税務訴訟 [Round.19 : コピペ裁決書の巻]
 

コピペ裁決書の巻 (2003/1/30)

チャーリー> やっとこさ、裁決書が出たそうで。

デルタ > 審査請求を出したのが去年の 7 月 15 日。裁決書が書留で送られてきたのが、今年の 1 月 23 日。

チャーリー> ざっと半年かかったと。

デルタ > そう。まず、最初に指摘しておきたいのは、裁決書が「書留」で送られてきたという点。

チャーリー> なんで ?

デルタ > 異議申立を却下されたときのこと、覚えてる ?

チャーリー> ああ、2 ちゃんねらーが来た話 (w

デルタ > そうじゃなくて、名乗らぬ税務署員、つまり「名無しさん」ね。その「名無しさん」が、インターホン越しになんて言ったか覚えてる ?

チャーリー> 確か、「受け取りを欲しい」といったとかなんとか…

デルタ > そう。今回だって位置付けとしては似たようなもんだから、同じことを言ってきてもおかしくない。審判所の「名無しさん」が拙宅にやってきて。でも、そうじゃなくて、書留で送られて来た。

チャーリー> へんなの。

デルタ > 書留で送ってくるのが通常の手続きだとするとだよ。異議申立却下の際に、どうしてわざわざ「名無しさん」がやってきて「受け取りを欲しい」などと言ったのか。臭うよ。プンプン臭う。

チャーリー> というと ?

デルタ > たとえば、たとえばだよ。なにか、税務署にとって都合のいい内容 (棄却されても訴訟は起こしません、とか) の「念書」か何かを、「受け取り」と偽ってサインさせようとしたとか…

チャーリー> そこまで疑うか !

デルタ > 疑うよ。国税の言うことなんて 1 ビットたりとも信用してないもんね。実際、税理士 (ちゃんと試験を受けた税理士 :-) の人に聞いたら、「普通、そんなときに "受け取り" なんて求められません」という返事を貰ってる。普通じゃないことをするのは、普通じゃない理由があるハズだよ。

チャーリー> 怪しすぎる…

デルタ > だろ ?


チャーリー> まあ、それはそれとして、裁決書の内容は ?

デルタ > 一言でいうと「原処分庁の主張のコピペ」。

チャーリー> あっそう。

デルタ > 予想通りの筋書きだね。まあ、ひとりだけ例外を作って審査請求を認めるわけにも行くまいし。なんてったって官僚というのは前例踏襲が基本で、「例外が発生しました」なんて認められない世界だからね。それに、国税通則法 99 条の件もあるし。

チャーリー> 「国税庁長官に伺いを立てろ」ってか。

デルタ > それ。だいたい、審判所の審判官てのは、次はどこかの署長になる予定の人が多い。ここで当局の体面に傷つけるような裁決を出したら、署長どころか左遷確定 (か ?)

チャーリー> だろうね。しかし、コピペのために半年かけるか。

デルタ > いや、世界に冠たる優秀な日本のお役人様のことだから、1 文字ずつ丁寧に位置合わせして和文タイプ打ってたんちゃうか。で、14 ページ分コピペするのに半年かかったと。

チャーリー> ぷぷ

デルタ > まあ、それは冗談だけどね。でもって、裁決書の内容は原処分庁の主張のコピペだから、長々と書き連ねてあっても終局的に、言ってることはただひとつ。「地位に立脚して付与された権利だから労働の対価で給与だ」

チャーリー> 前と同じじゃん。

デルタ > で、こちらは「地位に立脚してすべてが給与と認められてるわけではない」という例をいくつか示して差し上げたんだが。

チャーリー> たとえば ?

デルタ > 国税職員に「無試験の特典」があって、税理士の資格が降って来るのは知ってるよね。で、署長・副署長・局長みたいな「指定官職」だと、引退後の顧問先も当局が斡旋する。

チャーリー> いい御身分だこと。

デルタ > それはそもそも、国税庁に継続的に労務を提供した結果として得られたものなんだから「国税 OB 税理士の顧問料収入は給与所得として扱われるべきだ」とやった

チャーリー> そしたら ?

デルタ > シカトぶっこいた。「請求人の主張」にも載ってない。

チャーリー> (笑)

デルタ > どうも、「地位に立脚して所得区分の解釈が決まる」のは、ストックオプションだけらしいんだな。

チャーリー> 「例外 0E が発生しました」… って、Windows のブルースクリーンと違うか。

デルタ > しかも、「もしストックオプションだけが例外的に地位で所得区分が決まるなら、その論拠を示せ」とやったんだが、それも「請求人の主張」に載ってない。

チャーリー> 聞きたくない話は、なかったことにしてしまったと。

デルタ > たとえば、会社の退職金。あれは、会社に対して長年に渡って継続的な役務を提供した結果の報酬だけど、所得の態様に配慮して、税金面で優遇している。それをいうなら、退職に際してストックオプションを権利行使した場合はどうなるのさ。

チャーリー> 確かにね。

デルタ > おかしいのはさ。裁決書の中でも、まず「所得区分が存在するのは、担税力の違いに配慮して…」と書いた後で、今度はその後で「担税力」にまったく言及せずに「所得区分の解釈は地位に立脚して決まる」とやってること。そこでは "担税力" に関する言及は皆無。
さらに笑えることに、「経済的実質に即して解釈適用をするのが合理的解釈といえる」と書いておいて「地位に立脚して給与だ」とやっているから、「地位」がすなわち「経済的実質」ってことらしい。

チャーリー> なんだそれ。


デルタ > あと、「である論」の多発が目につくね。

チャーリー> なにそれ。

デルタ > 「…と解されるべきである」「…に拘束されないのは明らかである」と、当局に都合のいい話については、「である論」に立脚している。

チャーリー> それで ?

デルタ > んが、なぜ「解されるべき」なのか、なぜ「拘束されないのは明らか」なのか、その根拠はない。

チャーリー> あっそう。

デルタ > ひらたくいえば「こうだといったら、とにかくこうなんだよ !!」と駄々をこねている。

チャーリー> やれやれ。ちゃんとした根拠があるなら、説得力強化のためにも、ちゃんと書けばいいのに。

デルタ > んなもん、無いに決まってる (w


チャーリー> ところで。確か、ストックオプション・プランのドキュメントを出したんじゃなかったっけ ?

デルタ > そう。あちこち手を回して入手できたもんで。で、裁決書の「3 判断」で、そのドキュメントを引き合いに出した、こんな記述がある。

(A) 米国マイクロソフト社は、請求人に対し、対価として、1993 (平成 5) 年7月30日付で、同社の普通株式★削除★株を、1 株当たり★削除★米国ドルで購入するストック・オプションを付与する (第 1 条)。

チャーリー> 「対価として」って書いてあるじゃん。

デルタ > ぶっぶー。違うんだな。審判所に出した、件のドキュメントの日本語訳の該当箇所には、こう書いてある。

1. オプション付与。十分な検討を行った結果マイクロソフトコーポレーション (以下、「会社」) は本書面により、「1993 年 6 月 30 日」を以って「★削除★」株を額面★削除★の「会社」の普通株 1 株あたり「★削除★ドル」で購入するオプションを「井上孝司」に付与する。

デルタ > ちなみに、原文はこれ。先と同様、「★削除★」となってるのは、株数と option price が書いてあったところね。

1. Grant of Option. For valuable consideration, Microsoft Corporation ("the Company"), does on July 30, 1993 hereby grant to Koji Inoue, the option to purchase ★削除★ shared of the 0.00044-4/9 par value common stock of the Company for a price of ★削除★ per share.

チャーリー> どこに「対価として」なんて書いてある ?

デルタ > 書いてねえよ !
ちなみに、「旺文社 和英中辞典」に「対価」という単語は載ってなかったけど、もっとも近そうな「代価」の英訳として「price」とか「pay」といった単語が出てきてる。でも、元の英文ドキュメントには、上にある通り、そんな使われ方をした単語は載ってない。終わりの方にある「price」は、単に「株価」という意味しかないのは "a price of ほげほげドル per share" という文脈で明白だしね。

チャーリー> つまり、元のドキュメントに載っていない「対価として」という文言を、審判所が捏造したと。

デルタ > そういうこと。裁決書では「要旨以下のとおりの記載」とあるけど、存在しないことを書くのを「要旨」とは言わないわな。

チャーリー> そりゃそうだ。

デルタ > まだあるよ。

C これを本件についてみると、上記 (イ) の A の本件プラン及ぴ上記 (イ) の B の本件各付与契約書の各規定のとおり、[1] 本件プランの目的として、人材の確保と当該人材に対する追加的インセンティブの供与が掲げられている

デルタ > ちなみに、件のドキュメントの、該当個所の日本語訳はこれ。

1. 「プラン」の目的。「ストック オプション プランの目的は、責任ある職責に最適な人材をひきつけとどめること、彼らに追加的な動機を与えること、そして長期的な株主の地位と従業員の経済利益とを緊密に連携させて「会社」の事業の成功に寄与することである。

チャーリー> どこに「インセンティブを供与する」なんて書いてある ?

デルタ > "incentive" の日本語訳は、「旺文社 英和中辞典」によると「誘発的」「刺激的」「誘引」「動機」だから、「追加的な動機」が該当する、というつもりだろうな。
では、どうしてわざわざ「インセンティブ」と書いて、元の「動機」という日本語を隠蔽したか。「インセンティブ」というと、一般には「成果比例型報酬」的な解釈をされることが多いから、そういう誤解釈を引き起こすことを意図したんだろうな、これは。「動機を供与する」のと「報酬を供与する」のとでは、意味が全然違う。

チャーリー> やれやれ。ひでえ話だ。

デルタ > さらにいえば、12 月に審判所でプレゼンしたときに、「関連ドキュメントのどこにも、雇用継続に関する権利を授与する、あるいは雇用関係を終了する権利を妨げるものではない」、つまり「権利付与があっても、クビにするのも辞めるのも自由であり、従業員としての地位との関連性は薄い」というところを強調したんだが…

チャーリー> 無視された。

デルタ > そういうこと。「権利付与」と「従業員としての立場」のリンケージをいささかでも弱めるような話は、なかったことにしたいんだろうね。
まあ、「誤訳」ならまだしも、ありもしない文言を捏造して「根拠」として提示されても、話にならないわな。

チャーリー> それじゃあ、何のためにわざわざ「日本語訳」を付けて出したのさ。

デルタ > かくのごとき事態を予想していたため。

チャーリー> は ?

デルタ > 他の事例ですでに、審判所が権利付与時の契約書みたいな関連ドキュメントについて、甚だしく都合のいい身勝手な解釈や恣意的な翻訳 (超訳 ?) をやっているのは、先刻承知してたわけ。

チャーリー> ふむふむ。

デルタ > だから、今回もそういう行動に出ることを予想して、わざと日本語訳を用意しておいた。そうすれば、何か恣意的な訳をやってきたときに、「俺が出したドキュメントと違う」とやれる。

チャーリー> で、実際にそうなった。

デルタ > 審判所の人、「日本語訳も持ってきました」といったら、口では「ありがとうございます」とかいってたけど、内心では「畜生、余計なことしやがって…」と思ってたかもね。

チャーリー> くすくす。

デルタ > ちなみに、審判所でプレゼンしたとき、最後に「そんなに給与所得としての主張に自信があるなら、どうして今頃になって "実は雑所得" という "予備的主張" を展開する必要があるのか」と言った。

チャーリー> そしたら ?

デルタ > 黙ってた。

チャーリー> そういえば、「賭けてもいい」と言い切ってた「指揮系統」の話は ?

デルタ> 載ってない。

チャーリー > 賭けに負けました♪

デルタ> 負けることもあるから賭けというのだよ、パーシャ。(トム・クランシー「レッド・ストーム作戦発動」より)
やっぱり「言及しません」の一言が効いたかな。過去の経緯を調べていれば、審判所でのやり取りをこちらがすべて録音しているというのは当然ながら察しがつくわけで。そこで、発言してないことを発言したことにしたら、さすがにヤバイと。

チャーリー > 確かに。

デルタ> あるいは、「指揮系統」に関する主張が弱いと見て引っ込めて、「地位」で押しまくる方針になったとか。

チャーリー > それも考えられる。

デルタ> そんなわけで、今回の裁決書は
  • 存在しない文言を「論拠」として捏造し、
  • 「請求人の主張」を恣意的に取捨選択して一部しか掲載せず
  • その上で、「地位」に起因するという主張をコピペして済ませただけでなく
  • その主張の論拠を示しておらず、「である論」「べき論」でお茶を濁している
という代物なんだな。さすが、世界に冠たる優秀な日本のお役人は、やることが違う。


というわけで、元のドキュメントに存在しない文言を捏造してまでデッチ上げた「裁決書」の中味を、とくと御覧いただこう。なお、金額と option price に関する記述は、プライバシーの観点から削除してあるので、御了承のほどを。

ちなみに、本件の審判所における担当者は、(井上が承知している限りでは) 以下の 3 名。もし、他に東京国税不服審判所に審査請求を行っている人で同じ担当者が相手の人がいれば、多分、似たような手口で来ると思われる。

  • 首席国税審判官 小西 敏美
  • 第四部 国税審判官 林 廣志
  • 佐々木 正直

| 裁決書に続く |


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