税務訴訟 [Round.25 : 相も変わらず意気軒昂]
 

最近の心境など (2004/2/27)

1/30 に続き、また民事 38 部の菅野裁判長が原告敗訴の判決を出した。同じ裁判長が違う内容の判決を出すはずがないので、この結論は織り込み済み。しかし、その菅野裁判長といえども、さすがに延滞税と過少申告加算税の賦課は取り消すよう判決文を書かざるを得なかった。国税の本音としては、これすら気に入らないところだろう。

とはいえ、自分のときの判決文から表現を借りれば「多少は正常な状態に戻っただけ」であって、別段、評価すべきポイントとも思えない。当たり前のことを当たり前に書いただけのことだ。勝手に解釈を変えておいて過少申告加算税を賦課するようなやり方がまかり通ったのでは、早い話が納税者に対して脱税の冤罪を着せたことになるわけで、これを放置しておいたら日本は法治国家ではなくなる。
もっとも、すでに税務の世界では法治国家というより通達治国家だが :-p

この延滞税・過少申告加算税の一件や、過去に「一時所得」と指導していた事実すら、ことと次第によっては露見しなかったはずで、それだけでも国税としては悔しいところではなかろうか。今までなら、納税者がおとなしく従って修正申告に応じてくれたケースが大半だっただろうに、裁判を 100 件も起こされて、Web で一部始終を書き立てられて、税務調査と称して呼びつければ税務署員が逆襲に遭って晒し上げ。辛うじて勝訴判決を手に入れているとはいえ、それが楽勝ではないのは、判決文を見れば明白。国税の手の者を裁判所に送り込んでおきながら、これだ。
とにかく、さまざまな意味で、日本の税務行政史に残る前代未聞の事件だ。そんな歴史の直中に自分がいて、歴史を作っているのだと思うと、極めてエキサイティングだ。素晴らしきかな、人生。

これまで、国家権力をバックにして好き放題の限りを尽くしてきた国税も、少しはルールが変わったのだということを知るべきではなかろうか。ストックオプション税務訴訟で問われている真の問題点は、こうした、ヒュブリスに満ち満ちた国税の体質にあるのだから。

もちろん、この件が最終的に原告敗訴で終わる可能性もある。それに、原告勝訴で確定したとしても、いきなり事態が好転するかどうかというと疑問だ。しかし、おかしいものはおかしいと粘り強く声を上げていかなければ、直るべきものも直らない。鈴木貫太郎総理が就任した際のラジオ演説ではないが、「もし私が死ねば、諸君は私の屍を超えて前進せよ」というのが目下の心境だ。

どっちみち、死ぬか大怪我するかしていてもおかしくなかった身体だ。いってみれば、今は自分の生命をタナトスに預けてオマケの時間を過ごしているようなものだから、国税とやり合うぐらいは余興のうち。
だいたい、いまさら平穏無事な人生を送りたいなんて思っちゃいない。"今" を一生懸命に過ごし、自分が正しいと信じることに忠実に生きるだけのこと。運命に従うのが運命なら、運命に逆らうのも運命。騒動続発、イベント満載、アフター フィールド マウンテン。

大本営発表 (2004/5/24)

地裁でも高裁でも、原告が裁判所に訴状を出して「提訴」を行うと、被告となった国側は裁判所に対して「答弁書」を提出する。といっても、「訴状」と同様、「答弁書」もそんなに詳細な内容を書くわけではない。審理が始まった後で双方が裁判所に提出する「準備書面」と「証拠書類」を基にして審理が進められるから、実際にはそちらが主役になる。
(細かい話だけれども、控訴審では「原告」「被告」ではなくて「控訴人」「被控訴人」というらしい。へえ♪)

だから、最初に出てくる「答弁書」の内容も微に入り細を穿ったものになるはずはないのだが、それにしても、国税側が出してきた答弁書の内容は卒倒モノ。その全文はこれだ。

第1 控訴の趣旨に対する答弁
 1 本件控訴を棄却する。
 2 控訴費用は控訴人の負担とする。

第2 被控訴人の主張
 被控訴人の主張及び法律上の主張は、原判決 (事実及び理由) ならびに原審口頭弁論において主張したとおりであり、原判決は正当であり、本件控訴は理由がないから速やかに棄却されるべきである。
なお、本件と同種の事件に関する東京高等裁判所平成 16 年 2 月 19 日第 8 民事部判決 (乙第 40 号証)、東京高等裁判所平成 16 年 2 月 25 日第 12 民事部判決 (乙第 41 号証)及び横浜地方裁判所平成 16 年 1 月 21 日第 1 民事部判決 (乙第 42 号証) においても、本件と同様に、海外親会社から付与されたストック・オプションに係る権利行使益について、被付与者の勤務先会社における労務の対価であることを肯定し、権利行使益が給与所得に該当する旨判示されていることを付言しておく。

ひらたくいえば、「地裁で勝ったんだから正当だ」「他所で国側勝訴判決が出ているんだから正当だ」といっているわけだが、実際には国側敗訴の判決も出ている点を無視している。ぶっちゃけた話、自分たちが勝った話だけをピックアップしているわけで、これではまるで「真珠湾攻撃とインド洋作戦で日本海軍が勝ったから、太平洋戦争は日本の勝利である」といっているようなものではないか。かつての大本営発表も真っ青だ。
どうせなら「国側敗訴判決は藤山雅行裁判長が下したものだから不当である」とでも書いてくれれば爆笑モノだが、実際には他の裁判長が国側を負かしたケースもあるから、さすがにそこまでは書けなかったらしい :-)

なお、このすんばらしい答弁書を書いた被控訴人指定代理人は、以下の面々。2 人を除いて総入れ替えとなった。

  • 市原久幸
  • 兼田加奈子
  • 中村芳一
  • 信本 努
  • 赤平公正
  • 松尾啓一
  • 安井和彦
  • 黒子雅則

いくら答弁書が形式的なものだといっても、これはひどい。こんな作文が罷り通るとは嘆かわしい限りで、もう少しましな理由を書けないものかと思う。「三人寄れば文殊の知恵」なんてことをいうけれども、八人も寄ってこの程度の作文では、どこかのパイプに穴が開いて (以下略)。

国税の誰もが答えられない自己矛盾 (2004/5/26)

地裁における審理終結間際になって、国税側が追加してきた証拠書類の中に、脱税で捕まったマイクロソフトの長谷川元常務の供述調書があった。その中で、「入社時に、報酬を給与として支給するか、一部をストックオプションに振り替えるかを選択するよう求められた」というくだりがあって、これを根拠として「給与所得該当性がある」と国税側は主張している。

これは一見したところ、もっともらしい話に見える。だが、実はとんでもない自己矛盾を含んだ主張でもある。なぜなら、国税当局は常に、株価が目論見どおりに上昇した場合のことしか考えておらず、株価下落が発生したケースを無視しているからだ。

もし、国税当局が主張するように、「ストックオプションの権利行使益は給与の一部」だとすれば、株価が下落したことで権利行使益の実現が不可能になった場合には、結果として、本来支払われるべき給与の一部が支払われなかった、つまり「給与の不払い」が発生したことになる。これは、権利行使によって株式を取得した後で株価が下落して、含み損を抱えてしまった場合にも同様に適用できる考え方だ。
ところが、「Round.3」の税務調査実況中継に登場した武蔵府中税務署の佐藤氏を筆頭に、この件について問われた国税関係者のうち筋の通った回答を示すことができた人は、ただのひとりとして存在しない。(ついでに書けば、労働基準局長通達を持ち出されただけでオタオタしてしまった王子税務署の吉田氏に至っては、もはや笑うしかない)

つまり、こういうことだ。
国税が供述調書を証拠として出すことで立証しようとしている主張は、ストックオプションの権利行使益が本来の労働に対する給与支払にアドオンされるもの (下図)

ではなく、労働に対する給与支払いの一部を構成する (下図)

というものであると解される。供述調書の内容や、それを証拠として持ち出してきた国税側の対応を見る限り、そう解釈するのが妥当だ。すると、その支払の一部を構成するはずの権利行使益が株価下落によって得られなくなった場合には、

ということになって、受け取るべき報酬の一部が得られなかった、すなわち給与の不払いが発生したということになる。
権利行使益が発生した場合に「これはもともと給与の一部であり、給与所得該当性がある」と主張するのであれば、その権利行使益が発生しなかった場合は給与の一部分が不払いになったとみなすのが当然だろう。株価に依存して利益が変動するストックオプションでは、利益と損失 (正確には逸失利益か) は表裏一体の関係があるからだ。

だから、「株価が下落して権利行使益が得られなくなっても、経済的損失を蒙ったわけではない」という東京地裁の菅野判決は事実誤認もいいところで、それどころか国税側の証拠文書まで誤解釈している。「権利行使益は給与の一部」というなら、それを受け取れなければ「給与の一部を受け取れなかった」という経済的損失を蒙っていると解釈しなければならないし、そうでなくても、働いた結果が収入につながらない、つまり「タダ働き」という無形の経済的損失を蒙っている。いわば、売掛金を回収できずに貸倒損になったのと同じだ。(しかも、会社員が自分の給与に対して貸倒引当金を計上することはできないのだ !)

つまり、国税当局の言動は、都合のいいところだけ都合のいいように解釈して、都合の悪い話は存在しないものとして無視している、毎度恒例の二枚舌といえる。しかも、国税側は裁判所に対して「権利行使益は給与の一部」という主張を行い、それを補強することを企図した証拠書面まで堂々と提出している。これを自己矛盾といわずしてなんといおうか。
もっとも、自己矛盾を起こすと「立法趣旨が違う」と一言で片付けてしまうのが国税の得意技だが、この件についても「立法趣旨が違う」と得意のセリフを繰り返すつもりだろうか ?

ついでに付け加えれば、長谷川元常務と同期入社の井上自身についていうと、入社時に人事部長と面談した際に、ストックオプションの話など、ただの 1 ビットも出てきていない。給与をいくらにするという話と社員持株制度の話は説明を受けたが、ストックオプションの話が出てきたのは、それからしばらく経って、初めて権利付与を受けたときが最初だ。そのときまで制度の存在すら知らなかったのだから、まったく呑気な話。(もっとも、高報酬が目当てで MSKK に押しかけた訳ではないから、当然といえば当然だが)


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