税務訴訟 [Round.20 : 小ネタいろいろ]
 

あまり気付かれていないポイント (2003/2/6)

とある税務関係の BBS を見たら、指摘されていたポイントがある。あまり広く知られていない話だと思うので、ちょうどいい機会だから書きたててみよう。

それは、所得税法 第 183 条で規定された「給与所得の源泉徴収義務」 だ。

(源泉徴収義務) 第 183 条
居住者に対し国内において第 28 条第 1 項 (給与所得) に規定する給与等 (以下この章において「給与等」という。) の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月 10 日までに、これを国に納付しなければならない。

すでに「耳タコ」状態だが、国税庁がいうには、「ストックオプションは社員という地位に付随して権利付与されたものだから、所得税法 28 条に規定されたところの給与所得だ」ということになっている。そして、その給与所得については、上記 183 条で規定されている通り、支払者に源泉徴収を行う義務がある。
過去に、源泉徴収制度をめぐって裁判が起こされて原告が敗訴していることから分かる通り、国税当局の源泉徴収制度に対する執着は、まことに並々ならぬものがある。

にもかかわらずだ。
あれだけさんざん「ストックオプションの権利行使益は給与所得です」「一貫して給与所得だと指導してきました」(後者は後でウソだとバレたが) と、「給与所得」という言葉を連呼してきた国税庁が、この「給与所得の源泉徴収義務」についてまったく言及しないのは、さて、どういうわけだろうか。

実際に所得税法を調べてみれば分かるが、この規定に例外はない。にもかかわらず、国税当局が「給与所得だ」と主張するストックオプションの権利行使益に関して、源泉徴収されたという話も、源泉徴収するよう誰かが指導されたという話も、全然聞いたためしがない。なんだ、これは。

もっとも、ストックオプションの権利行使益から源泉徴収しようとした場合、誰がその義務を負うのかという問題がある。
少なくとも、第 183 条で「支払をするものは」と明示的に書かれている以上、当初に設定された option price を超える分の値上がり益を負担していない勤務先の会社 (海外親会社を含む) は源泉徴収義務を負わない。これは間違いない。
値上がり益は株式市場から得たものだし、その値上がり益を我々の口座に振り込んでくるのは証券会社であって、勤務先の会社ではない。

となると、一般的に、株式の売却は担当の証券会社などが行うものだから、その証券会社が源泉徴収するのか ?
しかし、株式の購入意思を示して株価の上昇に寄与したのは投資家だし、権利行使で得られる値上がり益は一義的に投資家の購入意欲によってもたらされたものだから、株を買った投資家が源泉徴収するのか ?

いずれにしても、国税当局が "喉頭ガンにかかるかもしれないほどに (C) 平壌放送" 「給与所得だ」と声を嗄らして主張し続けている、この「ストックオプション権利行使益」に関して、これまた凄まじく執着している (はずの) 源泉徴収制度を適用させる動きを見せていないのは、まことに面妖である。
繰り返すが、所得税法 第 183 条に例外規定はない。ウェー、ハッハッハッハ。

つまり、こういうことだ。
「ストックオプションの権利行使益 = 給与所得」なら、第 183 条を遵守するため、とにかく誰かに源泉徴収を行うように指導を行わなければならないし、源泉徴収を怠っている「給与の支払者」が存在するのであれば、罰しなければならない。それをしていないのなら、それは国税当局の怠慢だ。
なにか指導を行わないに足る理由が存在するのであれば、それは「給与所得」という主張を、自らの行動によって、半ば否定しているものといえる。

まさか、「いや、本当は源泉徴収すべきなんだが、どこから取ればいいから分からないから放置してるんだ」なんてことはないですよね、世界に冠たる優秀な国税の皆さん。
いいですか、第 183 条に例外規定はないんですよ。それを放置してるからには、当然、それなりの理由があって然るべき。さあ、答えてもらいましょうか。
まさか「いや、これは誤指導だった」なんて言い訳はしないでしょうね :-p

そもそも給与所得とは (2003/3/3)

鳥飼総合法律事務所の Web に、国税 OB による連載記事がある。その中で、新たに「事業所得と給与所得の区分」という記事が掲載された。
この記事の末尾に、以下のような記述がある。

給与所得については、とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない。」と判示しているのです。

さて。ストックオプションの場合、どうだろうか。

まず「給与支給者」だ。
社員や役員がストックオプションの権利行使を行った場合、勤務先の会社が負担するのは、権利付与時に設定された option price に相当する額になる。それ以上の差額 (= 権利行使者が享受する利益) は、株式市場の負担といえる。少なくとも、勤務先の会社が負担するものではない。

次に、「空間的・時間的な拘束」だ。
これは会社にもよるだろうが、Microsoft Corporation の Stock Option Plan では、権利付与したからといって、会社側に雇用を保証する義務はないし、社員の側に一定期間勤めなければならない義務もない。このことは、関連文書に明記されている。つまり、ストックオプションの権利付与については、勤務先との間でさえ、直接的・間接的を問わず、「空間的・時間的な拘束」が発生しない。
しかも、利益の発生源である株式市場、ないしは投資家との間で、時間的・空間的な拘束が発生するはずもない。

そして「継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として」という部分だ。
そもそも、勤務状況と株価の間にストレートな相関関係がない上に、権利行使のタイミングを社員本人が自由にコントロールできることからして、この関係も成立しがたい。否、成立させることは不可能だ。このことは、すでに何度も繰り返し書いてきている。だからこそ、国税不服審判所は、この件に関する主張を弱めようと悪あがきして、権利付与の際の「一株あたりの価額をいくらいくらで」という意味で用いられている "price" という単語を、「対価として」と恣意的に誤訳、否、捏造するという暴挙に出た。
(この一事をもってしても、国税不服審判所が「公正な第三者機関」などといえた義理ではないことは明らかだ)

まとめると、先に掲げた「給与所得としての要件」を、ストックオプションの権利行使に伴う利益は、まったく満たしていないといえる。

おそらく、この辺のところは国税当局も承知していて、だからこそ「社員としての立場に起因して付与された権利だから給与だ」と主張しているのだろう。しかし、これとて、すでに私が追及しているように「社員として役務を提供する立場に起因する所得のすべてが、給与所得とされているわけではない」のは、他のあまたの事例に照らしても明白だ。

実際、私が「国税 OB 税理士の事例」を引き合いに出して追求したところ、原処分庁は「答えることは何もない」と回答し、国税不服審判所はこの主張の存在そのものを全面的に、「請求人の主張」から恣意的意図の元で削除した。当局が、かような行動に出るのも無理はない。
なにしろ、この話を持ち出されれば、最後の拠り所である「地位に立脚して所得区分決定」という主張が、根底から破壊されてしまうからだ。

さて、次はどういう面白い主張で笑わせてくれるだろうか ?

だからいってるでしょ (2003/7/22)

ストック・オプションの見直しが進むのはなぜ ? "現代の錬金術" に隠されたカラクリ」(BizTech, 2003/7/20)

これは、Microsoft の stock option 廃止に絡めて、この制度の問題点や現状についてまとめた記事だが、その中に、こんなくだりがある。

この社員はものすごい金額を得したことになるが,だれがそのコストを負担したかというと,これは「彼以外の株主たち」ということになる。

だから、私は国税不服審判所に乗り込んだ際に「権利行使益は株式市場から (正確には株を購入した投資家から) 得られたものだ」とやったのだが、当局は「給与所得」という結論にこじつけることしか考えていないから、この経済的実体に目をつぶり、代わりに「社員という立場に基づいて権利付与されたのが経済的実質だ」という、支離滅裂な裁決書を書いた。
それでいて、「給与所得の源泉徴収義務」を放置している点については知らん顔。「結論先にありき」パターンの、まさに典型例といえる。

しかも、その一方で、私が指摘した「署長、あるいは局長といった地位に基づいて、退官後の顧問先の斡旋を (それも組織的に !) 受けて利益を得ている国税 OB 税理士」の事例については「答えることは何もない」という珍妙な回答が返って来た。もはや、国税庁は経済原理がまったく分かっておらず、かつ、内輪のお手盛りについては知らん顔、という事実は覆い隠すべくもない。

国税不服審判所が当局のイヌ (スタッフの大半が内輪で、しかも通則法 99 条の規定があるのだから当然だ) だから最初からアテにはしていなかったが、これでよくもまあ「公正な第三者審査機関」などといえたものだ。このプロパガンダには、ヨーゼフ・ゲッベルスもびっくりだろう。

今からでも遅くないから、こういった、至極まっとうな疑問に対する答えを出してみてはどうですか、新任の寺沢辰麿・国税庁長官。

右肩上がりなんてあり得ない (2003/9/2)

ふと思い立って、NASDAQ の Web サイトで、Microsoft Corporation (MSFT) の株価推移を調べてみた。この Web サイトが実によくできていて、指定した期間の株価の推移を一発で表示できるだけでなく、グラフの種類も必要に応じて選択できる。見事だ。

まず、過去 10 年間、つまり 1994-2003 年の株価推移について見てみよう。
MSFT・過去 10 年間の株価推移グラフ

パッと見には猛烈に株価が上昇しているように見えるが、それは 1999 年頃までの話。だから、1990 年代前半に権利付与された分のオプションを 1998-1999 年頃に行使した場合、株価上昇の恩恵を存分に享受できることになる。
しかし、株価が上げ止まった 1999 年頃から先の動向は、このグラフだけではよく分からない。それに、1990 年代前半に権利付与された分は、もうたいていは期限切れになっていて行使できないだろう。そんな、まだ Windows 95 も Windows NT 4.0 も出ていないような「神代の時代」の話をしてみても、いささか浮世離れしていて現実味がない。

そこで今度は、過去 5 年分、つまり 1998-2003 年の株価推移について見てみよう。
MSFT・過去 5 年間の株価推移グラフ

このグラフで分かるように、ピークは 2000 年初頭で、その後、2001 年後半まで、全体として下げ基調が続いている。まず 2000 年初頭にガクッと下落した後、いったん持ち直しているが、独禁法訴訟の判決があったのを受けて、夏からさらに下降線をたどっている。
その後、2001 年に入ってからは、持ち直しては下落して、というパターンを繰り返して、現在は安定傾向にある。

このことで分かるのは、権利付与と権利行使のタイミング如何で、権利行使によって得られる収入にベラボーな格差があるということだ。もっとも運が悪い、1999-2000 年頃に権利付与された分に至っては、完璧に額面割れして使い物にならない状況が続いている。
業績の方は、ほぼ一貫して上昇傾向が続いているのに、株価の方はこんなに上げたり下げたりを繰り返していることから見ても、労働の成果と株価、ひいては株価に依存して決定されるストックオプションの権利行使益が、まったく相関性や対価性を持たないことは明らかだ。しかも、権利付与の時期と権利行使の時期が違うだけで、得られる利益にものすごい格差が発生しているのは、紛れもない事実。

もっとも、これは国税側も認めざるを得ない事実で、だからこそ、「地位に基づいて権利付与されたから対価性がある」という珍妙な理屈を振りかざしている。こんな理屈は、「給与に類する所得」という所得税法 28 条の文言を、都合がいいように限りなく拡大解釈しているに過ぎない。
しかし、しつこいようだが、株価を押し上げるのは投資家の購入意欲であって、社員の地位ではない。そんな基本的な経済原理も分かっていない国税の関係者は、まず、自分で実際に株式投資を経験してみればいいと思う。多分、やったことがないのだろうから。

あるいは、国税庁を民営化して「日本税務署株式会社」とでもしてしまい、株式を東証マザーズあたりで公開した上で、関係者全員にストックオプションの権利を付与するのもいいかもしれない。そうすれば、彼等がいくら納税者を脅し、マスコミにリークしまくって修正申告集めに励んでも、それがストレートに株価に反映するとは限らないという厳然たる事実を、身をもって体験できるだろう (笑)

インセンティブ = 意欲刺激、だそうだ (2003/11/14)

国立国語研究所が「インセンティブ」の日本語訳として「意欲刺激」を提唱したそうだ。なるほど、ストックオプションを「意欲刺激」のために権利付与するとなれば、実情に適っているから、そういう意味で、この訳語は正しい。
しかし、この訳語では国税不服審判所がわざわざ「本件プランの目的として、人材の確保と当該人材に対する追加的インセンティブの供与が掲げられている」という文言を捏造して (「動機」を「インセンティブ」と直している) 裁決書を書いた意味がなくなってしまうではないか ! (大笑)

「インセンティブ」が経済的利益そのものを意味するのなら、この裁決書の文言には当局の主張を補強する意味が出てくる。だが「意欲刺激」、つまり動機付けの手段であるということになると、経済的利益を供与したことにならない。つまり給与だという主張を弱める方向に働いてしまうのだから。

ひょっとすると、国税不服審判所には特製の英和辞典があって、それには「インセンティブとは、直接的な対価性を有する経済的利益を意味する」とでも書いてあるんだろうか ?


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