーを中核とする防空指揮管制の枠組み」が整備されていて、かつ、それが機能したことにあったはず。イギリスが本当に偉かったのは、レーダー網を整備したことよりも、そこから上がってきた情報を整理する「フィルター室」と、指揮統制の仕組みを整備した点ではないか ?

そうやって状況認識がちゃんとできれば、あとはどこの基地の戦闘機に対してどこに行けばいいかを指示するという話になる。どんなに性能のいい戦闘機でも、まず会敵できなければ仕事にならないのだから、戦闘機に対して「どこに行くべきかを指示できる仕組み」を整備するのは重要なこと。いくら敵機に対して優越する性能があっても、敵機と相見えなければ出番はない。

そのことは、後年に攻守を入れ替えた形で立証されている。英空軍の夜間爆撃に対してドイツ空軍がどう迎え撃ったかを考えてみればいい。どちらも、やっていることの基本的な考え方は同じなのだなと分かる。戦闘機やレーダーみたいな目立つ要素だけでなく、状況を整理する手段も、指揮統制の能力も大事。

「こんなに立派な指揮所がありました。防空を軽視していたわけではありません !」といっても、それはあくまで構成要素のひとつ。それだけでなく、使用している装備に対する長所や短所の見極め、TTP (Tactics, Techniques, and Procedures) の確立、報告を上げたり指令を下達したりするための通信、といった具合に、各分野のハード/ソフトがちゃんとしていなければ、結局は機能を発揮できなくなる。

つまりは、さまざまな構成要素を組み合わせた「システムの力」ということ。「防空に関する確固たるビジョン」を具体的なシステム作りに落とし込めたから、英軍は英本土航空決戦を乗り切れたのだと思っている。

陸戦の分野には「諸兵科連合」という言葉がある。歩兵科でも機甲科でも砲兵科でもなんでも、特定の兵科だけあれば勝てるって話ではなくて、それぞれに得手不得手がある。だから、それらを組み合わせるだけでなく、適切なタイミングで適切な対象に対して適切な使い方をできる仕組みを整えること。それこそ本当に重要なところではないかと。特定の兵科にだけ目を向けて「質的向上」をいっても、部分の最適化は全体の悪夢である。


全体最適といえば。異なる交通機関を比較するとき、基本は所要時間の比較で、それはヴィークルが出発地から目的地まで移動するための時間を比較するのが通例。それは中核となる構成要素ではあるけれども、そこだけ見ていると、本当に問題になる「総移動時間」というファクターを忘れるのではないか ?

移動そのものが速くても、前後の待ち時間が多ければ、総移動時間は伸びてしまう。時間的な余裕を見ないといけない要因があれば総移動時間は伸びてしまう。速く移動するために重要なのは「諸兵科連合」ならぬ「諸モード連合」だけど、その中の特定の要素だけに着目しても全体像は見えない。

Contents
HOME
Works
Diary
Defence News
Opinion
About

| 記事一覧に戻る | HOME に戻る |