Opinion : 安倍元首相暗殺事件をめぐる場外乱闘 (2022/7/18)
 

「事件・事故・戦争の第一報は錯綜する」という法則があるから静観していたけれど、安倍元首相暗殺事件がらみの報道が妙なことになっている。犯人の境遇に関する話をいろいろ引き合いに出して、(やってる当事者にそういう意図があるかどうかは別として) 結果的に犯人への同情心を煽る状況になっている。

どこかで聞いたような話だと思ったら、5・15 事件のときと似ている。「やったことは確かにいけないが、情の面からすれば云々」といって有耶無耶にしてしまうのは、まったくもって良くない。それと同じ轍を踏みはしないかと心配になった。

それにこの件、被害に遭ったのが安倍元首相ということで、左右双方がここぞとばかりに熱くなってしまい、それがまた話をグチャグチャにしている感。

身も蓋もないことを書けば、左右関係なく、今回の事件を「自らの主張を援用するためのツール」としてしか見ていない向きが少なくないように見える。その挙句に、毎度飽きずに「ハッシュタグのトレンド入り祭り」をやって、世論を動かした気になっているのだからおめでたい。


「死者に鞭打つな」といって、亡くなった途端に批判を許さないとなれば、極端な話、ヒトラーやスターリンはどうなんだという話になってしまう。逆に、「死人に口なし」で殴り返されないからといって、亡くなった途端に何をやってもいい、ともならない。要は「程度問題」。

そして、「朝日川柳」のやらかしが袋叩きに遭ったのは、その「程度問題」の閾値をはるかに飛び越えてしまったから。「安倍嫌い」だけなら、思想の自由があるから好きにすればいいけれども、だからといって何をやってもいいわけじゃない。

いや、ここは正確に書かないと。書いたり載せたりするのは自由だけど、それによって生じたことの責任はちゃんと自分でとりましょうね、と。

そのことと「不偏不党」の整合性はどうなんだ、というツッコミは出てくるだろうけど、そもそもマスコミ各社がいう「不偏不党」なんて真に受けて信じてる人いる ?

「憎っくき安倍元首相を斃した犯人だから…」といって内心で好意的になっている可能性をいう人がいる。それを肯定する材料も否定する材料も持ち合わせていないけれど、可能性としては、違う話も考えられそう。

つまり、実はもっと単純な話で「感動の人間ドラマ」とともに「悲劇の人間ドラマ」を貪り食う社会部マインドを、いつものように発動しただけ。と、それもあり得るのかも知れないと考えていた。

あと、そこに「何か世間の耳目を集める大事件が起きたときには、関連する話題で埋め尽くさなければならない」という毎度恒例のテンプレが加わる… これはこれで、ありそうな話ではある。それ「だけ」かどうかは分からないにしても。
ただ、「犯人の手紙」とやらの話を垂れ流して、さながら犯人の代弁者のごとき様相を呈している状況からすると、あながち否定はできないような。たぶん、やってる当事者にそんな意識はないにしても。


そもそも、被害に遭ったのが安倍元首相ではなく別の人で、その人の属性如何では、逆に「犯人を何が何でも厳罰に」と振れる可能性が出てくるんじゃなかろうか。万が一、被害者の属性次第で犯人に対する対応が変わる、なんてことになれば、もはや法治国家ではなくなる (大津事件は、そこをちゃんと対処した例)。

もっとも、司法の対応については「法治国家ではなくなる」という懸念を持ち出すことができる分だけマシで、世間的な対応の方が始末が悪い。しかも往々にして、その「世論」が政治などを動かすことになってしまう。5・15 事件のときも、「犯人に同情的な報道」が世論を煽った部分はあったといえるだろうし。

だいたい、かつて阪神支局が襲撃事件に遭った朝日新聞は、事情はどうあれ暴力的なやり方をトコトンまで否定しないといけない立場なのと違う ? 「安倍嫌い」をこじらせて判断力が狂ってはいないか ?

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