Opinion : 正しいタイミング、正しい対象、正しいやり方 (2022/4/18)
 

ニュース系 Web サイトの仕事をしていると、「ネタが入ったら、どんだけ速くライブするかが勝負」みたいなところがあると思われていそうではある。実際、ことに新製品発表みたいな記事では、そうであろうと思う。

ところが、すべての記事にそれが当てはまるわけでもないようで、ときにはタイミングを測ることもあるらしい。「らしい」というのは、自分は寄稿はしていてもあくまで部外者であり、ライブするタイミングのあれこれについて、詳しく聞いているわけではないから。

とはいえ、「内容だけでなくタイミングも大事」という話はあるみたいね。というところから今回の話に進めることにして。


杉山隆男氏の「兵士」のシリーズを読んでいると、しばしば「スキルを高めたい」といって真剣に訓練に励む自衛隊員の話が出てくる。自分は自分なりに仕事に取り組んでいるけれども、まだ「ぬるい」なと思うこともしばしば (←

ただ、スキルを高めるとか、戦術教育の場数を踏むとかいうのは、あくまで「現場」レベルの話。無論、それがどうでもいいなんてことはない。大事なこと。ただ、現場レベルでいくら努力しても、それだけで解決するんですか、という疑問もある。

つまり、個人個人がいくら高い能力を身につけていても、それを正しいタイミングで、正しい相手に対して、正しいやり方でぶつけないと、真価を発揮できないんじゃないかと。そして、それをやれるのは上層部の判断次第。

何かで「戦略の誤りは戦術では取り返せない」という趣旨のフレーズを読んだ記憶があるけれども、まさにそれ。ただし戦略的な誤りだけでなく、たとえば運用構想とかドクトリンとか、そういう分野の誤りもまた、現場レベルのスキルや戦術ではカバーできない話なんじゃないかしらと。

あと、個人がスキルを高めるための訓練について、どういうゴールを設定して、どうやって進めていくか。これもまた、上位レイヤーで間違いが起きると致命的な結果につながるところ。間違った方向性で訓練を熱心にやってスキルを高めても、それが本番で有効性を発揮できないのでは困ってしまう。

そして、そこでもまた、運用構想とかドクトリンとかいう、上位レイヤーにおける原理原則の話が鍵になるはず。

ハードウェアにしてもしかり。性能の良し悪しが「どーでもいい」というわけではないにしても、それだけにこだわるのはどうかと。正しい目標に、正しいタイミングで、正しいやり方で使わないと、優れた性能でもフルに発揮できないのでは。

実のところ我が国、上位レイヤーにおける誤りを、現場の頑張りでなんとかリカバリーして乗り切ってしまい、結果として上位レイヤーの誤りを正す機会を逸してるんじゃありませんかね。と思うことも。つまり「結果オーライ」に安住してしまう。

少し前に書いた電力供給能力不足の話なんかも、行き着くところはそこ。現場が頑張って節電してしまうから、上の方では「これでいけるじゃないか」と思ってしまい、結果的に根本的な問題改善が進まなくなる。そこに、リスクを避けたがる意思決定権限者がいたり、財布の紐を握っている人が手当たり次第に金を出し渋ったりすると、まあ、その。


といったことを考えていると、これは決して他人事ではないことに気付く。自分の仕事は物書きだから、著作を通じて何かを知ってもらうとか、何か影響力を発揮しようと試みるとかいうことがメイン。これもまた、単に「字」を書くだけの話ではなくて、それを投下するタイミング、対象、やり方を考えないと、意図を実現できなくなる。

実際、あるタイミングでは通りそうになかった企画やアイデアが、何か周辺状況の変化によって受け入れられる、なんてこともあるのだし。すると、普段からしっかり爪を研いでおいて、いざというときに強力に引っ掻けるようにしておくことも重要。

なんのことはない、他人事のような調子で書いていたけれど、キモとなる部分は他人事でもなんでもなかった。

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