Opinion : いかにしてお出かけの経験値を高めるか (2022/9/19)
 

数年前、FUK-OKA の JTA 便に乗ったとき、後ろの方に修学旅行生の団体が乗っていた。たぶん、初めて飛行機に乗る子が大半だったのだろう。離陸した途端に歓声が上がったのは微笑ましい。保安検査に始まり、機内で見るもの触れるモノのあれこれも、みんな初めてだったんだろうなあと。

「修学旅行には、列車や飛行機を利用する経験を積むという意味がある」という言説を聞いたことがあるけれど、現場を見ると納得がいく。ことに飛行機の場合、他の交通機関にはない「保安検査」という面倒なハードルがあるわけで、これを経験するだけでも意味は大きかったのでは。

だいたい、知らなきゃ号車番号や席番だって判じ物。なぜ飛行機の席番で A 席の右隣が C 席になることがあるのか。駅のホームに上がったら、1 号車はどっちにあるのか。その前に、ホーム番線の数字が飛んでることもあるし、0 番線ってなんだそれ。


最近、経費節減が深度化しているせいか、鉄道会社が有人窓口を閉める事例が増えている。うちの近所にはまだあるものの、これも「いつまで続くか」という感じ。その有人窓口で、切符を買うだけで済まずに相談を始めてしまう人がチョイチョイいて、後ろに並んでいる人をイラつかせるのはよくある話。

「そういうのは旅行会社の仕事だろ」という人もいるけれど、その旅行会社からして店舗や窓口が減っている事実を知らないのかと。

実のところ JR グループの場合、一部の商品あるいはトリッキーな発券でなければ、たいていの用はネット予約と指定席券売機で用が足りる (ただし、この「トリッキーな発券」は、人によって解釈が分かれそう)。ところが相手が機械だから、当然ながら相談に乗ってくれるはずもなく、「欲しいもの」は先に決めておかないといけない。

「泊まりがけで旅行に出るのが年に 1 回」ぐらいだと経験値が少ないから、そこが難しい。しかし困ったことに、経験を積まないと、「どんなパーツが必要で、それをどう組み立てるか」「自分が何を必要としているか」「自分が何に重きを置くのか、置くべきなのか」が分からない (旅行に限らず、カメラでもパソコンでも何でも同じ)。

その、経験値を積む入口としての修学旅行、という意味合いは理解できる。ただし、「全員をバスに乗せて、各地を引き回しただけで終了」では経験値が上がらない。管理する側、仕切る側にしてみれば楽だけど。
さりとて、「現地では自由行動を認めるので、計画を作って出しなさい」となれば、出された計画の妥当性を教員が評価できないと、別のリスク要因になる。すると今度は、教員の側に経験値が求められてしまう。

それはそれとして。ことに公共交通機関を利用して旅をするとなると、いろいろとハードルがあるのは事実。鉄道や飛行機でも「利用してみて初めて分かる」類の話は多いけれど、さらに、以前にも書いた「所見殺しが続発する路線バス」というラスボスがいる。

「そんな面倒くさいのならクルマで行くわ」となったのでは、公共交通機関の業界にとっての長期的な損失。そうならないようにするためにも、利用に馴染んでもらうための、何かしらの工夫は要るんじゃないだろうか。

ただし、旅程の組み立てはその前のフェーズ。困ったことに、タダで相談の相手をさせたら経費ばかりかかってしまうし、相談のためだけにおカネを出す人はいない。身近なところに経験豊富な人がいれば、その人にくっついて行けば良いけど、万人に通用する手かどうか (それを、対価を払ってやるのが添乗員付きパッケージツアーか)。

なんともまとまりのつかない話になってしまったけれど、正直いって「気のきいた答え」を思いつかない。物書き業として、ノウハウの提供に努められないだろうか、というぐらいのことしか書けない。


たまたまこれを書いているとき、台風の襲来により各地で運休続発。この手の輸送障害への対処、トラブル対処なんて、経験値がないとどうにもならない。不確定要素や可変要素が多すぎて「汎用的な障害対処マニュアル」なんて作れない。トラブルに強いお出かけヤクザは、トラブルを経験することで育てられる。

これってもしかして、軍隊の指揮官と似たところがあるのでは。思い通りに作戦が進まないときに、いかにして情報を集めて最善 (もしくはもっともマシ) な打ち手を決めていくか。自分で経験できなければ、せめて経験者の実例を集めて学ぶ。そんなところは少し似ているかもしれない。

困ったことに、「行程のリスク評価」もまた、経験がモノをいうんである。

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