税務訴訟 [Round.5 : かくも支離滅裂な課税現場の実情]
 

リーク、という手段の姑息さ

マイクロソフトの一件もそうだが、その他の「申告漏れ報道」「脱税報道」はたいてい、国税庁や各国税局の Web に「報道発表」として載ることはない。
それはなぜかといえば、あれは国税庁がマスコミに裏口から「リーク」し、マスコミ各社はそれを真に受けて、右から左に流しているからだ。

「記者クラブ制度」の弊害がこんなところにも出ているわけだが、「脱税事件を摘発」といって自慢するなら、何も「リーク」などしなくても、正々堂々と記者会見を開けばよろしい。その方が、「国税の正義の味方ぶり」を国民にアピールできて、イメージ作りの面でも有利なハズだ。ところが、世界に冠たる優秀な日本の国税庁は、そういうことはしないものらしい。(その理由など、私は知る由もない)

まして、マイクロソフトの一件は、もともと当局によって捏造された「事件」である。法的根拠がないというのは当局も (渋々ながら) 認めているから、「脱税」と表立って発表することはできない。しかし、よくしたもので、日本には「申告漏れ」という便利な言葉がある。

当局のリークを無条件に右から左に流すマスコミにとっては、「申告漏れ」と「脱税」は同義である。かくして、

「マイクロソフト社員、ストックオプションの所得を申告漏れ」
(≒「マイクロソフト社員、ストックオプションの所得を脱税」)

という見出しが躍ることになる。

現に、当局のリークをそのまま記事にした各紙はおしなべて、「(意図的に) 所得の少ない一時所得で申告していた」と書いている。多分、当局が、過去に「一時所得とするように」と指導していた事実を伏せて、自分に都合のいいストーリーをでっち上げてリークしたからだろう。そうやって、世論誘導を図るわけだ。

しかも、マイクロソフトの一件では「元社長」というフレーズまで出てくる。マイクロソフト株式会社に、「元社長」は二人しかいない。そのうち一人はまだ在職中だから、事実上、個人を名指ししているも同然だ。
そういう、姑息極まりないやり方で、裏口からコソコソと「元社長」ならびに関係する全社員を指して「脱税犯人」であるかのごとき内容の「大本営発表」を行うというのは、レッキとした、国家権力の濫用による名誉毀損事件である。

あいにくと、名誉毀損事件は被害者側が訴え出ないと裁判が成立しないし、それで裁判を起こすぐらいなら、更正処分の取り消しを求める裁判の方が先決だろうから、名誉毀損で訴える人が出る可能性は低い。かくして、この件は当局の一人勝ちとなる。ふざけた話だ。


なぜ理由を書 (か | け) ないのか

青色申告者の事業所得に関わる更正処分なら、処分の通知に理由を必ず書かなければならない。実際には「所得税法××条による」という程度しか書かないことも多いらしいが、それでも、根拠となる条文を書くだけマシである。

ところが、元インテル会長の西岡氏が訴訟を提起したところ、それに対して当局が提出した「答弁書」には、更正処分の理由付記がないこと、課税根拠となる条文の規定がないこと、が明確に記されていたとのことである。少なくとも、法的根拠がないという点については、さすがの佐藤氏も、ウソはつかなかったらしい (笑)。

確かに、私のところにやってきた更正処分の通知にも、理由は何も書いていなかった。
本当に理由がないのか、表立って書けないような理由なのか、理由をいちいち書くとボールペンのインクが磨り減ってもったいないからケチっているのか、理由を書くと税務署員が原因不明の腱鞘炎にかかるのか。さあどれだ。

しかし、青色だろうがなんだろうが、理由もなく税額を増額せしめる処分ができるということ自体が、おかしな話である。税額を増額するということは、何らかの根拠があってするのが本筋であり、それなら理由を正々堂々と明らかにすればよい。
その「理由付記」を、白色申告者や青色申告者の事業所得以外については避けてもよいという制度運用を行っているのは、背後に何か後ろめたいところがあるのではないかと勘繰りたくもなる。

そもそも、本来なら理由なき更正処分は無効とされるのが、筋というものではないのだろうか ? 国家権力に基づいて処分するのに、理由がない訳がない。


異様なる秘密主義

2002 年の 3 月某日、王子税務署に確定申告書を出しに行ったら、入口に「カメラや録音機は持ち込み禁止」という張り紙が出ていた。

してみると、記録されては困るようなことを、税務署の内部でやっているらしい。自分達の主張に正々堂々たる理由があるなら、別にそれを記録、あるいは公表されたところで、何等困ることはないはずなんだが。

第一、「税務署内に録音機持ち込み禁止」の根拠となる法律はないのではないか ? もし、録音機を持ち込んでるのがバレたら、何を根拠に告発するんだ ? それとも、告発なんて面倒なことはしないで、腕っ節に自身のある税務署員が囲んでフクロにするとでもいうのだろうか ?


"信義則違反" ということ

「申告納税制度」というのは、いうまでもなく、納税者が正しい申告を行うという前提がないと成り立たない制度である。つまり、当局が納税者に対して「正しい申告をする」という信頼があるからこそ、納税者に自ら申告書を書かせているわけだ。現に、確定申告のシーズンになると、あちこちに掲示が出る。

「申告書は、自分で書いて早めに提出」

だからこそ、意図的に偽りの申告をすれば、厳しいペナルティが課せられる。それはわかる。
ただ、それをいうなら、税務署の側にも同じことがいえるハズだ。当局が筋の通った態度を通さずに、しかも虚偽の発言を弄して自らの変節を正当化するようなことをするのであれば、それは当局に対する納税者の信頼を失墜させるものであり、そもそも二枚舌に他ならない。

納税者に対しては虚偽の申告を許さないくせに、自分たちは虚偽の発言をしても平気であるという国税当局の態度に対し、元インテル会長の西岡氏が訴訟を起こし、その中で「信義則違反」ということを問うているのは、至極、当然のことといえる。本件に関し、当局は厳しく断罪されるべきだろう。


そもそも日本は法治国家である

根本的な話になってしまうが、税務署員もしぶしぶながら、本件に法的根拠がなく、自分達の裁量で「給与」と決め付けている点については認めている。

しかし、いやしくも日本は法治国家である。法治国家でありながら、法律で明文化されていないことを役人の裁量で勝手に決めて運用してよいというのが、そもそもおかしな話なのだ。それでは、江戸時代の「悪代官」と変わらないではないか。個々の役人が、行政にかかわる issue を勝手に個人の裁量で決めてよいというのであれば、日本に司法など必要ない。

時代の変化に伴って法律に抜け穴が生じるのは仕方ないが、それならそれで、しかるべき法整備を行えばよい。そのために役人や国会議員が我々の血税で養われている。そういう本来果たすべき義務をないがしろにしておきながら、我々納税者に対しては「納税の義務」を振りかざすというのだから、二枚舌にも程があるというものだ。

しかも、自分達が果たすべき義務を怠っておきながら、過去の申告まで遡及して追徴課税を行うというのだから、自分達の怠慢のツケを納税者に転嫁しているといわれても、言い訳はできまい。こんなにおめでたい職業は、税務署以外にどこにも存在しないだろう。

たとえば、商品の値付けを間違えた企業が、後になって「あれは間違いで、実は商品の本当の価格は 2 倍になります。お買い上げいただいた皆さんには、過去 3 年分にわたって差額を必ず支払っていただきます」なんて発表した日には、朝野を挙げての大騒動になるだろう。それが社会の常識というものである。
そんな常識も通用しないのなら、今の国税庁の職員は全員クビにして、新規にマトモな考え方のできる人材を雇い入れればよろしい。どうだ、文句あるか。


処分内容の不統一

あちこちでこの件に関して話を聞いてみると、実は、当局側の対応がバラバラであることが分かる。

ある人は、過去 3 年分のすべてを「給与所得」に修正申告するよう慫慂を受け、それに応じた。それに際して、過少申告加算税、あるいは延滞税といったペナルティを加算されている。

別の人は、同様に過去 3 年分に渡って修正申告に応じたが、ペナルティは加算されていない。

ある人は、1999 年になって、前年の分についてのみ「給与所得」として修正申告し、それ以前の分については「一時所得」のままで放免されている。人によっては、2 年分は「給与所得」、もっとも古い年の分は「一時所得のまま」という事例もある。

別の人は、税務署員の薦めもあって (と本人は話している) 更正処分にするように打ち合わせた。それに際して追加納税はしたものの、ペナルティは課せられていない。(なんでも、署長の権限でペナルティをなしにする特例というのがあるらしい)

かようにバラバラな対応振りが見られるのは、ひとえに、本件に法的根拠がなく、それぞれの税務署長、あるいは税務署員が、裁量で適当な課税を行っているためである。しかるべき法的根拠があれば、こんな間抜けな事態にはならないハズだ。

この一事をもってしても、日本の税務署が、いかにいい加減に運営されているかが分かろうというものである。要は、税務署に対して立場が強い・弱いとか、税務署の担当者の虫の居所によって税金の取られ方に不平等が生じるのが、日本の税務行政の実体なのだ。
にもかかわらず「課税の平等」「平等な税負担」をうたい文句にするとは、当局もなかなか笑わせてくれる。


なぜ私はこんなにしつこいのか (1)

かくもあれこれと「税務署たたき」のネタを持ち出してくると、中には「何もそこまでいわなくたって」と思う人も出てくると思う。

私とて、日本の財政事情が厳しいのはよく理解しているし、将来的に何らかの形で増税が不可避だろうと覚悟はしている。しかし、それだからこそ、国民の信頼を失わせるような徴税業務は許されるべきではないと思うのだ。

もし、当局が「労働省はああいってるけど、財政事情厳しき折から、政府としても無駄な財政支出の削減に目一杯努力するから、納税者の皆さんにも応分の負担をお願いしたい」といって、法制度をきちんと整えた上で給与所得として課税する… というのなら、こちらも納得しようというもの。

それを、ある日突然「解釈が変わったから黙っていうことを聞け」といって高圧的に課税強化に乗り出してみたり、自分たちに都合のいい話だけを集めてマスコミにリークしたり、ウソも矛盾もお構いなしで自分たちの言い分を押し通そうとしたりする。その一方では、「景気対策」という大義名分の元に、効果の程も定かでない公共事業を乱発して税金を無駄遣いする。そんな調子だから、私は怒るのだ。

こういうやり方がまかり通ると、一人一人の税務署員の裁量で好きなように税金が取れるということになってしまう。それでは税制や申告納税制度に対する国民の信頼は失墜し、納税者のモラルハザードを引き起こし、さらに脱税などの違法行為が跳梁跋扈することになるだろう。

そこのところを、このコンテンツを御覧いただいている皆さんには、ぜひとも御理解いただきたいのだ。


なぜ私はこんなにしつこいのか (2)

さらにもうひとつ。一度出した確定申告書が、当局の解釈ひとつで、ある日突然「所得隠し」にされてしまうという事態を容認していたのでは、我々は安心して確定申告書を書くことができない。

しかも、武蔵府中税務署の佐藤氏が語った内容を敷衍するならば、もし解釈がコッソリ変わったりしても、当局には、それを納税者に対して周知徹底する義務はないのだということになる。それは、納税者の側で自ら能動的に調べなければならないというのが、佐藤氏の主張である。
しかも、誰でも気軽に参照できる国税庁の Web サイトには、Web 版の「タックスアンサー」も含めて、(少なくとも今回の事案についていえば) 現在に至るまで、何の記述も存在しないのが現実なのだ。

本当なら、Web というのは電話や窓口での応対で職員がわずられされないように、簡単な事柄については納税者が自分で参照できるようにするという目的で設置されるものだから、そこには正しい、しかも最新の情報が常に掲載されていなければ駄目だ。にもかかわらず、それがアテにできないというのなら、我々としては、取り得る自衛策はひとつしかない。

つまり、毎年の確定申告シーズンになったら、すべての納税者は最寄りの税務相談室か税務署に赴き、前年度と比較して、法令や通達のみならず、表立って公表されない当局者の解釈など、所得や経費などの区分に関わるすべての領域に関して、税務署員からどういう変更があったか (あるいは、なかったか) を直接、口頭で問い合わせて確認したうえで確定申告書を記述しなければならないということになる。
これが、我々が取り得る、唯一の、そして最善の対策だろう。なにしろ、国税庁の Web はアテにならないということが、今回の一件で証明されてしまったのだから。

こんなことになれば、税務署の仕事はパンクするだろう。ただでさえ、確定申告のシーズンには税務調査もほとんどストップするというぐらいなのだから。しかし、佐藤氏の発言を素直に解釈するならば、それをやらないと、後でドボンされる可能性があるというのだから、我々としては、自衛のために税務署に直接、話を聞きに行く必要がある。

もし、それをサボると、後になって「知らなかったというのは理由にならない」といって、税務調査で呼び出された挙句にドボンされ、追徴課税と過少申告加算税を課徴される可能性があるのだ。しかも、「意図的な脱税」と当局が認定すれば確定申告書の時効は 7 年に延びるから、確定申告書を出したが最後、我々は、7 年間はビクビクしながら暮らさなければいけないということになる。
佐藤氏の話の内容を字義どおり解釈すれば、そういうことである。

しかも、後で「いった・いわない」の議論にならないように、税務署員との問い合わせの一問一答は、すべてちゃんと録音しなければならないだろう。もちろん、世界に冠たる日本の優秀な税務署員は、そのために必要な機材の購入費用を、必要経費として認めてくれることだろう。


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