Opinion : 異なる交通モード間の状況認識共有 (2022/2/28)
 

東日本大震災が発生して首都圏の電車が軒並み止まってしまったとき、東海道新幹線の輸送指令は、「これでは東京に向かう列車は出せない」と判断した。という話があったそうだ。(詳しい話は「新幹線 EX」の Vol.26 に載っている)

物理的に運行が可能か、使える車両や乗務員がいるかというだけの話ではなく、新幹線を降りた先のことまで考えて意思決定しないといけないのだから、指令というのは大変な仕事だと思った。確かに、1 列車に定員いっぱいに乗せれば 1,323 名、それが何本も到着すれば、結構な数の人が送り込まれることになってしまう。

なんでこの話を思い出したかといえば、先日、新千歳空港のアクセスが豪雪で麻痺状態になったときに、到着便の方は、滑走路の除雪ができたためにドンドン降りてきてしまった、という出来事があったから。その結果、何が起きたかといえば、何千人もの人が空港内に滞留した。

それより前、やはり豪雪で千歳線が運行できなくなったタイミングで、たまたま自分が新千歳から離脱したことがある。空港まではたどり着けていたから、あとは飛行機が飛ぶかどうかというだけの問題だったが、逆方向は話が別。バス乗り場にえらい待ち行列ができているのを目撃した。


先日の件では結局、ANA みたいに「新千歳空港内で多くの人が動けなくなっているので、運航見合わせ」という判断を下したケースもあった。ただ、そこで「遅きに失した」と責めるのも、また違うと思う。

エアラインとしては当然、できることなら飛ばしたい。空港へのアクセス手段はいろいろある。その一部でも生きていれば、それを利用する人もいると考えてかかる必要があるだろうから。

空港が完全に出入り不可能になったのであれば、それは話が別。でも、それは関空やセントレアで連絡橋が使えなくなった場面ぐらいしかなさそう (これらもフネという手があるにはあるけどね…)。

とはいえ、それも程度問題。度が過ぎる滞留になれば、運航を継続するのはまずいという判断になる。すると問題になるのは… というのが今回の本題で、「関連する交通モードを担当する組織同士での、状況認識と連絡・調整のメカニズムは ?」という話。

つまり、アクセス手段となる鉄道やバス、空港ターミナルビル、そこに飛行機を飛ばすエアライン、出入りする機体の交通整理を受け持つ管制。みんな別々の組織だから、意識して相互の状況認識や連絡・調整を図る仕組みを設けないと、という話になってしまう。

それに、それぞれ領分が違うから、極端な話、JR からエアライン各社に「もう飛ばすのをやめて」と要請できるかといえば、それは難しいんじゃないかと。管制にしても、滑走路が使えないから飛ばさないで、とはいえても、動けなくなった人がターミナルに滞留しているから飛ばさないで、とはいえないだろうし。

同じモード同士であれば、相互に関わりがあるところで状況認識や情報共有の仕組みを作る事例はある。自分が現場を見た経験があるところでは、東海道・山陽新幹線の指令所に、九州新幹線の運行状況を示す装置を設置して、リエゾンを担当する JR 九州の指令員も常駐している。相互乗り入れをしていて相互に影響しあうのだから、こういう仕組みは必要。

では、異なる輸送モードの間では、この種の連携ってどこまで行われているのかしらん ? なんていうことを、新千歳の状況を聞きながら考えていた。もっとも、ありとあらゆる場面で必要になるわけでもなくて、相互に影響しあう度合が大きい場合に限られるだろうけれど。


実のところ、異なる交通モードの間で一元的な統制や指令をやるのは無理な相談だと思われる。誰がどういう形で、どういう系統を構成して実現するんだ、と考えただけで頭痛が痛くなるから。とはいえ、せめて相互の状況認識・情報共有だけでもできていれば、というのが正直なところ。

少なくとも、適切な判断をするための材料を共有していれば、当事者間で判断のベースがズレることはなくなるわけだから。

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