税務訴訟 [Round.15 : 名無し税務署員による却下通知 (IV)]
 

おことわり :
本文中で使用している [1] は、原文書では丸数字の「1」であるが、機種依存文字であるため、代案として [1] と表記した。また、半角カタカナの使用についても、これを全角文字に変更している。
かくも国税庁は機種依存文字に無頓着であるらしいが、そんなことで業務の電子化ができるんだろうか。少なくとも、現状の文書を XML 文書化することは不可能だ (嘲笑)

異議決定の理由

一 平成 11 年度分所得税の更正処分について

 異議申立人 (以下「申立人」といいます) の平成11年度分所得税の更正処分に対する異議申立ては、次に述べるとおり、不適法な申立てであると認められます。
 すなわち、国税通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第 1 項第 1 号に規定する異議申立ては、税務署長がした国税に関する法律に基づく処分に対するものとされていますが、この場合の処分とは、納税者の権利または法律上の利益を侵害するものをいいます。
 申立人の場合、異議申立ての対象とした平成 11 年度分所得税の更正処分は、納付すべき税額を減少させる減額更正処分であり、申立人の権利又は法律上の利益を侵害するものではありません。
 したがって、申立人の平成 11 年分所得税の更正処分に対する異議申立ては、申立ての利益を欠く不適法なものです。

二 平成 10 年度分所得税の更正処分について

1 申立人は、平成 10 年度分所得税の更正処分 (以下、「本件更正処分」といいます。) について、次の理由から、その全部を取り消すべきである旨主張されます。

(1) 本件更正処分の通知書には、更正の理由が付記されておらず、所得金額の算定根拠が不明である
(2) 原処分庁は、申立人が外国法人であるマイクロソフトコーポレーション (以下「米国マイクロソフト社」といいます。) から付与された同社の株式に係るストックオプション (所定の数の株式を、所定の価格で所定の期間内に購入できる権利をいい、以下「本件ストックオプション」といいます) の行使に係る所得を給与所得と認定している。
 しかしながら、本件ストックオプションの行使に係る所得が [1] 労働の対価とするならば勤務成績との相関関係があるはずであるが、それが証明されていない (勤務成績と直接の関係があるわけではない) こと、[2] その対象となる勤務期間がいつからいつまでなのか不明であること、また、[3] その行使時期、行使株数が付与されたものの自由であることから、所得の発生が非継続的であること、更に、[4] 市場株価に基づくものであり、その株価は、企業業績に左右されるわけではなく偶発的であること等からして、一時所得に該当するものである。

2 しかしながら、次に述べるとおり、本件更正処分は適法に行われており、申立人の主張には理由がありません。

(1) 申立人の主張の (1) について
 更正処分に当たってその通知書に更正の理由を付記しなければならないのは、所得税法第 155 条《青色申告に係る更正》第 2 項の規定により、青色申告書に係る年分の事業所得等の金額の更正をする場合に限られているところ、申立人が提出した平成 10 年分の所得税の確定申告書は、青色申告書ではありません。
 したがって、申立人に対する更正通知書には更正の理由を付記しなかったとしても、何ら違法ではありません。

(2) 申立人の主張の (2) について
イ 異議申立てに係る調査によれば、次の事実が認められます。

(イ) 申立人は、米国マイクロソフト社が 100 パーセント株式を有する会社であるマイクロソフト株式会社 (以下「日本マイクロソフト社」といいます。) に勤務していたこと。 (ロ) 米国マイクロソフト社は、同社並びに子会社等の役員及び使用人を対象としてストックオプションを付与する制度を有しており、これらのものにストックオプションを付与していること。 (ハ) 本件ストックオプションは、申立人が日本マイクロソフト社に在職していた [1] 平成 5 年 7 月 30 日及び [2] 平成 7 年 7 月 31 日に、米国マイクロソフト社から付与されたものであること。 (ニ) 米国マイクロソフト社のストックオプションプランには、要旨次の記載がされていること。

A ストックオプションプランの目的は、従業員の経済的利益と株式を長期に保有することを結びつけることにより実質的に責任のある職にもっとも適した人材を誘引しかつ保持すること、当該人材に対して付加的なインセンティブ (誘因) を提供すること及び会社の事業の成功を促進することである。
B オプションは、従業員 (米国マイクロソフト社又はその親会社若しくは子会社が雇用する者を意味し、役員を含む。) に対してのみ付与される。
C 従業員としての継続的な地位が終了した場合、オプション保有者は、その終了の日に行使できる限度までストックオプションを行使することができる。
 また、当該行使は、当該終了の日後、3 ヶ月以内にしなければならない。

(ホ) 本件ストックオプションは、申立人が、米国マイクロソフト社のストックオプション制度に基づき付与されたものであり、その付与時に作成された付与契約書 (以下「本件契約書」といいます。) には、要旨次の通りの記載があること。

A 米国マイクロソフト社は、申立人に対し、一定数の同社の株式を一定の価格で購入する権利を付与する
B この権利は、本件契約書の契約日から 1 年半後に 4 分の 1 (平成 7 年 7 月 31 日付与分は 1 年後に 8 分の 1)、その後、6 ヶ月ごとに 8 分の 1 ずつ確定し、54 ヵ月後にすべての権利が確定する。
C この権利は、権利付与日から 10 年後 (平成 7 年 7 月 31 日付与分は 7 年後) に消滅する。
D 権利者が退職した場合は、退職日において行使できる限度まで、ストックオプションを行使することができること。退職後 3 ヶ月以内に権利行使しなければ、その権利は消滅する。

(ヘ) 日本マイクロソフト社は、米国マイクロソフト社に対し、役員又は使用人の会社への貢献度等を勘案し、一定の者にストックオプションを付与するよう選抜し推薦していること。
(ト) 日本マイクロソフト社の「採用のご案内」において、昇給・賞与としてストックオプションのプログラムがある旨記載されていること。
(チ) 申立人は、本件ストックオプションの行使を平成 10 年度中に行っていること。

ロ 所得税法第 28 条 《給与所得》第 1 項において、給与所得とは、「俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいう。」と規定しています。
 この場合における「これらの性質を有する給与」とは、単に雇用契約に基づき労務の対価として支給される報酬というよりは広く、雇用又はこれに類する原因に基づいて、非独立的に提供される労務の対価として、他人から受ける報酬及び実質的にこれに準ずべき給付を言い、労務の提供が自己の計算と危険によらず他人の指揮監督ないし組織の支配に服してなされる場合にその対価として支給なされるものであると解されます。
 一方、所得税法第 34 条《一時所得》第 1 項において、一時所得とは、「利子所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。」と規定されています。
 したがって、労務その他の役務に対価としての性質を有するものについては、一時所得には該当しないこととなります。

ハ ところで、ストックオプションの制度は、株式会社の役員及び使用人の士気や勤労意欲を高め、かつ、優秀な人材確保の有効な手段として、ひいては、企業の業績工場にも資するものとして導入されたものであり、ストックオプションを付与されたものは、企業の業績向上のために努力し、それにより株価が上昇すれば、ストックオプションを行使することで、業績に対応する利益を享受できるようになることから、ストックオプションの制度は、役員又は使用人の業績向上へのインセンティブとして機能することが期待されています。
 このため、ストックオプションの行使による利益は、役員又は使用人の地位又は職務等に関連する一種の成功報酬としての性格を有するものであり、労務その他の役務の対価としての性質を有するものと解されます。
 そして、申立人の場合のように、親会社から日本の子会社等の役員又は使用人に対してストックオプションが付与された場合においても、これは、子会社等の役員又は使用人として精勤することにより子会社等の業績が向上し、それが間接的に親会社の業績向上に寄与することに着目して行われているものと認められますから、労務その他の役務の対価としての性質を有するものと解されます。
 したがって、このように子会社等における精勤を求める対価として付与されたストックオプションの行使に係る所得は、、雇用に類する原因に基づいて提供される個人の非独立的ないし従属的に人的役務の提供の対価としての性質を持った所得と認められますから、給与所得として課税するのが相当であると解されます。

ニ これを本件ストックオプションについてみると、次のとおりです。

(イ) 米国マイクロソフト社のストックオプションは、同社のストックオプションプランに記載されているとおり、同社及びその子会社等の役員又は使用人に対し、インセンティブとして付与されるものであって、本件ストックオプションは、申立人が日本マイクロソフト社に対し継続的な労務の提供を行い、同社における使用人としての地位に基づいて米国マイクロソフト社から付与されたものであることは明らかです。
 また、申立人と米国マイクロソフト社との間で作成された本件契約書には、[1] 本件ストックオプションは、その付与がされた日から 1 年半後に 4 分の 1 (平成 7 年 7 月 31 日付与分は 1 年後に 8 分の 1)、その後、6 ヶ月ごとに 8 分の 1 ずつ確定するものであること、[2] この間に、従業員としての継続的な地位が終了した場合には、その行使は、行使可能となっている部分に限られること及び [3] 退職した場合には、権利の行使を当該終了の日から 3 ヶ月以内にしなければならないものである旨が記載されています。
 このように一定期間、米国マイクロソフト社又はその子会社等に対して労務を提供して初めて本件ストックオプションに係る利益を享受し得る内容が記載されている本件契約書が存在すること自体からして、本件ストックオプションの行使に係る所得が労務の対価としての性質を有することは明らかです。
(ロ) そして、[1] 米国マイクロソフト社は、同社及びその子会社等の従業員に対し、インセンティブとしてストックオプションを付与していること、[2] 同社のストックオプションプラン及び本件契約書に定めるとおり、本件ストックオプションは、従業員としての継続的な地位を有することを前提としてその行使が可能となること、[3] 申立人は、米国マイクロソフト社との間で、上記の内容の本件ストックオプションに係る付与契約を締結していること、[4] 日本マイクロソフト社は、同社の採用案内において、ストックオプションを昇給・賞与として位置付けていること及び、[5] 日本マイクロソフト社は、役員又は使用人の会社への貢献度等を勘案し、一定の者を選抜し、米国マイクロソフト社に対しストックオプションを付与するよう推薦していることという事実に照らすと、本件ストックオプションの行使に係る所得は、申立人と米国マイクロソフト社との間の雇用に類する原因に基づくものであると認められます。
(ハ) したがって、本件ストックオプションの行使に係る所得は、雇用に類する原因に基づいて、非独立的に提供される労務の対価として、他人から受ける報酬及び実質的にこれに準ずべき給付に該当しますから、給与所得として課税するのが相当です。
(ニ) なお、所得税法第 34 条第 1 項に規定する一時所得の要件の一つである「労務その他の役務の対価としての性質を有しないもの」にいう「対価」とは、給付が具体的役務行為に対応する場合に限られるものではなく、給付が一般的に人の地位、職務行為に対応、関連してなされる場合をも含むものと解されるところ、米国マイクロソフト社のストックオプションは、同社又はその子会社等の役員又は使用人に対しインセンティブとして付与されるものであって、その行使に係る所得は、このような地位や職務行為を離れてはあり得ませんから、この点から見ても、本件ストックオプションの行使に係る所得が一時所得に該当しないことは明らかです。

ホ 申立人の主張については、以下のとおりです。

(イ) 申立人は、本件ストックオプションの行使に係る所得が、[労働の対価とするならば、勤務成績との相関関係があるはずであるが、それが証明されていない (勤務成績と直接の関係があるわけではない) こと、[2] その対象となる勤務期間がいつからいつまでなのか不明であること、また、[3] その行使時期、行使株数も付与されたものの自由であることから、所得の発生が非継続的であること、から、給与所得に該当しない旨主張されます。
 しかしながら、本件ストックオプションの行使に係る所得は、前期イに記載した事実を、前期ロの所得税法第 28 条の給与所得の規定に照らし、給与所得に該当すると認められることは前述のとおりです。
 そして、給与所得に係る報酬は、必ずしも勤務成績や勤務時間と相関関係があることやその実現の時期が定まっていることが要件とされるものではなく、雇用契約又はこれに類する原因に基づき、一定の非独立的勤務を行うことにより受ける報酬であれば、当該所得が給与所得に該当するものであると解されています。
(ロ) また、申立人は、本件ストックオプションの行使に係る所得が、市場株価に基づき算定されるものであり、その株価は企業の業績だけに左右されるわけではなく、所得の実現が偶発的であるとも主張されます。
 本件ストックオプションは、株価連動型のインセンティブ報酬であって、申立人が主張するとおり、その所得の実現が株式市場の動向を反映することは事実ですが、所得税法第 34 条第 1 項の規定により、労務その他の役務の対価としての性質を有するものが一時所得となることはありません。
 前期ニの (イ) に記載のとおり、本件ストックオプションは、申立人が日本マイクロソフト社の使用人としての地位に基づいて付与され、その後、一定期間、同社に対し継続的勤務を行ったことにより行使可能になったものですから、本件ストックオプションの行使に係る所得が労務の対価としての性質を有し一時所得には当たらないことは明らかです。したがって、申立人の主張には理由がありません。

3 この結果、申立人の平成 10 年分の総所得金額は、次表のとおりとなり、本件更正処分の額と同額となりますので、本件更正処分に違法はありません。

(以下略)

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