Opinion : 大荷物と正義の鉄槌と (2025/8/4)
 

なぜか、自分がお出かけすると輸送障害に見舞われることは少ない。自分が乗った列車が走り去った後で何か起きていた、なんてことは幾度となくあったけれども。

似たような (似てません) 話で、車中や機中で派手な対人トラブルに巻き込まれた記憶も、あまり記憶にない。隣の席で 551 の豚まんを開封された、ぐらいのことはあったけれども。席を替わってくれなんていわれたことも、一度もない。


ところが世の中、そういう人ばかりでもないみたい。そして、しばしば話が聞こえてくるのが、例の「新幹線の車中で外国人の利用者が、クソデカスーツケースを持ち込む問題」というやつ。

そういう話が出てくると、まず「ヨーロッパでは荷物置場があるのは当たり前」という人が出てきて、さらに「日本でも同じにしろ」と続く。日本国内でも、客室の端部に大型荷物置場を設置した事例はあるけれども、これはこれで悩ましい問題ではある。

ハコのサイズは決まっているのだから、そこで客室の一部を荷物置場に回せば、その分だけ定員が減る。たいていの場合、1 両あたり 2-4 人分ぐらいが犠牲になっているけれども、それが 10 両あれば 20-40 名分のマイナスということになる。

方面によっては、直前や当日になるともう指定が取れない、なんて状況になっている中で、どこまで座席数の減少を許容できるか。「クソデカスーツケース」に文句をいう人は、同じ口で「指定がとれない」と文句をいいそうでもある。

結局のところトレードオフだから、「荷物置場を設置するにしても、どれだけ設置すればみんな満足するんですか」という話になってしまう。でも、それは見過ごされがち。極端なことをいえば、1 両の半分ぐらい荷物置場にすれば足りないことはないだろうけれど、それは現実的にはできない手。

実際問題としては、車端の 1-2 列をつぶすのがせいぜい。ところが、何人ぐらいの人が大荷物を抱えて乗り込んでくるかは分からない上に変動もあるのだから、車端の 1-2 列分をつぶして設置した大型荷物置場で必ず足りるかといえば、そうはならない。

結局のところ、車端に大型荷物置場を設ければ、問題は「緩和される」けれども「解消される」保証はない。すると、何かの拍子に大荷物を抱えた人が集中して、その大荷物があぶれる事態は起こり得る。

たまたまそれに遭遇して「それ見たことか、怪しからん」と正義の鉄槌を振り回す人は、たぶんなくならない。

前に、「流氷物語」か何かに乗ったら、キハ 40 車端のロングシート部が埋まるぐらいに、大量のスーツケースが持ち込まれてたことがあって。そんな分量になったら、大型荷物置場を常識的なサイズで作ったって対応しきれない。実際、そういうことも起きている。

この話に限らないけれども。「関係者がそれぞれ折れて歩み寄って、完全な解決は無理でも事態をマシにするぐらいのことなら、あるいは」という場面で、一方的な譲歩や完全なる解決を求めて、却って収拾がつかない事態にしてしまう人が出る。いろいろな分野で実際に起きていることではないかしらん。

面白いことに、「正義の鉄槌」を振り回す人は往々にして、「誰もが賛同してくれる」ものだと思っている。ところが実際にはそうならないことが大半で、結果として燃えたり叩かれたりするようなことも起きる。しまいには、止せばいいのにいっちょかみして乱入する人が続発して、当初の話から外れたところで場外乱闘を始めたりもする。

あえて名指しするならば、日々、不平不満の投稿が渦巻く Threads の「おすすめ」なんか、そんな話の巣窟になりそうではある。


大型荷物といえば、ときには極端すぎる話もあって。とある F1 チームの関係者が日本 GP に際して、マシンのフロントウィングをハンドキャリーして電車に乗ったことがあったそうだ。「置く場所がなくて途方に暮れた」というけれど、それはまあそうでしょうとしか。

日本に限らずイギリスの列車でも、F1 マシンのフロントウィングを置ける場所なんてない。ただしイギリスの車両だと、自転車置場が設けられていることはあるから (Class 802 や Class 390 や Class 777 で見たことがある)、そこにでも置くしかあるまい。

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