税務訴訟 [Round.12 : これが公開質問状だ]
 

これが公開質問状だ ! (2002/3/1)

どこまで信が置けるかどうかも分からない結果の数字だけを元に、ひたすら (自己の出世のために) 修正申告を迫る当局のやり方に腹が据えかねていたところへ、どうやら当局も腹をくくったらしく、更正処分をかますつもりになったらしい。
そちらがその気なら、望むところである。こちらとしては、直ちに不服申し立ての上、署長を相手に訴訟を起こすだけのことだ。

ただ、当局側が説得力ある主張を提示する可能性がないかという一縷の望みから、所轄税務署長・以前の所轄である武蔵府中税務署長・東京国税局長の三氏を相手に、本日、以下の内容の公開質問状を発送した。
後で「そんなものは受け取っていない」と言わせないため、配達証明郵便で送付したので、少なくとも「届けられていない」という言い逃れはできない。追って、配達証明の通知が拙宅に届くはずである。

ともあれ、この質問状、私が過去に抱いてきた疑問、そして送付されてきた数字に関する疑問など、いわば本件に関する「総決算」とでもいうべき内容のものになっている。徹夜続きで身体を壊し、風邪で調子が悪い中、何日もかけて練り上げた内容を、まずは御覧いただきたい。

追記 (2002/3/13)

結局、課税庁側は本状の内容を完全に無視し、更正通知書を送付してきた。予想通りの展開であった。
つまり、この展開から分かるのは、課税庁側には説得力のある説明ができないということである。私が説明責任を果たす機会を提供したにもかかわらず、それを自ら放棄したのであるから、これは根拠なき課税強行を自らの行動によって認めたに等しい。これで、こちらとしても訴訟に持ち込む大義名分が成立したというものである。


宛 : 王子税務署長 ならびに関係者各位
同報 : 武蔵府中税務署長・ならびに東京国税局の関係者各位

これは、過去に一貫して「一時所得」として申告してきた、マイクロソフト株式会社在勤中のストックオプション権利行使によって得られた利益の税務上の取り扱いに関して、これまでに得られた各種の情報と、過去の課税庁側の言動に対しての疑問をまとめた公開質問状です。

なお、本状の内容は、すでに全世界に対して公表されており、本状に対する課税庁側の回答についても、同様に全世界に向けて公表します。課税庁側の主張が正々堂々たる、一点の曇りもなく明快、かつ根拠のあるものであれば、それを公表したところで、なんら支障はないはずです。
むしろ、全世界に向けて課税庁側の主張が公表され、それが筋の通ったものとして受け入れられるものであれば、課税現場における混乱を収拾する一助となることでしょう。そのためにも、後で「言った、言わない」の水掛け論にならないよう、本状に対する回答は文書をもってなされるよう要請します。

以下のすべての問いに対して、誠意ある、かつ納得のゆく、誰が見ても筋が通っていると判断できる回答が示されれば、こちらとしても修正申告に応じることを前向きに検討しないわけではありません。
しかしながら、課税庁側が本状に対して回答を行わない、あるいは筋の通らない回答しか示さなかった場合は、課税庁の裁量に基づく身勝手から、筋の通らない課税実務を強行しているものと認定するので、その点に鑑み、誠意ある回答を期待するものであります。

(ただし、修正申告に応じるかどうかが回答の内容に依存するのは、いうまでもないことです。よって、ここで修正申告に応じることを確言するものではありません)

2002/3/1
東京都 *以下略*
(旧住所 : 東京都 調布市 *以下略*)
井上 孝司


所得の性質に関する疑問点 : 「賃金」の概念 (1)

労働基準法の第 3 章「賃金」では、

(賃金の支払)
第 24 条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。

とされている。課税庁側は、ストックオプションについては「行使時に課税」とする立場を崩していないようであるが、権利行使によって株式を取得した場合、それは賃金を「通貨」として受け取ったとはいえない。なぜなら、株式は有価証券ではあっても、通貨ではないからである。この矛盾に関する、筋の通った説明を要求する。

所得の性質に関する疑問点 : 「賃金」の概念 (2)

また、労働省・労働基準局長からの通達として出されている以下の文書と、課税庁が提示する (はずの) 課税根拠との整合性に関する、課税庁側の見解を伺いたい。
少なくとも、「賃金には当たらない」が「労働の対価である」という論旨は支離滅裂であり、社会通念上、納得のいく説明とは考えられない。仮に、同じ「通達」なら労働省の通達より国税庁の通達が優先するということであれば、その根拠は ?

ストックオプションと労働基準法との関係
(平成 9 年 6 月 1 日基発 412 号)

改正商法によるストック・オプション制度では、権利付与を受けた労働者が権利行使を行うか否か、また権利行使するとした場合において、その時期や株式売却時期をいつにするかを労働者が決定するものとしていることから、この制度から得られる利益は、それが発生する時期及び額ともに労働者の判断に委ねられているため、労働の対償ではなく、労働基準法第 11 条の賃金には当たらないものである。

したがって、改正商法によるストックオプションの付与、行使等にあたり、それを就業規則等にあらかじめ定められた賃金の一部として取り扱うことは、労働基準法第 24 条に違反するものである。

なお、改正商法によるストック・オプション制度から得られる利益は、労働基準法第 11 条に規定する賃金ではないが、労働者に付与されるストック・オプションは労働条件の一部であり、また、労働者に対して当該制度を創設した場合、労働基準法第 89 条第 1 項 10 号の適用を受けるものである。

所得の性質に関する疑問点 : 権利付与なくして行使なし

ストックオプションは、権利の付与によって直ちに行使可能になるものではなく、一定の期間をかけて少しずつ行使可能の株の比率が増えるため、直近の労働に対する対価とみなすのは不可能である。(いわゆる vesting)
過去の精勤の対価として権利付与されたとする見解もあろうが、権利付与の時点で直ちに行使可能になるわけではないので、この見解は間違っている。

しかも、ひとたび vesting された分については、いつ、何株分の権利を行使するかは、従業員それぞれの判断に委ねられており、それに対して会社側は一切関知していない。勤務成績がよくないから権利行使ができない、というようなことはない。よって、勤務状態とは無関係に、労働者本人の判断で (一定の期間を経て vesting されてさえいれば) 権利行使が可能である。このような「給与」の出し方は、筋が通らないものである。

所得の性質に関する疑問点 : 継続性の欠如

この vesting の件とも関連するが、ストックオプションの権利行使による収入が、在勤中に継続的に得られているという実例は存在しない。なぜなら、一定の期間を経て vesting されなければ行使は不可能だからである。
よって、ストックオプションの権利行使に伴う収入は、必然的に不連続性を伴うものとなる。また、次項に示す「市場価格に依存する偶発性」との関連により、定期的に権利行使を行っても利益は常に変動する。
つまり、ストックオプションの権利行使に伴う収入は、継続的な労働に対する対価としての「給与」が必然的に伴うべき「継続性」を欠いていることになる。この件に関する課税庁側の見解を聞きたきものなり。

なお、同様に継続性を欠いている「会社からの支払」として退職金があるが、退職金が給与所得に分類されていないことを、併せて指摘しておく。

所得の性質に関する疑問点 : 市場価格に依存する偶発性(1)

企業の株価は、土地の価格と同様、永続的に上昇するというものではない。そのため、権利付与があっても、将来的に所得が得られるということは、まったく保証されていない。現に、米国 NASDAQ 市場における株価の暴落によってストックオプションが紙屑と化した事例は、2000 年から 2001 年にかけて続発した。

この場合、いくら精勤していても「対価」はゼロということになる。行使して利益が出たときだけ「精勤の対価である」として徴税し、株価下落によって含み損、あるいは利益の逸失が生じた場合は知らん顔というのは、ただの二枚舌である。
ストックオプションという制度そのものが「精勤の対価」であると主張するなら、株価上昇による利益発生と、株価下落による利益逸失の両方について手を打つのが当然であろう。なぜなら、「精勤の対価」であると主張するということは、精勤に対して相応の対価が常に伴うということを意味すると考えられるからである。

しかし、現実の株式市場においては、企業の業績が良好でも、別の外的要因によって株価が動くことも少なくない。たとえば、同業他社が業績不振に陥ったため、業績がよい会社まで巻き込まれて株価がセクター単位で低迷するということは、実際、多く起きている。このことを勘案すると、ストックオプション制度を個人の業績に対する「成功報酬」と考えた場合、制度によって得られる収入と業績の間に「直接的な比例関係」があるとみなすのは無理がある。

また、権利が行使可能になった時点で株価がどのような推移を見せているかは、社員個人にはコントロールできない領域の話である。業績がよくても株価が上がらない、あるいは赤字続きでも株価が上がっている、といった事例はたくさん存在する。それと「労働の対価」をリンクさせることには、根本的に論理的矛盾があると考える。にもかかわらず、課税庁側が両者をリンクさせられると判断した理由は ?

所得の性質に関する疑問点 : 市場価格に依存する偶発性 (2)

しかも、今回問題になっている外資系企業各社の場合、問題になっている株式は米国本社のものである。world-wide に事業を展開する大企業においては、日本法人の業績だけで米国本社の株価が動くものではなく、場合によっては日本法人が健全経営でも米国本社の経営不振によって株価低迷、ということも起こり得る。この場合、日本法人の社員は「精勤の対価」を手にすることができず、くたびれもうけとなる。

あるいは逆に、日本法人の業績は今ひとつでも、米国本社の業績が絶好調なら、米国の株式市場においては株高を招く可能性は高い。それでも、業績が上がっていない(=精勤していない)日本法人の社員が、米国本社の株式を使用したストックオプション制度の権利行使によって利益を得ることは、(vesting さえされていれば) 何人も妨げ得ない。
このことも、「ストックオプション = 精勤の対価」とする課税庁側の主張の根拠のなさを証明すると考えるが、それに対する課税庁側の見解は ?

所得の性質に関する疑問点 : 含み損という「精勤の対価」?

昨今のように株価が低迷している場合、権利の行使そのものができない、あるいは過去に権利行使して株式を取得したものが多額の含み損を抱えているという事態は多い。にもかかわらず、課税庁側が「行使時課税」という方針を掲げているために、借金して納税している実例についても、悲痛なる内容の投稿が手元に送られてきている。
かような事態を惹起せしめ、かつ何等の救済措置も講じていない理由は ?

少なくとも、ストックオプション制度が「精勤の対価」であるならば、精勤したものは等しく対価を受け取るべきである。それが、課税庁職員の好む「平等」という言葉の意味するところであろう。
しかし、株価が労働者個人の努力と無関係なところで動く以上、労働の成果と、ストックオプションに代表されるような株価連動型の報酬の間には、直接的なリンケージが存在しないのは、ここまでに提示した各種の疑問点からも明白である。

所得の性質に関する疑問点 : 保証されない利益

これまでの問題提起で判明しているように、ストックオプションとは、あくまで「将来的に多額の差益が得られるかもしれない」という制度であり、多額の差益を最初から保証しているものではない。相場の動向によっては、実際には差益は少額、ひょっとすると皆無にもなり得るという性質のものである。それに、vesting される前に何か事情があって会社を辞めるかも分からない。その場合、権利行使によって差益を得る可能性はゼロである。

見方を変えれば、これは給料の代わりに「宝くじ」を支給するようなものである。「3 億円当たるかもしれないから、これを給料として支給する」などという給与の出し方は、絶対にあり得ない。

にもかかわらず、利益が出たときだけ「給与だ」と強弁し、利益が出ないときには知らん顔というのは矛盾がある。この件に関する課税庁側の見解は ?
それとも、課税庁側は「腎臓を売って税金を払え」とでもいうのだろうか ?

所得の性質に関する疑問点 : 株価下落による「賃金不払い」

株価の低迷によってストックオプションの権利行使による利益が得られなくなったということは、本制度によって得られる利益を「労働の対価」と位置づける課税庁側の見解を敷衍するならば、「給与不払い」が発生したということになる。
給与の「不払い」が発生した場合の、通常の税制上の取り扱いは ? もし、それがストックオプションの権利行使に関する含み損に対して適用されないとすれば、その理由は ?

少なくとも、権利付与なくして権利行使はないのだから、「行使=対価」という単純な考え方が適用されないのは明白で、権利付与 → vesting → 権利行使という、一連のプロセス全体を視野に入れた対応が必要なのは明白である。

どうしてもストックオプションの権利行使が (含み益も含めて) 精勤の対価であると主張するのであれば、逆に含み損が発生した場合についても手を打つのが自然であると考える。

所得の性質に関する疑問点 : 源泉徴収なき給与

ストックオプションの権利行使によって得られる所得が「労働の対価」であるところの「給与の一部」であるならば、当然、それは源泉徴収の対象となる。給与所得者の給与は、源泉徴収制度の対象であり、例外はなかったハズである。
この点に関する当局の見解もまた、今に至るまで発表されていない。理由があれば聞きたきものなり。

この件も含めて、課税庁側の対応は全般的に、都合のいいところだけ「給与」として認識し、都合の悪い点は意図的に目をつぶっているように見受けられる。
「そうではない」と主張するのであれば、すでに提示してきたあまたの疑問に対して、筋の通った回答が提示可能なハズである。


課税根拠に関する疑問点 : そもそも法的根拠の有無は ?

武蔵府中税務署の佐藤氏は、「ストックオプションを給与所得として課税する法的根拠はない」と発言している。そもそも、この発言は正しいか ?

また、同氏は「こちらとしては、公にされてる法律が元になってますから、「知らなかった」ということは、冷たいいい方ですけど、理由にはならない、と」とも発言しているが、同じ席における同一人物による発言であるにもかかわらず、「法的根拠はない」が「法律が元になっている」という発言には矛盾がある。この矛盾に関する、筋の通った説明を聞きたきものなり。

課税根拠に関する疑問点 : 解釈通達の有効性と、憲法との関係

本当に法的根拠がない場合、それに代わって何を根拠としているのか?
仮に課税庁側が「解釈通達」を根拠として示した場合、本来は法的裏付けを持ってなされるべき課税実務が、国民の代表たる国会の議決を経ていない、一通の「通達文書」を根拠としてなされているということになる。
このことは、課税庁が立法府たる国会の権限を侵害し、ひいては憲法に定められた三権分立をも侵害しているものと考えられる。これに関する課税庁の見解は ?

課税根拠に関する疑問点 : 解釈通達 = 課税根拠 の根拠

にもかかわらず、「解釈通達」に法律と同等の権限があるので課税する、と課税庁側が主張するのであれば、その根拠となる法律は何法の第何条か ?

課税根拠に関する疑問点 : 「確定申告の手引き」の信頼性欠如

少なくとも、過去の課税実務において「一時所得」と指導してきた事例が存在するのは、すでに事実であることが明らかにされている。課税庁側はそれを「誤指導」と主張するが、「誤指導」であるはずのものが「所得税確定申告の手引き」その他の文書類に堂々と、しかも課税庁職員の職名をもって書かれていたということは、「所得税確定申告の手引き」そのものがアテにならない文書なのではないかという疑問を惹起する。
つまり、課税庁職員自らが「自分たちはこれを参考にして仕事をしている」と明言する「手引書」の信頼性に疑義がもたれている。かような文書を、毎年のように有料で販売しているという矛盾に関する当局の見解は ?

課税根拠に関する疑問点 : 解釈転換の公式日時

「誤指導」の有無は別として、少なくとも課税現場において、昭和 60 年頃から一貫して「一時所得」として課税指導が行われてきたのは、紛れもない事実である。何らかの事情により、途中から「給与所得」に解釈を変えたのだとすると、その「解釈の転換」があったのは、公式には西暦何年何月何日のことか ? また、その転換は誰によってなされたものか ?
さらに、解釈の転換があったという事実を課税庁は速やかに公表していたか ? もし公表していない場合は、その理由は?

課税実務に関する疑問点 : 解釈転換が公表されざる理由

解釈の変更であれなんであれ、正しい申告を普及せしめる観点から見て、課税庁は正しい申告が行われるよう、常に広報活動を行うべきであると考える。今次案件のように重大な変更が、ある日突然、一通の通達によって変更され、しかもそのことを納税者側に対して広報しないのは、明らかに課税庁側の怠慢である。

当初より「給与所得として申告するように」と適切に広報していれば、正しい申告と課税が行われ、現在のように訴訟が続発するような事態は生起しなかったハズである。まして、対象になる外資系企業が何万社もあるわけではない。各社の担当者に宛てて文書を送り、事情を説明すれば済むというだけのことである。それによって確実な税収が得られる上に、後から蒸し返すよりも無駄が少ない。
しかるに、現実の課税庁側の対応は、密かに解釈を変更しておき、後から闇討ちをかけるかのごとき形で追徴を迫っている。これは、納税者側のキャッシュフローを無視した暴論である。かような手法が許されている法的根拠は ?

このような、本来とられるべきであった措置を怠り、結果として課税現場に混乱を生起せしめた責任に関する、課税庁による筋の通った説明を要求する。

課税実務に関する疑問点 : 「3 回目」の謎

周囲の関係者に取材してみると、たいていの場合、ストックオプションに関する確定申告が 3 回目に達した時点で、所轄税務署から呼び出しを受けている。1 回目でもなければ、4 回目でもない。私が取材したすべての範囲においては「3 回目」である。自分自身もこれに該当する。

ある特定の時期を境に解釈の変更があったのであれば、ただちに疑わしい申告書をピックアップして呼び出しをかければ済むハズである。多額の「一時所得」が計上された確定申告書が、そう毎年のように同一人物から同一税務署に対して大量に提出されるとは考えられないからである。速く手を打てば、それだけ適正な申告がなされる量が増加し、結果として課税庁側の徴税業務に関わる負担は軽減される。

にもかかわらず、数年という長いタイムスパンに渡り、「3 年目」の確定申告書に至って初めて呼び出しが行われているという手法が横行しているのは腑に落ちない。ある時期を境に解釈が変わったのなら、一斉呼び出しをかけると考えるのが自然だが、そうはなっていない。これに関する筋の通った説明を聞きたきものなり。

課税実務に関する疑問点 : 広報の不徹底を示す証拠

武蔵府中税務署の佐藤氏は、申告に際していちいち課税庁側に伺いを立てろ、という趣旨の主張を行っている。しかし、現実問題として、確定申告の度にすべての納税者が税務署ならびに関係機関に押しかけて、自分が関わるすべての分野について法律の変更や解釈通達の変更があったかどうかをいちいち問い合わせていれば、課税庁の業務がパンクするのは自明の理である。となれば、かような無駄を防ぐためには、事前に広報活動に励むのが筋であると考えられるが、課税庁側がそれを怠っている理由は?

また、同氏が引き合いに出した「タックスアンサー」についていえば、少なくとも 2000 年暮の時点ではストックオプションに関する記載はなく、また、2000 年暮から 2001 年にかけて、国税庁自身の Web サイト (http://www.nta.go.jp/ のことである) で「ストックオプション」をキーワードに検索しても、何もヒットしなかった。
にもかかわらず、「タックスアンサーや国税庁の Web サイトがあるのだから、知らなかったというのは理由にならない」と佐藤氏は主張する。これが筋の通った主張と考えられるだろうか ?

課税実務に関する疑問点 : 「間違い」の捏造

自ら、「給与所得として申告するように」との広報活動を怠っていたにもかかわらず、後から呼び出す段になって「申告の間違い」と称して、自らに非は存在しないかのごとき言動をもって納税者サイドに修正申告を迫るのは、明らかに傲慢な態度といわざるを得ない。
「誤指導」であったか否かを問わず、多くの納税者が「一時所得で」という課税庁職員の指導を信じて申告を行ったにもかかわらず、後から「それは間違いだ」といわれている。
これは、たとえていえば、「何もしないから」といって部屋に連れ込んだ女性をレイプするようなものである。

自らの課税方針の迷走に起因する混乱であるにもかかわらず、「申告の間違い」と称して納税者に責任を転嫁し、自らの間違いを認めない理由は ?
過去に「俺がルールブックだ」と言った野球の審判がいたが、課税庁の見解としては、一人一人の職員そのものが「所得税法」と認識しているのであろうか?

課税実務に関する疑問点 : 「リーク」とは姑息なり (1)

2000 年 8 月に「マイクロソフト社員の申告漏れ」なるニュースが流れた際の、報道各社のニュースの趣旨としては、いずれも「当局は一貫して『給与所得』として指導してきたにもかかわらず、マイクロソフト社員は意図的に税額の低い『一時所得』として申告し、税金を不当に免れようとした」というものであった。
この件に関するニュースリリースが国税庁の Web に掲載されていないところから見て、これは当局による情報リークであると考えるが、それは事実か?

課税実務に関する疑問点: 「リーク」とは姑息なり (2)

また、後に「西岡裁判」の席において、(「誤指導」であったかどうかは別として)「一時所得」として指導していた事実が存在することを課税庁自身も認めている。訴訟提起後に、延滞税と過少申告加算税の取り消しがなされたのは、当局がそのことを暗に認めた傍証であろう。
ということは、2000 年 8 月の情報リーク (?) による報道そのものが、部分的ながら「誤り」であったことになる。すなわち、課税庁は自らの体面を重視するあまり、不当にマイクロソフト株式会社の関係者を脱税犯人扱いした挙句、名誉を大きく傷つけたといえる。
よって、当局による公式な謝罪、ないしは名誉回復措置を要求する。

しかも、アメリカの株高の恩恵を受けた一部外資系企業を「狙い撃ち」したともいえる今回の措置は、いわば外資系企業の日本における商行為に対する公権力濫用による嫌がらせといわれても仕方がない。この見解に関する当局の反論を聞きたきものなり。

課税実務に関する疑問点: 「リーク」とは姑息なり (3)

また、本件に限らず、「申告漏れ」の報道は当局による情報リークによってなされることが多いと聞く。これについては国家公務員の守秘義務違反ではないかとする法曹関係者からの指摘も存在するが、かような手法を正当化せしめる根拠は ?
また、「リーク」ではない場合、それを公式発表しているのか ? 公式発表している場合、Web 等を通じた参照は可能か ? もし公表されていない場合、その理由は ?

課税実務に関する疑問点 : これは非関税障壁である

国内企業の一部業種では、ストックオプションの権利行使に際して優遇措置が認められているが、同業種の外資系企業には、かような優遇措置はない。企業の国籍によって扱いを違えるのは、レッキとした非関税障壁である。
これは「給与所得」の件と違って国会で議決された事柄であるようだが、事情はどうあれ、かかる不平等を放置しておきながら、一方で「平等な納税」を振りかざすというのは、支離滅裂である。

また、権利行使の時点でいったん株式を取得し、それを後で売却するというケースでは、権利行使の時点で購入価格と実際の株式の市価の差額が課税対象になっている。これは日本企業に対するストックオプション制度では非課税であり、日米企業で扱いが違うという、これまた「非関税障壁」状態になっている。
こうした不当なる扱いがまかり通る理由を聞きたきものなり。

課税実務に関する疑問点 : 課税現場の支離滅裂

あちこちでこの件に関して話を聞いてみると、実は、当局側の対応がバラバラであることが分かる。

ある人は、過去 3 年分のすべてを「給与所得」に修正申告するよう慫慂を受け、それに応じた。それに際して、過少申告加算税、あるいは延滞税といったペナルティを加算されている。
別の人は、同様に過去 3 年分に渡って修正申告に応じたが、ペナルティは加算されていない。
ある人は、1999 年になって、前年の分についてのみ「給与所得」として修正申告し、それ以前の分については「一時所得」のままで放免されている。人によっては、2 年分は「給与所得」、もっとも古い年の分は「一時所得のまま」という事例もある。
別の人は、税務署員の薦めもあって、更正処分にするように打ち合わせた。それに際して追加納税はしたものの、ペナルティは課せられていない。

同じストックオプションの権利行使という案件であるにもかかわらず、かように対応が分裂している理由を聞きたきものなり。

また、以前には東京国税局管内のみにおいて「給与所得」としての課税強行が先行していたことも、すでに提起されている税務訴訟の席で明らかにされている。もし、「そんなことはない、最初からすべての人に同様に申告させている」と主張するのであれば、その根拠を聞きたきものなり。

課税実務に関する疑問点 : 遡及ということの横暴

また、「過去の申告に遡及する」という点にも問題がある。この論法で行けば、消費税が 5% に上がったら、それ以前の消費支出についても、消費税の差額 2% を追加納税しなければならないということになる。そんな馬鹿な話はない。 この件に関して課税庁がもっとも使いそうな主張は、「所得隠しは過去に遡及して追徴することができる」というものであろうと想像される。しかし、「一時所得」と指導していたのは、当の課税庁側である。それを「所得隠し」というならば、過去の経緯から見て、課税庁が自ら、納税者に対して「所得隠し」を指南していたということになる。

昭和 60 年ごろから提出されている、過去の古い確定申告書については、単に課税庁の怠慢で物言いがつかなかっただけという可能性も考えられる。しかし、それなら自分たちの職務怠慢のツケを納税者に転嫁しているわけだから、ますますもって看過し難いものがある。
そもそも、マイクロソフト株式会社がストックオプション制度を運用し始めたのは、ここ数年の話ではない。また、武蔵府中税務署の管内に居住していたマイクロソフトの関係者は私ひとりではない。だから、「数が少なくて見落としていた」という言い訳は成立しない。

よしんば数が少なかったのだとしても、数が少なければ見逃すというのでは、とても公平な課税とはいえない。数が多かろうが少なかろうが、正しくない申告を見つけるために、課税庁の職員は国民の血税で雇われているのではないのか。時期と場所によって取り扱いが異なるという、著しく透明性の欠如した課税現場を放置しておくために、米陸軍の重師団 3 個分にも相当する、50,000 名を超える国税職員が国民の血税で雇われているのではないハズだ。

少なくとも、民間のビジネスにおいて、「この前売った商品の価格が間違っていたので、過去に売った分も含めて3年分、差額を払ってくれ」などと言い出せば、袋叩きに遭うのは間違いないし、よしんば言い出したとしても、頭を下げて回るのが常である。否、そもそも、そんなことを言い出す者は、まず存在しない。
民間では「非常識」とされることが「官」では常識とされるのは理解に苦しむ。本件に関する筋の通った説明を聞きたきものなり。

課税実務に関する疑問点 : 商法改正の問題ではない

また、「1997年の商法改正によって、日本でもストックオプション制度が利用できることになったので、それを受けて所得区分の解釈を変えたのだ」というかもしれない。しかし、日本の商法改正がどうあれ、ストックオプションという制度の内容と、それによって得られる利益の性質を勘案すれば、すでに主張してきているように、それが「精勤の対価」としての性質を持ち得ないことは明白である。

しかも、私個人についていえば、「給与所得」にまつわる電話が初めてかかってきたのは 2000 年 4 月のことである。1997 年の商法改正後、3 年も放置していたのだから、それは単なる課税庁の怠慢であるという結論が導き出されるのは、至極当然であろう。

こうした事情から見て、当局の本音の部分は、1999 年から 2000 年にかけてのアメリカの株高と、それによる、日本における外資系企業社員のストックオプション行使増大、それに加え金額が大きなものになってきたという様子を見て、「あいつらは儲かってるみたいだから、取れるところから取っちまえ」という話になったという話ではないか、と看做さざるを得ない。実際、デルコンピュータの吹野氏の元を訪れた課税庁職員は、「NASDAQ で上げているハイテク企業を対象にしている」と明言したとの由である。
もし、この認識が誤りであるとするなら、その論拠を聞きたきものなり。

課税実務に関する疑問点 : 今に至るまで法改正なき理由

当局がいうように、商法改正に伴う解釈変更なら、法改正によって正々堂々と「給与所得だ」という法的根拠を整えればいいものを、そうしないのはなぜか ?
現に、拙宅に電話してきた武蔵府中税務署の K 氏は、電話の席で「みんなそうしてるんだからそうしろ」の一点張りで、理由らしい理由は 1 ビットも口にしていない。

こうなってくると、今に至るまで法整備がなされていないのは、「この期に及んで法整備を行うと、過去の分は「給与所得ではなかった」というのを認めることになり、都合が悪い。その点、「最初から給与所得と指導していた」と主張して所得隠しということにすれば、追徴課税も過去に対する遡及も可能になるので、実入りが増えておいしいし、これで手柄を上げれば昇進にも有利」という当局者の判断が働いていたのではないか、と邪推したくもなるのである。
おそらく、課税庁側はかような主張を一蹴するであろうが、一蹴するならするで、その論拠を聞きたきものなり。


送付された数値に関する疑問点 : 計算過程の不明瞭

今回送付されたのは、最終的な円建ての「結果」の数値のみであり、

  1. 何日付で何株分の権利を行使し、
  2. それの購入価格と売却価格の差がいくらで、
  3. それによって得られたドル建ての利益と、
  4. 当時の為替相場によって算出された円建ての利益がいくらになったか

という、送付された数値に至るまでの計算過程が不明である。よって、その過程を詳細に証明するすべての数値の提示を要求する。それなくして修正申告に応じろといわれても、それはできない相談である。
自分自身に関する課税庁の調査結果を提示したことに対して、守秘義務違反として告発する意思はない。よって、正々堂々、計算の全過程を示していただきたい。過程に関わるすべての数値を示すことができない場合は、送付された数値がでっち上げと判断せざるを得ない。

送付された数値に関する疑問点 : 「精勤」と「対価」の関連

課税庁側は、ストックオプションの権利行使によって得られた収益を、常に「労働の対価である」と主張している。
ということは、労働によって示した成果が大きいほど、それに対する対価が増額されると考えるのが、社会通念から見て妥当である。MSKK 在勤中の 7 年間の、勤務成績と所得の相関関係を比較した上で、ストックオプションの権利行使による所得(課税庁いうところの「精勤の対価」)と勤務成績の間に明確な相関関係がなければ、ストックオプション=精勤の対価という課税庁の主張は論拠を失うハズである。

よって、年次ごとに、勤務成績と「労働の対価」の相関関係を証明することを要求する。なぜなら、労働によって成果を出していないにもかかわらず多額の「精勤の対価」を受け取ることは、社会通念上、妥当とはいえないからである。

送付された数値に関する疑問点 : 「勤務期間」と「対価」の関係

また、「労働の対価」ということは、得られた対価に関しては「いつからいつまでの労働によって示された、これだけの成果に対してこれだけの対価を支払う」ということが明確でなければならない。よって、得られた対価が、いつからいつまでの労働、ならびに労働によって示した成果に対して支払われたものであるか、その論拠を提示するよう要求する。
もちろん、その論拠には法的裏付けが求められるのは当然である。

送付された数値に関する疑問点 : 「雇用契約に従属する従たる契約」?

すでに進行中の税務訴訟の席で、課税庁側は「雇用契約に従属する従たる契約」なる面妖なる主張を論拠として、海外親会社の株式を利用したストックオプション制度を「給与」と看做すことの合法性を主張しているとの由である。 しからば、一般論としてではなく井上個人を対象として、この「雇用契約に従属する従たる契約」あるいは、井上個人が米国 Microsoft Corporation の直接指揮命令下に置かれていたということを証明する必要があると考える。


最後に

課税庁側の言い分がどうあれ、法的根拠なく、単に通達文書と「解釈」のみをもって、今回の「一時所得→給与所得」とする所得区分の解釈変更がなされているのは、紛れもない事実である。しかも、それに際して過去に遡れるだけ遡及して課税するのみならず、さらに(課税庁側の指導に従っていた納税者に対して)延滞税と過少申告加算税を課するという横暴がまかり通っている。

これは、単にストックオプションの所得区分をめぐる単一的な問題ではない。
課税庁が通達ひとつで、あるいは現場の職員の解釈ひとつで好きなように税金をかけ、しかもそれを過去に遡れるということになれば、納税者は課税庁の指導を信頼して申告書を記述し、納税を行うことはできない。なぜなら、今は「正しい」とされてきたことが、いつ「間違い」に仕立て上げられ、あまつさえペナルティまで課せられるような真似がなされないとも限らないからである。

こうした事態が続発すれば、多くの納税者は「後で修正申告を迫られるかもしれない」と考えて、手持ち資金の使用を手控える可能性が高い。それは結果として、日本国内の消費の低迷に拍車をかけ、景気回復の足を引っ張るという副次的被害を誘発する。
また、経済構造の変化、あるいは報酬制度の多様化といった事態に課税庁が追従できず、さんざん時間をかけた挙句に実情に合わない、目先の税収増だけを目的とした支離滅裂な課税が横行すれば、日本という国そのものが海外の投資家から敬遠されるという事態にもなりかねない。

かような課税実務の現状は、課税庁が自分の手で、自らに対する信頼と、ひいては申告納税制度の土台を切り崩しているに等しいと考える。申告納税制度は課税庁と納税者の相互信頼によって成立する制度であり、一方が他方を信頼できないというのであれば、もはや申告納税制度は成立しない。それは結果として納税者のモラルハザードを招き、不正申告の横行を許すことになるであろう。
すでに、あまたの官僚不祥事や国税OBによる大規模脱税事件などもあり、税制、ならびに税金の用途に関する国民の目が厳しくなっていることを、課税庁のみならず、すべての政府関係者に認識していただきたいと願うものである。

しかも、それが偶発的なものであるか否かに関わらず、企業が社員に対して提示するさまざまなインセンティブを軒並み課税対象としてしか考えず、結果としてインセンティブを骨抜きにしてしまうという課税庁の近視眼的対応は、「努力するものは報われない」という認識を定着させ、日本経済の活力を殺ぐ結果になる。
仮に、百歩譲ってストックオプションが課税庁いうところの「精勤の対価」であるとするならば、それによって得られた多額のインセンティブは、そのまま国庫に入れずに個々の社員が消費拡大に向けてこそ、経済の活力を増し、結果として税収増にもつながるものと考える。「稼いでも税金で持っていかれるだけ」という状況下で、労働者のモチベーションを上げろという方が無理である。

また、もうひとつの問題点として、現行税制が場当たり式に付け加えられてきた各種の控除制度と複雑怪奇な所得区分によって、奇怪な様相を呈している点がある。そもそも、所得区分というものが存在しなければ、今回のような問題は発生しなかったハズである。
よって、小泉内閣が掲げる税制改正に際して、税制の大幅な単純化とトランスペアレンシーの確保を期待するものである。それは最終的に、個々の課税庁職員による「裁量」の入り込む余地の少ない、誰でも納得できるシンプル、かつ明快な課税実務をもたらすものと期待するためである。


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