Opinion : 仕組みの重要性 (2026/1/19)
 

何回か英国を訪れて感じたことのひとつが、「スピットファイア愛」である。やはり、"Battle of Britain" を切り抜けて勝利に終わった立役者であることは間違いない。さらにその後の活躍ぶりからしても、救国の英雄に値する機体、と見做されているのは確か。

それが、フライアブルな機体を維持するモチベーションになっているのであろうし、果てには空軍博物館で「スピットファイアの形をしたクッキー型」なんてお土産を作って売ることにもなっているのであろう。「なるほど、彼の国ではこうやって "教育" しているのか」と妙な感心をした。

もちろん、そのスピットファイア、あるいはハリケーンのことを腐すつもりは毛頭無いのだけれど。


ただ、どんな優秀な戦闘機とパイロットがいても、それが正しいタイミングで正しい場所に占位できなければ、能力を発揮することができない。だから、Battle of Britain Bunker などで「ダウディング システム」をやたらと強調しているのは、実はとても筋が通る話。

以前から、「"Battle of Britain" における勝利の秘訣はフィルター室の存在にあった」という持論を展開している。レーダーというハードウェアだけあってもダメで、そのレーダーの探知情報を適切に処理して、状況認識につなげる仕組みがなければ始まらない。それがまさにフィルター室だったわけである。

そのフィルター室などから上がってきた情報を基にして、状況を適切に認識して、正しい判断をして正しい指令を下達して。それで初めて防空戦闘が成立する。それを支えたのが、Battle of Britain Bunker みたいな指揮統制施設。

実は、その敵情に関する状況認識だけでなく、指揮下の自軍に関する状況認識もひとつところに集約している点がミソ。つまり、基地ごと、飛行隊ごとのステータス情報を示す仕組みがあって、ワングランスで… かどうかは分からないが、とにかく状況が分かる。

もちろん、正しい情報が正しいタイミングで上がってきていること、という前提がなければ意味がないにしても。ともあれ、彼我の状況を適切に把握できる仕組みがあったからこそ、適切な防空戦闘の指揮ができた。

そういう仕組みを構築したヒュー ダウディングの功績が正当に評価されているからこそ、ダウディング システムがやたらとフィーチャーされているわけだし、Battle of Britain Bunker の近隣にはダウディング パークなんて名前の公園まである。

同じことは、リヴァプールの Western Approach HQ にもいえる。航空戦と比べるとスピードは桁違いに遅いが、基本的な考え方は同じ。指揮官は壁面に示された状況を見ながら、判断して意思決定して指示を飛ばす。ドイツの防空システムにしても、基本的なところは同じ。


それで何をいいたいかといえば。「剣の切っ先」は確かに、分かりやすい上に目立ちやすいし、注目も集めやすい。でも、それを支える「仕組み」(この場合には、状況認識・指揮統制) がちゃんとしていなければ、「剣の切っ先」は仕事をできないし、能力を発揮し得ないということ。

今だったら、情報通信技術もセンサー技術も桁違いに発達しているから、第二次世界大戦の時代と比べれば、比較にならないぐらい高度な指揮統制ができる。でも、第二次世界大戦当時の技術水準で、あれだけの指揮統制の仕組みを作り上げたことは、間違いなく評価に値する偉業だったと思うわけ。

あと、そのダウディング システムを動かす場面で実際に現場の業務を支えていたのが、WAAF (Women's Auxiliary Air Force) 所属の若い女の子たちだったというのがすごい。本チャンの軍人だけで肝心なところを仕切ろうとしたわけではなくて、役に立つところに役に立つ人材を補職する。簡単にできそうで、実は簡単にはできない話じゃないかと。

もっとすごいと思うのは、その Battle of Britain Bunker や Western Approach HQ みたいな施設が今もちゃんと保存・維持されていて、誰でもアクセスできること。ありがたやありがたや。

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