Opinion : 下から上への忠誠と、上から下への忠誠 (2023/6/5)
 

どうも一般的に、「忠誠」というと「臣下の者が忠誠を誓う」みたいに、「下から上へのもの」という解釈がされているように思える。実際、辞書を見てみたら「二心を持たず、主人 (国家) のために働くこと」と書いている事例があった。これを字義通りに解釈すると、確かに「下から上へ」となる。

しかし実際のところ、どうだろう。「上」の立場の人間が臣下の人間に対して一方的に「忠誠」を求めるだけで、「忠誠」が機能するものなのだろうかと。「上」の立場の人間が臣下の人間を粗末に扱ったり切り捨てたり見捨てたり裏切ったりしておいて、それでなおかつ「忠誠」を求めるのは、虫が良すぎやしないかと。

似たような話で、一方的に「義務」ばかりを求めてくる "どこかの役所" の話が挙げられるけれど、この話を持ち出すと血圧が上がるので、ここでは措いておくことにして。また最近、この役所は何やらやらかしているみたいだけれど。


先日、Raytheon Missiles and Defense の事業所にお邪魔したときに、製品以外のところで紹介されたものがいくつかあった。そのひとつが、「従業員が各々、職務に対する自らのコミットメントを手書きで記して、それを壁一面に並べたもの」。

これをひらたくいうと。「私は自分の仕事に対して誠心誠意、全力で取り組みます」みたいな誓約を書き並べたものだと思ってもらえば、大外れはないと思う。もちろん、言葉の選び方は一人一人、違いがあるのだけれど。

一方で、「9.11」で攻撃された現場に居合わせて、命を落とした社員の名前を刻んだメモリアルが事業所の一角にあった。もう 22 年ぐらい前のことになるが、衝撃的な事件であることに変わりはない。それに、「国の護り」に関わる仕事をしている会社であれば、通常以上に大きなインパクトをもって受け止められるのは自然な成り行き。

これはいささか特異な事例であるにしても。たとえば待遇、人事、職場環境、福利厚生など、さまざまな分野で、「職場から従業員への忠誠」とでもいうべきものを示す場面がある。そもそも「職場が従業員に対してウソをつかない、騙さない」。これ重要。

職場は従業員のことを大事にする。それに対して、従業員は自分の仕事に対してコミットする。そういう「双方向の忠誠」があってこそ、士気が上がるだろうし、仕事がうまく回っていくんじゃないかなあと。そんなことを思ってしまった。

だいたい、自分のことを大事にしてくれない職場に対して、従業員がプライドを持てると思う ?

Raytheon Missiles and Defense は防衛関連のメーカーだから、当然、退役軍人の社員もたくさんいる。その退役軍人の社員について、現役時代の写真をまとめた一角もあった。これは従業員に対して、という以上に、「身体を張って国の護りに従事した人達に対するリスペクト」というべきか。

そういえば、フレッド・フランクス米陸軍大将 (退役) が書いていたけれども、「ありがとう、国はあなたたちに感謝しています」という言葉をかけてくれた人がどれだけいたか、というくだり。これも似たような話ではないかしらと。

それを勝ち戦の後でいうのは、まだしもたやすい。不首尾に終わった戦の後でいえるかどうか。


こういうことを書くと「だから、日本政府のすることなすこと云々」という人が湧いてきそうではある。個人的経験からしても、全面的に日本政府のすることなすこと肯定できるかといえば、それは無理。(どこの役所のこととはいいませんがね !)

しかし一方で、まず「全面的に日本政府のすることなすこと否定する」前提があり、その上でその場、その場で食い付きの良さそうなネタを拾い上げてはぶっ叩いているような人達を見ると、それはそれでどうなのよと思うわけで。あなたたち、箸が転がっても悪口いうんじゃないの、と。

つまり、一方的に「自分らに忠誠を」というだけなら、向きに関係なく片務性があるわけで、それは上の方で書いた話とマッチしない。

実のところ、この手の話って「国家対個人」みたいな形で大上段に振りかぶらなくても、たとえば「お店の人にどう接するか」なんていう身近なレベルでも該当する話なんじゃなかろか。

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