税務訴訟 [Round.19 : コピペ裁決書の巻]
 

2 主張

(1) 請求人

原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。

イ 本件利益の所得区分について
本件利益は、次のとおり、給与所得ではなく、一時所得である。

(イ) ストック・オプションについては、権利を付与された者が株価の推移を見て、権利行使のタイミング及び権利行使によって得られる利益をコントロールすることができる。
一般に、本人が金額を自由にコントロールできるという行為は、労働の対価たる給与の決定においてはあり得ないから、本件利益は給与所得に該当しない。
(ロ) ストック・オプションは、当初から多額の利益を保証されているものではなく、あくまで将来的に多額の利益が得られるものかもしれないという株価連動型の報酬であり、株式相場の動向によっては、利益が少額若しくは皆無にもなり得るという性質のものである。

このように、ストック・オプションの行使に係る利益は、株価により変動するものであって、個人の業績に比例したものとはいえないから、労働の対価ではなく、したがって、本件利益は給与所得に該当しない。

(ハ) 上記 (ロ) に述べたように、ストック・オプションの行使に係る利益は、あくまで株式市場から得られた株価の値上がり益 (キャピタルゲイン) であるから、一時所得に該当する。
(二) 労働法規を所管する労働省 (現厚生労働省) は、労働基準局長名の通達において、ストック・オプションの行使による経済的利益は、当該利益が発生する時期及び金額のいずれも労働者の判断に委ねられているため、労働の対償ではなく、労働基準法第 11 条の賃金には当たらない旨、したがって、それを就業規則等にあらかじめ定められた賃金の一部として取り扱うことは、労働基準法第 24 条《賃金の支払》に違反する旨の解釈を示している。
本件利益は賃金には当たらないから、給与所得に該当しない。

ロ 所得税法においては、適切な課税を行うため、所得が発生するまでの過程に配意して、所得区分なる概念が定められているにもかかわらず、原処分庁は、かかる立法趣旨を意図的に歪曲し、直接原因である本件利益の経済的実質を無視し、社員が権利付与されたという間接原因のみに立脚して、本件更正処分をした。
したがって、本件更正処分は、所得税法に反し違法である。

ハ 請求人は、本件利益の額については争わない。

(2) 原処分庁

原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求め る。

イ 本件利益の所得区分について

(イ) 原処分庁の調査の結果によれば、上記 1 の (4) の事実のほか、次の事実が認められる。

A 米国マイクロソフト社は、同社及び子会社の役員及び使用人を対象としてストック・オプションを付与する制度を有しており、これらの者にストック・オプションを付与している。

B 米国マイクロソフト社のストック・オプション・プランには、要旨次の記載がされている。

(A) ストック・オプション・プランの目的は、従業員の経済的利益と株式を長期に保有することを結びつけることにより実質的に責任のある職に最も適した人材を誘引しかつ保持すること、当該人材に対して付加的なインセンティブ (誘因) を提供すること及び会社の事業の成功を促進することである。
(B) オプションは、従業員 (米国マイクロソフト社又はその子会社が雇用する者を意味し、役員も含む。) に対してのみ付与される。
(C) 従業員としての継続的な地位が終了した場合、オプション保有者は、その終了の日に行使できる限度までストック・オプションを行使することができる。また、当該行使は、当該終了の目後、3 か月以内にしなければならない。

C 本件ストック・オプションは、米国マイクロソフト社のストック・オプション制度に基づき付与されたものであり、その付与時に作成された付与契約書には、要旨以下のとおりの記載がある。

(A) 米国マイクロソフト社は、請求人に対し、一定数の同社の株式を一定の価格で購入する権利を付与する。
(B) この権利は、本付与目から 1 年半後に 4 分の 1 (平成 7 年 7 月 31 日付与分は 1 年後に 8 分の 1)、その後、6 か月ごとに 8 分の 1 ずつ確定し、54 か月後にすべての権利が確定する。
(C) この権利は、権利付与目から 10 年後 (平成 7 年 7 月 31 日付与分は 7 年後)に消滅する。
(D) 権利者が退職した場合は、退職目において行使できる限度まで、ストック・オプションを行使することができる。退職後 3 か月以内に権利行使しなければ、その権利は消滅する。

D 日本マイクロソフト社は、米国マイクロソフト社に対し、役員又は使用人の会社への貢献度等を勘案し、一定の者を選抜し、これらの者にストック・オプションを付与するよう米国マイクロソフト社に対して推薦している。

E 日本マイクロソフト社の「採用のご案内」には、昇給・賞与としてストック・オプション・プログラムがある旨が記載されている。

(ロ) 本件利益の給与所得の該当性について

A 所得税法第 28 条第 1 項に規定する「これらの性質を有する給与」とは、単に雇用契約に基づき労務の対価として支給される報酬というよりは広く、雇用又はこれに類する原因に基づいて、非独立的に提供される労務の対価として、他人から受ける報酬及び実質的にこれに準ずべき給付をいい、労務の提供が自己の計算と危険によらず他人の指揮監督ないし組織の支配に服してなされる場合にその対価として支給されるものであると解される。

B そして、請求人の場合のように、親会社から日本の子会社の役員又は使用人に対してストック・オプションが付与された場合においても、これは、子会社の役員又は使用人として精勤することにより子会社の業績が向上し、それが間接的に親会社の業績向上に寄与することに着目して行われているものと認められるから、労務その他の役務の対価としての性質を有するものと解される。したがって、このように子会社における精勤を求める対価として付与されたストック・オプションの行使に係る所得は、雇用に類する原因に基づいて提供される個人の非独立的ないし従属的な人的役務の提供の対価としての性質をもった所得と認められるから、給与所得として課税するのが相当である。

C これを本件ストック・オプションについてみると、次のとおりである。

(A) 本件ストック・オプションは、上記 (イ) の B のとおり、米国マイクロソフト社及びその子会社の役員又は使用人に対し、インセンティブとして付与されるものであって、本件ストック・オプションは、請求人が日本マイクロソフト社に対し継続的な労務の提供を行うという、請求人の同社における使用人としての地位に基づいて米国マイクロソフト社から付与されたものであることは明らかである。また、請求人と米国マイクロソフト社との間で作成された付与契約書には、上記 (イ) の C のとおり記載されており、このように一定期間、米国マイクロソフト社又はその子会社に対し労務を提供してはじめて本件ストック・オプションに係る利益を享受し得る内容が記載されている契約書が存在すること自体からして、本件利益が労務の対価としての性質を有することは明らかである。
(B) そして、[1] 米国マイクロソフト社は、同社及びその子会社の従業員に対し、インセンティブとしてストック・オプションを付与していること、[2] 同社のストック・オプション・プラン及び同社と請求人との間で作成された契約書に定めるとおり、本件ストック・オプションは、従業員としての継続的な地位を有することを前提としてその行使が可能となること、[3] 請求人は米国マイクロソフト社との間で、本件ストック・オプションに係る付与契約を締結していること、並びに上記 (イ) の D 及び E の各事実に照らすと、本件利益は、請求人と米国マイクロソフト社との間の雇用に類する原因に基づくものであると認められる。
(C) したがって、本件利益は、雇用に類する原因に基づいて、非独立的に提供される労務の対価として、他人から受ける報酬及び実質的にこれに準ずべき給付に該当するから、給与所得として課税するのが相当である。

(ハ) 本件利益の一時所得の非該当性について

所得税法第 34 条第 1 項に規定する一時所得の要件である「労務その他の役務の対価としての性質を有しないもの」にいう「対価」とは、給付が具体的役務行為に対応する場合に限られるものではなく、給付が一般的に人の地位、職務行為に対応、関連してなされる場合をも含むものと解されるところ、 米国マイクロソフト社のストック・オプションは、同社又はその子会社の役員又は使用人に対しインセンティブとして付与されるものであって、本件利益は、このような地位や職務行為を離れてはあり得ないから、この点からみても本件利益が一時所得に該当しないことは明らかである。

(二)請求人の主張については、次のとおりである。

A 請求人は、上記 (1) のイの (イ) から (ハ) までのとおり主張する。
しかしながら、上記 1 の (4) の各事実及び上記 (イ) の各事実を、所得税法第 28 条の規定に照らし、本件利益が給与所得に該当すると認められることは前述のとおりである。また、本件ストック・オプションは、株価連動型のインセンティブ報酬であって、請求人が主張するとおり、その所得の実現が株式市場の動向を反映することは事実であるが、所得税法第 34 条第 1 項の規定により、労務その他役務の対価としての性質を有するものが一時所得になることはないところ、上記 (ロ) の C の (A) に記載のとおり、本件利益は労務の対価としての性質を有するから、これが一時所得に当たらないことは明らかである。
さらに、給与所得に係る報酬については、必ずしも勤務成績や勤務時間と相関関係があることやその実現の時期が定まっていることが要件とされるものではなく、雇用契約又はこれに類する報酬であれば、当該所得が給与所得に該当するものであると解される。
したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

B 請求人は、上記 (1) のイの (二) のとおり主張する。
労働基準法第 11 条に規定する賃金とは、賃金及び給与等の名称のいかんを問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいうとされ、この規定は、同法第 4 条及び第 24 条等の各賃金保護規定における賃金とはいかなるものかを明らかにするために設けられたものであり、この場合の賃金というための要件として「労働の対償」といえることが必要とされ、一時金 (賞与) などでそれを支給するか否か、その額、算定方法などが専ら使用者の裁量にゆだねられている段階では、恩恵的給付であって労働の対償とはいえず、労働協約、就業規則、労働契約などに支給時期ないし計算方法が定められ、この定めに従って支払われるものが労働基準法上の賃金と解されているところ、労働基準法上の賃金の要件である「労働の対償」という場合の「対償」の意義と所得税法上の所得区分の判断基準としての「対価」の意義が異なったものであることは明らかである。
そして、一般的にストック・オプションの行使に係る利益は、親会社から賃金支払義務の履行としてではなく、恩恵的あるいは裁量的に付与されたものであるから労働基準法に規定する賃金には該当しないが、これを付与された者が子会社に勤務しているという地位に着目して付与されたものであることから、所得税法上は対価性があるということになる。
したがって、制定趣旨の異なる法律間で同種の用語が用いられているからといって、常に同様に解さなければならないというものではなく、その制定趣旨にかんがみて適正に解釈すべきことは当然のことであり、労働基準法上の賃金に該当しないからといって、所得税法上の所得区分の趣旨にさかのぼって十分な検討もしないまま給与所得になり得ないと判断すべきではなく、本件利益が労働基準法上の賃金とされないことと所得税法上の所得区分として給与所得と認定されることとは何ら矛盾するものではない。
したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

ロ 総所得金額について

(イ) 給与所得の金額
給与所得の金額は、上記 1 の (4) の二の本件利益の額★削除★円に、上記 1 の (4) のホの本件給与に係る給与等の収入金額★削除★円を加算した金額★削除★円から所得税法第 28 条第 3 項に規定する給与所得控除額を控除した金額であり、別表 2 のとおりである。

(ロ) 一時所得の金額
上記イの (ハ) で述べたとおり、本件利益は一時所得に該当しないから、請求人の平成 10 年分の一時所得の金額は、零円である。

(ハ)総所得金額
以上の結果、請求人の平成 10 年分の総所得金額は別表 3 のとおりとなり、この金額は本件更正処分の額と同額であるから、本件更正処分は適法である。

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