Opinion : 被害者意識という麻薬 (2025/9/29)
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ロシアのラブロフ外相が 2025/9/27 に国連総会の一般討論演説で、「NATO は我々の国境まで拡大を続けている」「NATO や EU がロシアへの攻撃を準備している」と言い張った由。
あの、何いってるかサッパリわからないんですが。
ただまあ、こうしたナラティブは「こっち側」から見ると荒唐無稽でも、「あっち側」では相応の説得力があるのだろうと思われる。大祖国戦争の話を引き合いに出せば、「西から敵が攻めてくる」というストーリーは受け入れられやすい。
ただまあ、ポーランドやバルト三国の領空をロシアの UAV が侵犯した件について「NATO が悪い」といい出すに及んでは、無理がありすぎとしかいいようがないけれども。「NATO が我が国への侵略を準備しているから、こちらから NATO の領空を侵犯した」では筋が通らないことおびただしいし、責任を押しつけるにしても、ねえ。
一般論として、「あなた悪いことをした加害者でしょ」といわれるよりは、「あなた気の毒な被害者ですね」といわれる方が、まだしも気は楽になりそうなものではある。
それはそうなのだけど、実際には加害者なのに被害者のようなフリをして「弱者ポジションをとる」ようになると、見過ごすわけにも行かなくなる。そしてときどき、この「弱者ポジション」をとるのが妙にうまい人がいる。個人に限らないか。
「強い弱者」と「弱い弱者」がいる、というのは以前からの持論だけれども、加害者なのに被害者のようなフリをして「弱者ポジションをとる」のは、まさに前者の典型例。意図的に、戦術としてそれをやるわけである。
その戦術がうまく行くと、それがある種の麻薬みたいになってしまい、恒例として、同じ戦術を毎度のように使うようになる。あるいは、そういう場面が頻発するようになる。
これが巧妙だよなぁと思うのは、「気の毒な被害者ポジション」を、外から指摘してひっくり返すのが難しいこと。だからこそ麻薬性を帯びてくるのだろうけれど。
たとえば冒頭で引き合いに出したロシアにしても、なにせ「大祖国戦争」という前例があるし、さらに遡れば、ナポレオンみたいな事例もある。「侵略された」具体例があるのとないのとでは、説得力がまるで違う。
だから、そういう「武器」を持っていると、認知戦・心理戦など非キネティックな分野における手段として、それをブンブン振り回したくなるのは当然の成り行き。
じゃあ、どうやってこの手法に対抗するか。そんな簡単に対抗策が講じられて無力化できるなら、とうの昔に誰かやってるはず。
思うに、「外向き」と「内向き」を分けて考える必要があるのではないかと。強権的な国家でもカルト宗教でも活動家団体でも、構成員は得てして「精神的遮断機」の向こう側に置かれているものだから、都合のいい話しか耳に入らないようにされている。
そこで外から「真実はこうですよ」といって、「はいそうですか」とすんなり納得するかどうか。もっとも、そうなる事態を怖れているから「精神的遮断機」が設置されるわけだけれども。はいはい金盾金盾。
ただ、「内向き」についてはそうであるにしても、「外向き」については、まだしも手の打ちようがあると思っていて。それは、粘り強く「真実」を伝え続けることであるかも知れないし、相手が耐えられなくなったり煽られたり焦ったりして「暴走自爆の道を突っ走り始める」ことかも知れないし。
あちらさんが、自らを弱者・被害者ポジションに置こうとするのであれば、いささか底意地の悪い言い方ではあるけれども「いかにして相手に悪役になってもらうか作戦」が必要なのだろうなぁと。
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