Opinion : 現場現物の大切さと質問攻め (2023/4/10)
 

「大切さ」と書くつもりだったのに「大雪さ」と誤変換する、うちの IME。辞書の教育が行き届いていることといったら、もう。

それはともかく。別にトヨタあたりの布教活動をするわけではないけれど、こういう仕事をしていると、現場現物は大事だなあと実感することが多い。

多くの分野について、ネット上でさまざまな情報が手に入る昨今。ひと昔前なら「ググれば分かる」、昨今だと「ChatGPT に訊けば分かる」と思ってしまう人もいるかもしれない。でも、当たり前といえば当たり前の話だけど、サーチ エンジンはネット上にある情報しか拾ってこられない。これは以前にもどこかで書いたか。

その辺の事情は ChatGPT も似たり寄ったり… と思ったら、そうとも限らないらしい。どこかのうっかりさんが会社の機密情報を入力して、学習させてしまう場面があるとかないとか。とはいえ、そういう何かしらのインプットがないとダメという話ではある。

実は、ChatGPT に「ChatGPT はどこまでアテにしていいんですか」と訊いたことがある。そしたら、エクスキューズをてんこ盛りにして「鵜呑みにしないで裏取りしてね」といった趣旨の答えが返ってきた。

そういう御時世なら、もう何かを取材して記事にする仕事は出る幕がなくなった… かというと、そうは思わないもんね。というのが今回のお題。


たとえば、どこかの鉄道事業者で新型車両を作りました。趣味誌に紹介記事が載りました。それは事業者の人が書いてます。それなら必要な情報は全部そろってます。

本当にそう ?

実際にはどうか。現物を見て初めて「これはこうなってたのか」「こんな仕掛けが付いていたのか」「これはいったい何だ」となる場面はたまによくある。「どうなっているか」は見れば分かるけれど、「どうしてそうなったのか」は、外見を見ただけでは分からない。結局、担当者を質問攻めにする。

実際、質問攻めにしてみると「そうだったのか !」という話が飛び出すことも少なくなくて。それが、この仕事をしていて楽しいというか、手応えを感じるというか、そういうところ。

ただ、その場でパッと質問攻めにできるとは限らないから、事前に公にされている情報を読み込んで、自分なりに咀嚼しておいて、その上で現場現物に接する。すると、何も準備をしていない状態で現場現物に接するのとは見え方が違ってくる。そこまでやってこその「現場現物の大切さ」なのかもしれない。

そもそも、すべての情報が「字」になっているとは限らない。現場現物だけでなく、ときには図面をねめつけているうちに「あー !!!」となることもあるし、取材現場で撮った写真を拡大して子細に見ていたら「あー !!!」となることもある。

これを言い換えると、「疑問や問題意識を持って現場現物に接するかどうか」という話になるだろうか。ただしそれは、単に「○○のことをぶっ叩いてやろう、アラ探しをしてやろう」という低レベルな話ではなくて。

もっとも、自分がこういうことをいえるようになったのは、割と最近のこと。そこはやはり、過去の失敗の反省がありましてあのその。やっぱり、通り一遍の、テンプレ通りの仕事だけしてちゃダメなんよね…


しばらく前に、トヨタ 86 / スバル BRZ の開発経緯について書いた「どんがら」という本を読んだら、これがとにかく面白かったのだけど。そこでもやはり「現場を見てみないと分からないことはあるものだ」というくだりが出てくる。これは「現場にいる人に話を聞いてみないと」と言い換えてもよさそう。

もっとも、それもおそらくは「新形スポーツカーをどういうものにすれば良いか」という問題意識の下、あれこれ考えたり議論していたりという下敷きがあったからこそ、ではないかと思う。

そういえば、先日の DSEI でも似たような経験がいろいろあった。知ってるつもりでいても、中の人に話を聞くといろいろ新ネタは出てくるもの。

ただし、メーカーの人に聞いた話を単にそのまま右から左に流すのではなくて、自分なりに調べて裏取りしたり、違う方向からの見方・情報をあたってみたりすることもある。それこそが物書きの仕事、存在意義ってものじゃあないかと。

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