Opinion : 海外紛争は野球の試合じゃない (2023/6/26)
 

「大山鳴動して鼠一匹」

土曜日の晩にワッと盛り上がり、たちまち竜頭蛇尾な結末になってしまった、いわゆる「ワグネルの乱」のこと。さまざまな情報が入り乱れて流れてくるのは当節の恒例なれど、ウクライナにおける日々の戦況と同じで、どれがホンモノでどれがデッチ上げなのか分からない。

なので、個人的には基本的にスルーを決め込んで寝てしまった。そして起き出してみたらズコーとなった次第。


その「ワグネルの乱」に関する Twitter のタイムラインを見ていて、なんか違和感を感じていた。たぶんそれは、次々に流れてくる、さまざまな出来事に関する投稿をひたすら消費する様に対するものであったのかなあと。

ひとことでいうと「野球の中継を見てるんじゃないんだからさあ」という話。

そこで「現場では人が死んでるんだぞ」みたいなことを殊更にいうつもりはなくて。いや、実際に人死にが出ているわけだけれど、それは「ワグネルの乱」に限らず、ウクライナで毎日のように起きていること。それはいうまでもなく悲惨な出来事であるけれども、ひっかかりを覚えたのは、それとは別のところ。

そりゃもちろん、個人的にもプーは大悪人だと思っている。だからといって、プーを追い出すだけでロシアに愛と平和の千年王国がやってくるかというと、そんなわけがあるかいな、とも思っている。

もしも何かが間違って、鰤御仁がモスクワを制圧するようなことになれば、核兵器をたくさん抱え込んだチンピラ失敗国家が出現するリスクがあったのでは ? それはそれで、またトンでもないことであろう。だから「ワグネルがモスクワに向けて進撃中だって、やったー」みたいな反応はできなかった。

中には「これでロシアが内戦に !?」みたいな反応も見られたけれど、核兵器を抱えた国がそんなことになったら、どんな惨事が起きるのか。そこまで考えていってんの ? と思いたくもなる。

あと、仮にロシア情勢がグダグダになったとして、そこで北京がどんな反応をするか、それが日本周辺にどういう影響を及ぼすか。そういう大問題もある。たぶん、本職の情報機関はそういう観点で事態の進捗を眺めていたんじゃないかと。

よりによって土曜日に騒動が持ち上がったから、休日出勤させられた情報機関の関係者が少なからずいたんじゃないだろうか。おつかれさまです…


こうしてみると、「敵軍を倒す」戦術的勝利には血道を上げるけれども、それによる「効果」についてはどこまで考えてるのか怪しい、という話に通じるものがありそうだなぁと。そんなことを感じた。

「何をいまさら」な話ではあるけれども、最前線で対峙している敵軍を倒すだけで、戦争に勝てるわけじゃあない。敵軍を倒すという出来事を、どのように戦争の勝利に結びつけるかという考え方が明確になっていないと、ただのモグラ叩きの連鎖になってしまう。

そして、プーをロシアのトップから引きずり下ろすだけで問題が雲散霧消するわけではないし、むしろその後が厄介。ひとつの国の体制を壊すのはまだしも容易で、壊した後がどんだけ大変かという話は、20 年前にイラクで散々見せつけられていたであろうに。もう 20 年も前のことだから、みんな忘れてる ?

これが小説だったら、「悪玉のトップがいなくなって問題解決、めでたしめでたし」で終わるところだけれど、実際のところはどう ? むしろ、ますます混沌と化した事例の方が多くない ?

そりゃ確かにプーは世界平和の敵だけど、敵の敵が味方だとは限らない。それを認識してないと、「プーに刃向かうやつはみんな正義の味方」みたいな単純二元論に絡め取られてしまうんじゃなかろうか。

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