Opinion : どこにおカネをかけて戦力向上につなげるか (2025/4/14)
 

ホンダが急成長の最中、埼玉県の中古工場を買い取ったときに、本田宗一郎氏が藤沢武夫氏に「トイレは水洗に直してくれ。入れるところと出すところがきれいじゃないと、美しい製品は生まれない」と注文をつけた、という話が「ホンダ神話」に出てくる。

まだ水洗トイレが珍しい時代だったろうから、殊更にこの話が目立ったのかも知れない。今の日本なら「あって当たり前」の話ではあるけれども。

その辺のベースラインは時代や周辺環境によって違ってくるけれども、「生活環境」の部分まで充実している方が、働いていて気持ちいい場所になる、とはいえると思う。それはなにも、都心の高層オフィスビルにシャレオツなオフィスを構えろとかいう話ではなくて、普通に清潔感のある環境を整えましょうよという話で。

といっても実際のところ、汗まみれ、埃まみれになって仕事をする場面もある。それならそれで、仕事が終わったら風呂に入ってスッキリできるようにしましょうよ、とかなんとか。そういうアプローチだってある。

そういえば、かつて国鉄で「風呂の時間を勤務時間にカウントするかどうか」でスッタモンダしたことがなかったっけか ?


「仕事の場所」の環境が厳しい業界のひとつが軍隊組織、中でも陸軍。土まみれ、埃まみれ、汗だく、寒冷、そして身体を酷使する。温帯地域でもそれだから、砂漠や寒冷地やジャングルや山岳地帯になれば、もっとハードなのは当たり前。

だから環境が厳しいのは仕方ないとしても、それでもできるだけ快適にしていなければ戦闘力を損ねる… という話が「SAS 戦闘員」に出てくる。

毎日、強烈な虫除けの薬をしっかり塗る。地べたに直接寝る代わりに、A フレームを組んでハンモックを吊って寝る。その上にポンチョを掛けて、雨が降っても濡れにくいようにする。蚊に刺されてマラリアに罹患しないように、寝るときには蚊避けのネットを張る。etc, etc。

それは別に軟弱だからでもなんでもなくて、先に現場の環境のせいで疲弊してしまったら、任務の遂行が危うくなるから。だから、(限度はあるにしても) 少しでも快適に、健康に過ごせるように、手間と費用をかける。食うものも、(可能な限り、という但し書きが付くのだろうけれど) ちゃんと安心して食べられるものを後方から補給する。

そういうことの積み重ねが結果として、ちゃんと任務を遂行できる精強な特殊作戦部隊を維持することにつながるのと違うか、と。ときには艱難辛苦の中に放り込まなければならないこともあるにしろ、快適にできるときにはそうする。これ大事。

「軍事力」というと、正面装備の能力や数ばかり注目されやすいけれども、補給支援、整備支援といったファクターも絡むし、さらには「構成員がどれだけ全力を発揮できるか」というファクターも絡んでくる。戦闘任務に入る前に疲弊してしまっていたら、個人でも、あるいは装備でも、本来の能力は発揮しがたい。


だから、せっかく予算が増えるというならば、そういうところにしっかりおカネをかけてやらないでどうするのかと。もちろん、施設や隊舎や官舎の整備改善という話だって出てくる。

たとえば厚木や岩国みたいに、米軍と自衛隊が同居してる施設で、日米の施設の違い、とりわけ官舎の違いを見比べてみてよと。しばらく前に NAF 厚木を訪れたとき、中の人と話をしていて、そんな話題になったことがあった。

艦艇でも AFV でもなんでも、いくら額面上の性能が良くても、居住性が悪かったら、作業環境が悪かったら、整備性や操作性が悪かったら。それで額面上の性能をフルに発揮できる ? そういうところの研究や改善にもおカネをかけようよと。官品の衣料品の質を高めることだって、結果として戦力向上になるでしょ ?

ついでに余計なことを書くならば、書類仕事でヒーヒーいわせるようなのも、いかがなものかと思うし。

なんて考えていけば、おカネの使い道なんて、なんぼでもあると思うのだけれどね。

(事情により来週はお休みします)

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