Opinion : 通路にされるということ (2025/6/23)
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よく「こちらの意思に関係なく、戦争に巻き込まれてしまうことがある」といって引き合いに出されるのが、第一次世界大戦や第二次世界大戦におけるベネルクス諸国、とりわけベルギー。いわゆる「通路にされてしまう理論」である。
これは実際その通りで、ドイツはフランスの攻略が本来目的であるし、フランスはそれを阻止するのが本来目的。ところがそのために、双方ともベルギーを「現場」にする計画を立ててしまった。
パッと思いつかないけれども、「A 国が B 国を制圧しようとしたが地続きではないので、間に挟まれた C 国を通路にした」事例、他にもありそうではある。
ところが、なにもそれは地べたの上でだけ起きる話ではないよね。というのが今回のお題。イスラエルがイラン国内に航空攻撃を仕掛けて、イランも反撃して弾道ミサイルや無人機による攻撃を仕掛けて。ところがあいにくとこの両国、地続きではない。
つまり、間に挟まれたイラクやヨルダンの上空が「通路」にされてしまっている (もしかしたらシリアも ?)。これは今回に始まった話ではなくて、オシラク原子炉爆撃のときだって、サウジアラビアやヨルダンの上空が「通路」にされた。
イランの件と比べると話題になっていないけれども、イエメンのフーシ派がイスラエルに向かって何かを撃ち込めば、これはこれでサウジアラビア西部の上空が「通路」になっている可能性が高い。フーシ派が、わざわざ紅海上空を迂回させるような気の使い方をするかというと、疑問。
上空を「通路」にされれば、そこを飛びものが飛び交うわけだから、それが自国の領内に墜落する可能性はゼロにはならない。撃ち合いの当事者ではないのに、とんだ迷惑である (相手が飛びものだけに)。
そこで「我が国を通路にしないで」と抗議するとか、あるいは抗議声明を出すとかいう対応が考えられるものの、それはそれで難しさがあるのではないかと思った。
片方の当事国にだけ抗議すれば、それは他方の当事国に味方するものだと受け止められるかも知れない。双方の当事国に「公平に」抗議したら… というのも問題があって、受け止められ方次第では、一方どころか両方を敵に回すことになるやも知れず。
何事も「善玉」と「悪玉」に分けないと気が済まない人、白黒ハッキリさせて色分けしないと納得ができない人には気に入らない話であろうけれども。「旗幟を鮮明にしないで沈黙している」「上空通過の承認を与えるにしても、それは公にしない形で」とするのが、もっとも無難な対応である。
と、上空を「通路」にされた諸国が、そんな風に考えることがあったとしても、不思議はなさそう。外交上の微妙な綱渡り。
他国の上空を「通路」にして直接撃ち合うよりも、相手国ないしはその隣国に「手下」を配して鉄砲玉にする方が、低リスクなやり方ではある。なんだったら、マズいことになっても「私はやってない」と否認できないものでもない。
もっとも、イランはイスラエルに対してそれをやっているけれども、イスラエルがイランに対してやれる手ではない。だから直接行使に及んだのだろう、といってしまえば身も蓋もないけれど。
ともあれ、「巻き込まれ」といっても「同盟国がおっぱじめた戦争に加担させられる」なんて話よりも、むしろそれ以外の巻き込まれ方の方が、蓋然性が高いんじゃないのかなあという話。なにしろそこには、自国の意思が介在する余地がない。
日本の場合、地理的条件からいって本土の陸地が「通路」にされる可能性は低いと思われるものの、海と空、それらの隣接領域については、果たしてどうだろう ?
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