Opinion : Z… もとい財務省の怪文書を見て思ったこと (2022/5/2)
 

日曜日の朝。数日ぶりに「マトモに寝られたかな」と思いつつ目覚めてみたら、Twitter の TL がちょっとした騒動になっていた。その原因は、財務省のサイトに上がっていた怪文書。

そこでもっとも叩かれていたのが、ウクライナにおける状況を引き合いに出して「戦車や装甲車よりも FGM-148 Javelin 対戦車の方が安上がり、費用対効果がいい」のくだり。これは自分も「何をアホなことを」と思ったし、怪文書と呼んだ所以でもあるのだけれど。

ただ、このくだりにフォーカスして件の怪文書を叩くのでは、あちらさんの術中にはまるだけなんじゃないかという気もする。「戦車なんて要らねーだろ」といわれたときに、「いや戦車は必要だ」とやり返して予算を通させることだけに集中してしまえば、これは典型的な domain stobepipe の罠ではなかろうか。

だいたい、支出をコントロールする権限は財務省の "力の源泉"。だから、それを発揮しようとするのは当たり前の動きといえば、それはそう。スケールの大きいケチケチ節約主婦みたいに見えなくもないけれど。


で。「財政健全化が必要」と主張するのは財務省としては当然の動きであるけれども、「欧米ではこうしている」論を展開するあたり、外圧を使う方が何かと動きやすい傾向が出やすい、我が国の状況をよく分かっている (棒読み)

「宇宙」「サイバー」「電磁波」といった流行り言葉もしっかり盛り込んでいるけれど、プレゼン資料のまとめ方を見る限り、その根底にある考え方は domain stobepipe の典型例でしかない。個別の脅威を列挙して「いかにして脅威を払いのけるか」という、部分最適化の集合体。もっとも、防衛省の側も似たり寄ったりではなかろうかと思えるけれど。

もちろん、野放図に国費を支出するのはよろしくない。しかし問題は、そこで「コントロール」をする際のやり方にあるんじゃないだろうか。「とにかく支出を減らせ、安くあげろ」というだけで問題を解決できるのか。そして、「ほらみろ、こんなに安くできる手段があるだろう」といって、使えそうな海外の事例をつまみ食いしている。

支出をコントロールしようとするのであれば、コントロールする側にも相応の思想武装や理論武装が必要ではないか。ところが件の怪文書を見ると、先に書いた「諸外国では〜」という出羽守モードか、さもなくば「国民に説明して理解を得ることが必要」といって防衛省に責任をぶん投げるか。

どうも財務省には、防衛費の支出コントロールに関する確たる思想やビジョンがないように見える。だいたい、各省庁に対しては強く出るくせに、永田町から降ってくる政治案件になると、コロッと姿勢が変わってしまう傾向があるようにも見えるし。


もっとも、財務省と防衛省だけの問題かというと、そうは思わない。本来の「政治がなすべき仕事」を放置して、個別脅威への対処やそのためのお買い物といった、これまた domain stobepipe なことにばかり熱心な政治サイドに、根本的な問題がある。政治がするべき仕事はそこなのか ? 政治主導ってそういう話なのか ?

まず政治サイドが「国の護りはかくあるべし。我が国の生残を維持するために必要な条件はかくかくしかじか。そのために、手持ちのリソースをこういう風に配分する」という全体目標を明確にしないと。

それを実現するための具体的な手法は、専門家である軍人 (あえてこう書く) でなければ導き出せないから、それは防衛省の仕事。ただしそこでも、「国としてのビジョンやゴール」のうち、「軍事的見地からのビジョンやゴール」を取り出して明確にするのが最初の仕事。それがあって初めて、「どういう手段をどういう風に連関させることで、最終的な目標につなげるか」という話ができる。

もしもそこで、肝心要の防衛省・自衛隊が、個別の脅威ごとに domain stobepipe なことばかり列挙するような事態になってしまったのでは、本職としての鼎の軽重を問われる。「とにかく個別の戦闘に勝ち続けていれば、いつか戦争に勝てる」じゃないでしょ ? まさか本気でそんなこと考えてないでしょ ?

「こういうビジョンの下で、こういうゴールを達成するために、こういう戦力整備をやります、装備調達をやります、研究開発をやります」と説明できるだけの理論武装… じゃないな、構想武装だろうか。それができて初めて「財布の紐を締める権力」に立ち向かえるのと違う ? 装備も技術も手段であって、目的ではないのだから。

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