Opinion : 手段と目的 (2024/2/5)
 

まずお詫び。先週末から週明けにかけて "重たい" 取材が三連発で入り、その後の作業も含めて大騒動に。おかげで本館の更新は滞りまくって、定例スケジュールが崩壊してしまった。すみません。

東武の撮影ツアーに行く話も飛ぶ結果になってしまったけれど、それはまた別の話。

さて。


しばらく前に読んで「これは面白いなー」と思った、マツダで主査を務めた方のインタビューがあった。それを先日に読み返していたら、「そうだよこれこれ」と改めて膝を叩いたくだりがあった。それは、「自分達はこのクルマを通じて、お客様にどういう価値を提供できるのか、ということをひたすら繰り返した」との話。

そして、設計・開発の過程で何か壁に直面したときに、「こうやって解決しろ」と指示したり、「こうやれ」と説得したりするのではなくて、「自分たちが提供したい価値はこれだよね。だったら、それをどうやって実現できるか考えようよ」という方向に話を持って行ったのだと。なるほど。

「こんな新技術がてんこ盛りで凄いでしょう」という宣伝の方が、まぁ分かりやすくはある。しかし、たいていの人にとってクルマは移動の手段であるから、その移動に対してどういう価値を、どういう問題解決を提供できるか。それこそがメーカーの勝負どころ。そういう考え方があってもいい。いや、むしろそうあって欲しい。

クルマは身近な商品だから理解しやすいけれども、他の業界でも基本的には同じじゃないかと。何年か前から自分が連呼して回っているように、技術は手段であって目的じゃない。

カメラやレンズもそれで、商売道具として見れば「仕事の現場で確実に結果を持ち帰らせてくれるカメラ」が良いカメラ。それをどんな技術で実現しているかは、極端な話「関知しない」。

そこで、商売道具として… 以外の尺度があることはもちろん認めるけれども、逆に趣味的尺度だけ押し付けられてもね。

実のところ、同じカテゴリーの商品でも、メーカーによって、考える「価値」は違ってくる。同じ新幹線でも、路線によって、求められる価値、優先される価値は違う。それはそうでしょうと。後はそれをどう実現するかという問題。


実のところ、物書きの業界、メディアの業界も同じ。

うちでは、何か記事を書くときに、最初に「これはどういう読者に対して何を提供するものなのか」を最初に考えるようにしている。そこから切り口を決めて、話の流れを作る。少なくともそういう意識は持って仕事をしているつもり。前にも同じことを書いたような気がするけれど。

対象が変わっても切り口や話の流れはいつものテンプレ通り、通り一遍のことを書いて写真をいっぱい並べて終わり、ではね…


国防の分野についても、似たような話になってくる。「高性能の装備」とか「鍛えられた術力」はある方がいいに決まっているけれども、それはあくまで手段なんだと。

先日、とある会合の席でも力説してしまったのだけど。強い拳骨があるだけでは駄目で、その拳骨で何を殴ってどういう結果に持って行くか、という思想が必要だろうと。モノだけ買って並べて満足してるんじゃないよ、と。

すると、「この新戦闘機が実戦配備していれば、負け戦にはならなかっただろうに」という類の話も、まぁ絵空事だよなあという話になる。なんとも夢のない話ではあるけれども、そういうのは小説の中の話だけで。

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