Opinion : 刺激的な事件ほど冷静に見ないと (2025/6/2)
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「さて、今週のネタはどうしよう」と思ったら、格好のネタが発生してしまった。昨夜、そろそろ寝ようかと思っていたところで飛び込んできた「ロシアの爆撃機がウクライナのドローン攻撃で破壊された」の一件がそれ。
現場があまりにもウクライナから遠いので「ホンマかいな」と思ったら、コンテナに隠蔽した FPV ドローンを現場の近くまで持ち込んで発進させた、ということであったらしい。
この種の事案は「ありきたりのもの」ではないから、当然ながら弊 TL は、この話題で大賑わい。でも「事故と戦争の第一報には即座に反応しない」という個人的原則があったので、とりあえず寝てしまった。翌朝に起き出してからあれこれ見たら、どうやら確定的な話であった模様。
こういう話になると、まず「だからもはや有人戦闘機なんて時代遅れ、これからはドローンの時代だ !!」と吹き上がる人が湧いてくるのは、お約束の展開と思われる。
でも、その手の人って「いかに自分が情報感度が高い、イケてる人間か」を見せつけたいか、さもなくば「有人戦闘機不要論」(はっきりいってしまえば F-35 嫌い) に援用できるネタに飢えているか、のどちらかが大半を占めると思われるので、とりあえず措いておくとして。
この件に限らず、何でもそうだけども、目新しさがあって刺激的な事件が発生したときほど、第一報には注意して接しないとまずい。刺激的だからこそ刺激されて、極論に走ってしまうリスクがある。上で書いた「ドローン万能主義」みたいなのは典型であるけれども。
「飛行場の近くにドローンを持ち込んで大量に飛ばせば、戦闘機なんて無力化できる」との論をぶつ人は以前からいたけれども、それに対しては「周縁警備で対処できる」との反論もある。
もっとも、これは地理的条件に左右される部分もあって。ロシアや中国のド田舎にある空軍基地で、周囲が森林地帯、なんてことになると、周縁警備は難しくなるかも知れない。逆に、都市化していて人が多く住んでいるところに大量のドローンを持ち込んで発進準備なんかしていたら、おおいに人目についてしまう。
「それだからこそ、コンテナに隠蔽したんじゃないか」といい出す人が出るのは容易に予想がつくし、それなら確かに人目にはつかない。でも、飛ばしたら飛ばしたで、それだけでケリが付くものなのか。
もともとソ聯/ロシアでは爆撃機でも戦闘機でも野外駐機が多いと聞くし、そもそも爆撃機だとガタイが大きいから、掩体に入れるわけにはいかない。
ロシアにある軍用飛行場の写真を見ると、周囲を囲ったリベットメントに駐機している事例が多いようだけれど、これは「1 機が破壊されても、周囲の機体が巻き添えを食う事態は避けられる」という意味がある。だからまったく無意味というわけではないけれども、頭上から何か降ってきたら避けられない。
そこで「そもそも論」を持ち出すと、掩体を貫通できる FPV ドローンなんて存在しない。第一、速力が遅いから運動エネルギーが小さい。BLU-109/B が降ってくるのとは訳が違う。だから、露天駐機されている爆撃機なら、丸見えな上に的がでかいから破壊されやすいけれども、掩体に収まっている戦闘機だったら ?
もっとも、「空からの脅威」が存在することで、掩体に雪隠詰めにして行動を掣肘する効果は、ある程度は期待できるかも知れない。
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そしてもうひとつ。破壊する手段を配備すれば一件落着ではない。まず、ターゲティングが問題になる。つまり、相手が出撃して、基地がも抜けのカラになっているときに攻撃を仕掛けても意味がない。すると、ターゲットとなった基地の近傍に何らかの「眼」を置かないと成果につながらない。
つまり、破壊する手段を持ち込んで展開するだけでなく、「正しい」タイミングで「正しい」ターゲットを破壊する「仕組み」を構築して、それで初めて成果が上がる。いいかえれば、その「仕組み」をどこかで切断すれば、「成果」は上がらないか、あるいは上がりにくくなる。
今回の場合、「コンテナ化して隠蔽した FPV ドローンが持ち込まれた」という刺激的な話があったから大騒ぎになっているけれども。そこで一緒になって興奮するだけではなくて、「どうすれば防御できるか」「この手法の強みと弱みは何か」を考える方に頭を使おうよと。
さらにいえば、ロシアと似た条件に置かれている国を相手にする場合、同じような手法が適用可能かどうか。もちろん、あれこれ監視が厳しい警察国家が相手になると、この手の話を実行するのは困難になる。
でも、実行するかしないかは別として、実行しそうなそぶりを見せることは、一種のコスト賦課につながりはしないか ? 「地雷原を作るには記者会見を 1 回やればいい」と同じデンで。
といった具合に、いろいろな視点からいろいろなことを考えられるよね。といったところで終わり。
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