Opinion : いつまでも、あると思うな、いまあるもの (2022/5/30)
 

3 年前にスウェーデンを訪れて、「スウェーデンの人って、つくづくソ聯/ロシアのことが嫌いなのね」と実感して帰ってきた。その話は軍事学セミナーでもお題にした。そのスウェーデンが、お隣のフィンランドともども、NATO 加盟の申請を出している。

だいたい、スウェーデンといえば「永世中立の模範生」として日米同盟に反対する人が引き合いに出すこともあったと記憶している。そのスウェーデンが NATO 加盟をいいだしたのだから、「永世中立こそ正義」な人にとっては青天の霹靂、これまでの主張が盛大にバグる事態になっているのではなかろうか。

もっとも、ロシアのウクライナ侵攻がきっかけで、それまで信じ込んでいた話が盛大にバグった事例、他にもいろいろ見受けられるようではある。

ともあれ、長生きしてみるものだと思う。過去に「まさかそんな」と思っていたような出来事が次々に起こり、歴史が大きく動いていく現場を目の当たりにしている。こんな経験ができるのは貴重。


「いつまでも、あると思うな親とカネ」なんてことをいうけれど、なにも「親とカネ」に限った話ではなくて。いまある「勝利のルール」「成功の公式」「勝利の方程式」の類にしても、いつまで通用するか分からない。

「過去にこうやって成功したから」といって、同じやり方をずーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと繰り返していたら、新たな考え方で挑みかかってきた相手に足元をすくわれる。そんな話は、実のところ、さまざまな分野で発生しているのでは。

いっちゃなんだけど、ことに日本の活動家界隈なんて、そんなんばっかりでは。

逆にいえば、常に「現在の状況において、どうすればうまくいくのか」ということを常に考えて、自己変革していける個人や組織は強い。抽象的で上位のレイヤーに位置する目標やビジョンが明快で、かつ、それを目指すための下位レイヤーの戦術を柔軟に変えていける個人や組織は、たぶん、さらに強い。

まず、勝つためのゲームのルールを明快にして、それに適した道具を用意するのは理想。ただまあ、新しい道具が手に入ったのをきっかけにして、新たに、勝つためのゲームのルールを練り直そうとするのも、それはそれでアリ。少なくとも、道具が変わっても漫然と同じやり方にこだわるのと比べれば、65,536 倍いい。

なんて趣旨のことは以前から何度も書いているけれど。先日にニュース種になっていた「ローカル線維持問題」も実のところ、この「いつまでもあると思うな問題」の一例なのかも知れないと思った。

「いまあるレールは今後もある」という前提でいたら、いきなり「もう維持するのは困難です」という現実を突きつけられる。そこで、昔から変わらないゲームのルールでもって「国でなんとかしてくれ」といいだす。その背景にはおそらく、長年にわたって染みついてきた「国のおカネをどんだけ引っ張ってくるかで、首長や議員の功績が測られる」という風土も影響しているのだろうけれど。

公共交通機関が有用な存在でいられるかどうかは、煎じ詰めると、その地域にどれだけ人が住んで、どれだけ経済活動をしていて、どれだけ人やモノの往来があるか」という問題。それを抜きにして、交通インフラ単体の話だけしているところに違和感が拭えない。なにも鉄道に限らず。


最初の話に戻すと。スウェーデンやフィンランドの NATO 加盟というニュースに接してバグっているのもまた、「いつまでもあると思うな永世中立」問題なんだろうと。厳正中立は手段であって目的ではなく、「国家の生残を図るためにどうするのが最適か」という問題。

そこで手段と目的を取り違えて、厳正中立が目的なんだと誤判断 (または勝手な思い込み) した上に、それが未来永劫に渡って続くものだと無邪気に信じ込むと、今回みたいな事態に見舞われたときにバグるのでは。

手段を目的化する誤謬を犯さず、常に最善の勝ち方が何かを自問自答して、必要とあらば自己変革を厭わない。そういうスタイルを目指したい。逆に、手段に溺れた挙句に「ゲームチェンジャー」という言葉の大安売りに乗っかるようでは、先が思いやられる。

Contents
HOME
Works
Diary
Defence News
Opinion
About

| 記事一覧に戻る | HOME に戻る |