税務訴訟 [Round.27 : 東京高裁民事 17 部はやる気が (以下略)]
 

また主張を変えてきた国税当局 (2004/8/22)

ストックオプション税務訴訟の根本的争点を突き詰めると、権利行使益が「給与」としての性質を有しているかという点に収斂する。そして、「給与」としての性質を備えるには、以下の 2 点がポイントになる。

  1. 社員が勤務先の会社に対して提供した役務 (労働) と、それに対して受け取る給与の間に相関関係があること
  2. 役務に対応する給与が、勤務先の企業から給付されていること

このうち「1.」については議論の余地がなくもないものの、一般的な給与、あるいは賞与と労働成果との間に成立する関係と比較すると、ストックオプションの権利行使益の場合、両者の関係は希薄であるといわざるを得ない。なぜなら、株価は当該企業の業績に直接比例するわけではなく、同業他社、あるいは社会全般のムードなど、さまざまな外的要因に左右されるためだ。この点については、過去に何回も論じてきている。

それゆえに、当局が主張するように「権利行使益が労働に対する反対給付としての給与」としての性質を帯びている、あるいは MSKK 長谷川元常務の供述調書を用いて主張しているように「権利行使益が報酬の一部を構成する」のであれば、株価下落によって権利行使益を得られない事態になった場合には「給与の不払い」という事態が発生したことになる。
しかし、この点について当局は何等筋の通った説明ができていないだけでなく、東京地裁における菅野判決のように「権利行使益は給与の一部」だが「損失が発生したわけではない」と、堂々と矛盾した内容を並べている事例すら存在する。

それはそれとして、今回はもうひとつのポイント、つまり「権利行使益の発生源」について確認しておきたい。

事実関係を整理すると、ストックオプションの権利行使を行った場合、社員は権利付与時に設定された権利行使価額 (option price) に株数を乗じた金額を支払うことで、当該株式の引き渡しを受ける。これは、勤務先企業と社員の間で発生する取引だが、ここで注意しなければならないのは、両者の間で発生する株式の行き来は、あくまで権利付与時に設定された option price によって行なわれるものであり、その時点における実際の市場価額 (market price) とは無関係である。

実際に、社員がこの制度によって利益を得るためには、株式を購入するだけではなく、購入した株式を市場で売りに出さなければならない。購入・即・転売となった場合、実質的にその時点における market price で売りに出すと考えられる。すると、market price と option price の差額が、社員にとっての利益となる。(ただし実際には、証券会社に手数料を支払わなければならないので、利益額はもっと少なくなる)

こうした取引関係で分かるとおり、権利行使と、その後の株式売却で発生する利益は、市場における market price が、option price より高くなっている場合にのみ発生する。そして、両者の差が発生する場所は市場である。いいかえれば、権利行使益は株式市場からもたらされるものであり、勤務先の企業が当該社員に対して直接給付しているものではない

当局もこの点については不承不承ながら (?) 理解したようで、以前は「権利行使益が勤務先の企業から社員に給付された」といった事実に反する主張も見られたようだが、直近の準備書面では「株式を社員に引き渡すことで、(market price が option price より高い場合に生じる) 含み益が、勤務先の企業から社員に移転した」という欺瞞的言辞を弄するものに変化している。
しかし、含み益だろうが含み損だろうが、それが市場における株価の変動からもたらされたものである以上、勤務先の企業が社員本人に直接支給したものではないという事実は変わらない。そうした事実を隠蔽するために、「企業が当該株式を売却していたら得られたはずの含み益」という仮定の話を持ち出して、「含み益が移転した」という言葉を使うところが極めて欺瞞的だ。

それに、給与の定義があくまで「勤務先の企業が社員に対して直接給付したもの」であり、それゆえに給与所得は源泉徴収制度の対象になっている点について、当局側の言い分では説明がつかない。所得税法では、「給与の支給者」が支払の際に源泉徴収を行なうよう義務付けているから、含み益だろうがなんだろうが、それが給与なら源泉徴収しなければならない。しかし、この点についてはまるで筋の通った説明ができていないし、源泉徴収を行なっていないから罰したという話も聞かない。

そもそも、突っ込まれる度に全然違った主張内容に変わるところからして胡散臭い以前には「社員としての地位に立脚して権利付与されたのだから給与だ」といっていたではないか。ちゃんと、当局側が公式に作成した書面として手元に残っている。あの主張はいったいどこに消えたのか。あれは間違いだったと認めるのか。どうだ。

しつこいようだが、勤務先の企業と社員の間に実際に存在した取引は、option price による株式の売買しかない。そして、所得の把握は実際に行なわれた取引をベースにして考えなければならない。それ以外の間接原因、あるいは間接的な可能性まで含めて所得とみなす行為を認めてしまえば際限がなくなり、現場の裁量によって好き勝手に税金をかけられることになってしまう。

たとえば、土地を売ってもらった後でその土地が値上がりしたら、「売主が件の土地を保有していたら得られたはずの含み益が、買い手の元に移転した」と称して、土地の値上がり分を「所得」と認定して買い手側に追徴を迫るような事態だって可能になってしまう。こんなことになった日には、日本はもはや法治国家ではなくなる。(税務行政に関しては、すでに法治国家としての体をなしていないという説もあるが…)

ちなみに、労働基準法の第 24 条には「通貨払い」「本人に直接払い」「全額払い」「毎月一回以上支払う」「一定期日払い」といった規定がある。つまり、給与は現金で、かつ決まったタイミングで、本人に直接、全額を支払わなければならないことになっているというわけだが、この考え方を敷衍すれば、売買した株式の「含み益」が給与とみなされることはあり得ない。
もっとも、この話を持ち出したところで、国税は例によって例のごとく

立 法 趣 旨 が 違 う

とやるのがオチだ。国税庁は、他の省庁や法律も含めて、自分達に都合の悪いものは何でも無視する構えらしい。こういう、自分のことを神だと勘違いしているかのごとき態度を、ギリシア語でヒュブリスという。

そもそも、どう言い繕おうが、ストックオプション制度によって確実に利益が得られるという保証はない。地裁の菅野判決にあったような「報酬を目的とした制度だから給与だ」などという主張は詭弁もいいところであり、「労働の対価」としての給与に相当する性質を帯びているという主張は、最初から成り立たない。

こういわれたくなかったら、当局は、4 年前から私がいい続けている「株価下落による給与の不払い」問題に関して、筋の通った説明をしてみせるべきだ。なにしろ、わざわざ検察から供述調書を取り寄せてまで「権利行使益は給与の一部だから給与所得だ」と主張したのは、当の国税だ。当然、それに起因する矛盾についても説明できなければ話が通らない。
誰でも納得できる説明ができるというのなら、総責任者として国税庁長官が自らやってもらいたい。そして、その主張内容を国税庁の Web サイトで世界に向けて公表すればよい。国税庁長官が自ら説明するというのなら、私はいつでも取材に参上する。さあどうだ。

それに、過去に「一時所得などと指導したことはありません。一貫して給与所得だといってきました」と大嘘ついた話についても、まだ納得のいく説明がなされていない。このことを根拠にして「マイクロソフト社員の申告漏れ」と嘘っぱち満載のリークを行い、マスコミ報道を悪用して関係者の名誉を毀損したのは紛れもない事実であり、これについては謝罪と賠償を (以下略)

関連リンク :
高裁判決に対する反論要旨 (鳥飼総合法律事務所 速報 !)

そもそも東京高裁はやる気が (以下略) (2004/9/15)

以前から「書かなければ」と思いつつ、なんとなく書きあぐねていて、そこに本業の多忙が相まって放置状態になってしまっていたのが、この話。

この一件が高裁に上がったのは今年の春だが、その後、これまでに審理を 2 回やっている。が、その次の 10 月末には、もう判決を出すといっている。
実のところ、控訴人 (つまり自分) の陣営では、所得税法に基づく争点を新たに追加して当局の釈明を求める、という状況なのだが、国税側はそれに対してまともに回答してきていない。こうした状況の中で、とっとと判決を出してしまおうという東京高裁民事 17 部の訴訟指揮には、おおいに疑問がある。

もっとも、その民事 17 部の法廷担当 (秋山壽延、堀内明、志田博文、の各氏) は、すでに別件の訴訟で「控訴人敗訴」の判決を出しているので、「結論は決まってるのに、いまさらこれ以上審理なんかやってられっか」というところなのかもしれない。だいたい、先日の法廷における秋山裁判長の話しぶりや態度を見ていても、もう見るからにやる気が (中略) という印象で、「第三者たるべき法の番人が、そんな露骨な態度でいいのか」と小一時間問い詰めたくなった。

だからといって、「はいそうですか」と引き下がるわけにもいかない。駄目と分かっていても、主張をしなかった、あるいは取り得る手を打たなかったというのでは、後になってマイナス ポイントとして突っ込まれる可能性がある。だから、書面の形で弁論再開を申し立てることになるのだが、これが受け入れられる確率は極めて低い。

例の調査官制度もそうだが、この件を実際にやってみて分かったのは、もともと納税者に不利にできている土俵で戦うことの難しさ、ということだろうか。もっとも、そのことを白日の下に晒し上げただけでも、訴訟を起こしてみた価値はあったと思うが、ちょっと負け惜しみ入ってるかな ?

立法趣旨が違う :-) (2004/9/17)

アメリカに続いて日本でも、ストックオプション関連費用を人件費として経費計上するよう義務付けることになったそうだ。これで国税が欣喜雀躍して「だから給与としての性質がある」と主張する根拠に使いそうだが、機先を制していわせてもらおう。

会計法と所得税法では立法趣旨が違う :-)

普段、さんざん「立法趣旨が違う」といって課税実務とその他の法律の間の矛盾を正当化しているのだから、それと同じことをいわれても反論できまい (笑) 悔しかったら、「立法趣旨が違う」と準備書面に書くのを止めることだ。

そもそも、会計法の規定がどうであれ、権利行使益を負担しているのが勤務先の会社ではないという本質的事実に変わりはない
実のところ、立法趣旨がどうであろうが関係なく、もともと国税の主張は根拠がないのだ。給与所得に見せかけるために、勤務先から権利行使益を受け取っているわけではないのに「勤務先から給付した」と真っ赤な嘘をいってみたり、「含み益が権利行使によって移転した」などと欺瞞的言辞を弄していたりするに過ぎない。それでも国税勝訴の判決が出ているのは、幸運にも (それとも別の理由 ?) 裁判長が原告側の主張を「お取り上げ」にならず、国側の主張だけを聞き入れたせいだ。


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