Opinion : 防衛産業は儲からない論で押すのはマズくないか (2023/12/4)
 

昔からある陰謀論で「防衛産業界が戦争を焚き付けて儲けている。死の商人だ」というやつがある。だいぶ昔に「それはエリア 88 の読み過ぎです」と書いたけれども、日本国内の場合、朝鮮戦争特需の話が今に至るまで語り継がれている影響もありそう。

ただし現実問題としては、当節、第二次世界大戦のときみたいな勢いで正面装備の大量生産をやるわけではないのだから、そんな簡単に儲かるかヴォケ。という話になる。これは以前にも書いた話。

そういうことをいうと、反論としてウクライナ情勢を持ち出してくる人はいるだろうけれど、何百・何千という単位で増産がかかった正面装備がどんだけあったっけ ? と返せば話は終わり。弾薬については話が違うけれども、それとて限られた分野の話。

だいたい我が国からして、「防衛費を増やします」というからどういう話になるかと思ったら、スペアパーツの確保とかいう話が出るていたらく。これまで、どれだけ削りに削ってきたんだよという話で、「国の護り」という観点からすると、ひでぇ話。それがようやく正常化する (と期待したい)。


それはともかく。「死の商人論」に対して、ネット上でチョイチョイ見られる反論として「「防衛産業は儲からない論」を連呼する向きが見受けられる。これは危うさがあるんじゃないか、というのが今回の話の本題。

霞が関の Z な役所のせいで利益率をへつられて、我が国において「儲からない産業になっている」のは事実。だからこそ撤退するメーカーが相次いでいるのも事実。歴史をさかのぼると、第二次世界大戦が終わった後で「戦争は儲からない」といって軍需から手を引くと決めた GM みたいな事例もある。

ただ、現時点で欧米の Tier 1 クラスのメーカーを見るとどうか。決算発表のデータを見ると、ちゃんと黒字を出して株主への配当もしていることが多い。それを引き合いに出して「防衛産業は儲からない論」へのカウンターにされたらどうするんだろう。

それこそ「我が国固有の事情」だけ引き合いに出して、論理破綻した挙句に「死の商人論」を勢いづかせることにでもなれば、目も当てられない。

もっとも、我が国の左派勢力や陰謀論者が、海外 Tier 1 メーカーの決算発表資料や年次経営報告書を見ようと考えつくか、そもそも「どんな会社があるか」という知識がアップデートされているか。そういう問題はありそうだけど、それはまた別の話。

要は、「我が国では」という前提条件をすっ飛ばして、クソデカ主語で「儲からない」とくくるのがまずい。そうじゃなくて、「戦争が起きれば正面装備の大増産が発生するから儲かる」という第二次世界大戦モデルに的を絞って突破する方がいいんじゃないのと。

実は、「正面装備の大増産でウハウハ」論には、設備投資という落とし穴がある。バースト的に需要が急増しても、それに対応するために設備投資できるかどうか。設備投資するからには、少なくとも投資を回収できるまでの間、継続的に需要が見込めないといけない。

実際問題、いきなり大量調達した後でストンと沙汰止みになった MRAP (Mine-Resistant, Ambush-Protected) という前例もある。え ? 継続的に戦争を焚き付ければ問題解決 ? そんな雑で不確実性の高い判断をする経営者がいたら、株主に追い出されますがな。


陰謀論者というのは、気に入らない物事を「陰謀のせい」と超単純化することでカタをつけようとする。それによって「自分は愚民どもとは違うのだよ」「自分は真実に目覚めているのだよ」というマウントをとろうとする。

物事、そんな単純ものでもなければ、あっさり白黒つけたり善玉悪玉に切り分けたりできるものでもないのだけど。でも、それを強引に単純化したり、一刀両断したりしようとする。まぁ、その方が分かりやすくはあるから、釣られる人は出てしまう。

ところが、そうした陰謀論者へのカウンターをかますのに、同じように物事を過度に単純化した論法で迫ってどうするのかと。そんなところでちょっと危惧を覚えたので書いてみた。

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