Opinion : 騎馬武者と驢馬 (2025/9/1)
 

先週から今週にかけて CSG25 と HMS Prince of Wales の東京来航に関わる取材が 6 日連続。おかげでヘトヘトになって、そこに他のお仕事も重なって。で、掲載が 1 日遅れになってしまった次第 (すみません)。

その取材のひとつ、PFF (Pacific Future Forum) の会場で、テーブルの上にさりげなく、DCDC (Development, Concepts and Doctrine Centre) が作成した GSC (Global Security Trend) 第 7 版の日本語版要約が置かれていたので、もらってきて読んだ。

「この先 30 年間の、世界の戦略的動向」という話になると、もう不確定要素がありすぎて、「こうなります」と断言する方が却って不誠実。もしも、単一のシナリオを示して「こうなります」なんて断言をする人や組織がいたら、それこそ信用ならない。

実際、GSC 第 7 版でも「関わる原動力のモデル」を示した上で、複数の予想シナリオを提示する形になっている。当然の展開だと思う。

そのシナリオの中には、「これならまぁ受容できそう」というものもあれば、「これだけは勘弁してくれ」というものもある。実際にどうなるかについては、とりあえず措いておくとして。


その PFF でも、ロシア・中国・北朝鮮の接近が話題のひとつになった。北朝鮮がロシアに兵隊を提供して、それがウクライナで戦っているのは周知のお話。弾薬を供給しているとの話もあったような。

その北朝鮮はともかく、個人的に考え込んでしまったのは、「北京にとって、ロシアがウクライナで勝つ方がいいのか、負ける方がいいのか」というお題。

「あっち側」の陣営の立場からすれば、北京としてはロシアが勝ってくれる方がいいんじゃないの ? というのは常識的な見解。筋も通っている。ただ、「中国を世界に冠たる大国に押し上げて世界秩序を領導する」という視点に立つと、「果たしてそうなのかなあ」と思ってしまい、そこで考え込んでしまう原因になっている。

つまり、中国と同様にロシアも「世界に冠たる大国」の立場を維持したいであろうし、そうなると中露の間で、利害の対立や主導権争いが起きることにならないか ? という話。どっちも船頭になりたがるであろうから。

となると実は、北京にとっては「ロシアがウクライナで負けて弱体化して、中国に依存しないとやっていけない」状況が生起する方が好ましい、という考えもあり得るのかなぁと。

(これはもちろん、モスクワにとっては、かなり嬉しくないシナリオ)

なにも国家間関係に限ったことではないけれど、自分が騎馬武者になりたいと思っている人が、他の騎馬武者と相並び立つことを受け入れられるもんだろうかと。むしろ「俺は騎馬武者、貴様は驢馬」と考える方があり得そうだし、双方がそう思っていたら喧嘩になる。

そもそも個人レベルですら、なかなか「両雄並び立つ」とはいかないもの。それが、「うちが世界の覇権を握るんだ」「うちこそがグレート パワーだ」とまなじりを吊り上げている国家同士だったらどうなるよ ?


かといって、ここで (トム・クランシーの小説みたいに) 中国とロシアがドンパチ始めてしまえば、それはまた「こっち側」が漁夫の利を得ることになるし、リスクが大きい選択肢でもあるし。

すると、ロシアがウクライナでさんざ苦戦した挙句に負けて、中国に頼らないとどうにもならない状態に落ちぶれるのは、実は北京にとっては「乾分が増えるありがたいシナリオ」なんてことになりはしないかと。自分の手を汚さず、少ないリスクで騎馬武者が驢馬になってくれたら、安上がりではある。

この仮定が、もしも正しかった場合。「こっち側」の陣営として、そのことを何か有利な形で利用できないものかしら。と思ったものの、まだ具体的なアイデアはない。

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