税務訴訟 - HowTo ストックオプション税務訴訟
 

How to 税務訴訟

自分自身の訴訟が一審の判決までこぎ着けたので、一通りのノウハウは揃ったと思われます。そこで、これを機会に、訴訟に持ち込んで勝訴を勝ち取るまでに必要な作業について、順を追ってまとめておきましょう。

税務訴訟の手続きで特徴的なのは、いきなり提訴することができず、「処分」→「税務署長への異議申立」→「国税不服審判所への審査請求」→「提訴」と段階を追わなければならない点にあります。こうしたやり方のことを、業界用語で「異議申立前置主義」というのだそうです。国側のために時間稼ぎをする制度のようにも見えますが、そういう風に法律で決まっている以上、従わざるを得ません。

事前の心得

以下に示す手続きの過程で、所轄の税務署員、あるいは国税不服審判所の職員などと、さまざまな形でやり合う可能性があります。その際には、やりとりの内容を必ず記録しておきましょう。といっても、民商の連中がやっているみたいに露骨にテープレコーダを見せつけるなど、愚の骨頂。懐に IC レコーダーを忍ばせておいて、密かにやりとりの記録を残すのが、スマートなやり方というものです。

これは、当局側の行状を片言節句に至るまで記録し、後で有利な形で利用できる可能性を残すためです。記録を残しておかないと、「いった、いわない」の水掛け論になり、そうなれば、記録を残さずに主張する方が絶対に不利です。

あと、当局側はなんとかして給与所得で申告させてしまおうとして、さまざまな甘言を弄してくる可能性が高いと思われますが、それにひっかからないように注意が必要です。
また、たとえば審判所あたりの人が「主張を聞きたい」とかいって呼び出してきても、いくら熱弁をふるったところで馬耳東風、右から左に抜けてしまうというのが正直なところでしょう。もし、審判官が個人的に「納税者の主張はもっともだ」と思ったところで、国税通則法 99 条の壁があるので、結局は当局側の意に添った裁決書しか書けません。組織、とりわけ役所というのは、そういうものです。

手続一覧

  1. フェーズ I : 確定申告書を出す
  2. フェーズ Ia : すでに給与所得として申告してしまった場合
  3. フェーズ II : 更正処分、または請求の棄却
  4. フェーズ III : 異議申立
  5. フェーズ IV : 異議申立棄却と審査請求
  6. フェーズ V : 審査請求棄却と提訴
  7. フェーズ VI : 提訴後の審理


フェーズ I : 確定申告書を出す

まず、最初の関門は「ストックオプションの権利行使益」を、一時所得として申告して、それを税務署に収受させる点にあります。

念を押しておくと、一時所得か給与所得かが問題になっているのは、権利行使によって株式を購入したときの購入価額と、権利付与時に設定された権利価額 (option price) の差額です。権利行使・即・売却によって利益を手中にした場合、この点の解釈に問題が生じることは少ないでしょうが、権利行使によって購入した株式を手元に持っていて、それを後から売却した場合、売却時の価額と混同しないように注意してください。

すでに複数の訴訟で「納税者勝訴」の判決が出ており、一時所得で申告しようとする人が増えることを見越して、当局側は「いま裁判している人が勝てば、あなたの分も一時所得として計算し直して還付するから」とかなんとかいって、給与所得として申告させようとする可能性が非常に高いと考えられます。
しかし、そんな甘言に乗ってはいけません。よしんば進行中の訴訟が納税者勝訴の判決で確定したとしても、訴訟を起こさなかった人の分まで当局が一時所得として adjust する可能性はゼロです。おそらく、実際にそういう事態を迎えた場合、当局は「自分の意志として給与所得として申告したのだから、adjust する理由はない」とかなんとか理屈をこねるでしょう。

そんなわけで、第一の関門は当局者の甘言に乗らずに、一時所得として作成した確定申告書を収受させることにあります。法的には、納税者が持ち込んだ確定申告書の収受を税務署員が拒否する権利はないのですが、実際に現場がどう出るかは予想できたものではありません。断固として収受させる必要があります。


フェーズ Ia : すでに給与所得として申告してしまった場合

すでに、当局者の甘言、もしくは脅しに従って給与所得として申告してしまった場合には、直ちに「更正の請求」を出します。更正というと、当局側が税額を増やす処分を行う際に使われる言葉ですが、納税者側から更正を請求して、税額を増額、もしくは減額するよう求めることができます。

この更正の請求ができる範囲については、いろいろと解釈が分かれているところです。もっとも有力なのは「確定申告書を提出してから 1 年以内なら更正の請求を行える」というものですが、もっと前の分についても請求できてしまった事例もあるようなので、「駄目元」で請求してみるのも一案でしょう。請求しなければゼロですが、受理されれば儲けものです。


フェーズ II : 更正処分、または請求の棄却

以前は、一時所得として申告した場合、それが 3 年分たまると税務署から電話がかかってきて、給与所得として修正申告するよう慫慂 (といえば聞こえはいいが、実質的には脅し) されたものです。しかし最近だと、3 年分ためるなんていう悠長な真似はしないで、確定申告シーズンが過ぎた 4 月頃に、速攻で電話がかかってくるかも知れません。
(なぜ 3 年かというと、確定申告書の時効が 3 年で、それを過ぎた分については税額を増額する処分ができないためです。つまり、目一杯ため込んでおいて、延滞税を多く巻き上げようとしたのですね)

もちろん、訴訟を起こすつもりなら修正申告に応じるわけにはいきません。修正申告に応じるということは、法的には当局側の言い分を認めたことになるので、それにたいして後から訴訟を起こすことはできないからです。したがって、断固たる態度で「修正申告には応じない」という意志を先方に伝えることになります。

すると、しばらくして「更正処分通知」というものがやってきます。これは、修正申告に応じない納税者に対して「あなたの税額はこれこれだから払え」という趣旨の行政処分です。「行政処分」というと物騒ですが、更正処分通知を何枚ためても刑法犯として前科がつくようなことはないので、ビクビクする必要はありません。更正処分通知のコレクションを作るのも面白いでしょう (ぉ

更正処分通知に続いて (または一緒に) 納付書が送られてくるので、いったん、給与所得としての税額を納付することになります。ですから、最初から給与所得としての税額も算出しておいて、納税資金を確保するようにしてください。税金で首が回らなくなったら悲劇です。さらに、忘れた頃になって住民税の納付書が、やはり給与所得として計算した税額でやってくるので、そちらの準備も必要です。

なお、更正処分通知や納付書送付の後になるかと思いますが、延滞税と過少申告加算税について、免除通知が届くと思われます。当初、当局は「(最初から給与所得として申告するよう指導していたにもかかわらず) 意図的に過少申告した」という主張に基づいて延滞税と過少申告加算税を賦課していたのですが、2001 年春にいたり、過去に「一時所得」として指導していた事実が露見して身動きがとれなくなり、やむなく、延滞税・過少申告加算税については免除ということになりました。それを知らせる通知が来るはずです。
笑ってしまうのは、私の場合、免除の理由が「天災その他の理由により」となっていた点ですが、いったいどこが天災なんでしょうか (笑)

一方、いったん騙されて (脅されて) 給与所得として申告してしまい、後から更正の請求を行った場合には、「請求を棄却します」という通知がきます。請求が受理されることは金輪際あり得ません。


フェーズ III : 異議申立

更正処分された場合でも、更正の請求が棄却された場合でも、直ちに所轄の税務署長に対して「異議申立」を行う必要があります。これには専用の用紙がありますが、税務署に行って「異議申立の用紙をくれ」といえば、しかるべき用紙をくれます。異議申立の期限は処分から 2 ヶ月以内となっているので、ノンビリできない点に注意してください。
用紙は 2 枚もらっておいて、どちらも同じ内容を記入し、税務署に持ち込んで収受印を押してもらいます。1 枚は提出用となり、1 枚は控えとして手元に残します。

異議申立の際には理由を書く必要がありますが、どうせ却下されると決まっているもののために、あれこれ手間をかけて理由を考える必要などありません。こちらがどんなに説得力のある理由を書いても、結論は最初から決まっています。
ですから、当サイトからダウンロードできる「理由説明文書」をプリントアウトして、そのまま、あるいは適当に手を加えて提出するのが、簡単でよいでしょう。棄却されると分かっているものに手間をかけるのは、無駄というものです。

そもそも、処分を行った当の本人に対して異議申立をして、それが聞き入れられた例があるのかどうか、まったくもって疑問です。ですが、制度がそういうことになっている以上、それに従うのが、法治国家に暮らすものとしての務めです。


フェーズ IV : 異議申立棄却 (異議決定) と審査請求

異議申立をすると、3 ヶ月の期限いっぱいにわたって放置プレイにされた後、「棄却します」という文書が届きます (いわゆる「異議決定」)。その際に「受け取り」などというものは必要ないので、私が経験したように、自宅まで当局の人間がやってきて「受け取りに判を押して欲しい」といってきたら、怪しいと思ってください。もしも騙されて「受け取り」ではないものに判を押してしまったら悲劇です。

ともあれ、異議申立が棄却されたら、所轄の国税不服審判所に対して「審査請求」を出します。こちらは異議決定から 1 ヶ月以内に行う必要があるので、事前に書類を準備しておくとよいでしょう (異議申立が聞き入れられるはずがないのですから)。
審査請求用の書類は、国税不服審判所の Web サイトから、PDF ファイルになっているものをダウンロードできます。また、国税不服審判所に直接行って、用紙を貰ってくることもできます。これも異議申立と同様、同じ内容のものを 2 枚作成して、1 枚は提出用、1 枚は控えとして手元に残します。

こちらも、最初から「請求を棄却します」という裁決が出ることになっているのですが、手続き上、審査請求をスッ飛ばすことはできないので、仕方ありません。法で定められた手続きには従いましょう。
理由説明文書が必要なのは異議申立と同じですが、どうせ棄却されるものに手間をかけるのは無駄なので、例によって当サイトから「理由説明文書」をダウンロードして、印刷して添付すればよいでしょう。

ここで注意したいのは、権利付与の際に会社から受け取った契約関連書類などに関して、すべて日本語訳をつけて提出するという点です。英語のままで提出すると、審判所は原処分庁の主張を敷衍する形で曲解した翻訳 (というより超訳) をつけて裁決書を書くので、そうした事態に備えて、最初から日本語訳と原文をワンセットにして提出する必要があります。
この訳文作成が、もっと面倒な作業かも知れません。同じ会社の同僚で、何人も提訴する方がいらっしゃれば、共同で訳文を用意して融通し合うと、手間が省けてよいでしょう。こればかりは会社ごとにまったく内容が違うので、私のサイトからダウンロードする訳にも行きませんので…

もっとも、実際には日本語訳をつけてもなお、審判所では原処分庁に都合がいいように曲解した訳文を捏造し、それに立脚した裁決書を書くことになっているようです。しかし、そうなったらそうなったで「わざわざ当局に都合のいい訳文を捏造した」という既成事実を作ることができるので、これは納税者にとって有利な状況証拠となります。訴訟に持ち込んだ際に、そのことを準備書面に盛り込むのも一興でしょう :-)

なお、この時点で訴訟代理人を務めていただく弁護士捜しに着手しておくとよいでしょう。異議申立と違って、審査請求は、請求から 3 ヶ月経っても裁決に至らない場合、裁決を待たずに訴訟を起こすことができます。訴訟を起こした後で、こちらの請求が認められる裁決が出たら間抜けな話になりますが、ことストックオプションの件に関しては、そんなことはあり得ません。さんざん待たせたあげく、必ず棄却されることになっています。


フェーズ V : 審査請求棄却と提訴

審査請求を出すと、数ヶ月から半年程度で、原処分庁 (所轄税務署のこと) の言い分をコピペした裁決書が、書留郵便か何かで届きます。裁決が出るのを待ってもいいのですが、どっちみち結論は決まっているので、審査請求を行ってから 3 ヶ月経過したら、とっとと提訴してしまってよいでしょう。

また、審査請求が棄却されるのを待っていた場合、棄却から提訴まで 3 ヶ月以内というタイムリミットが設定されています。これを過ぎると過去の努力が水の泡になってしまうので、忘れないように注意してください。提訴前にはいろいろとやることがあるので、棄却されるのを待たずにどんどん準備を進めておくのが吉です。

提訴とは、「訴状」を裁判所に出す、という行為です。戦争を行う際に、宣戦布告と一緒に弾を撃つとは限らないのと同様、とりあえず「裁判を起こす」という意思表示をするのが、提訴という手続きです。
ですから、訴状と一緒にこちら側の主張を全部文書にして出す必要はありません。とりあえず提訴してから、納税者サイドの主張をじっくりと文書にまとめることになります。

なお、気になる弁護士さんへの報酬ですが、報酬額は「訴訟物の価額」に連動して決まります。つまり、税務訴訟の場合、勝って取り返すことができる国税と地方税の合計額が、訴訟物の価額」ということになります。その訴訟物の価額」に一定の係数をかけて得られた基準額から、±30% 程度の範囲内で、実際の報酬額が決まります。
ただし、報酬全額を最初に支払うのではなく、40% を「着手金」として支払います。もし、最終的に勝訴判決が確定すれば、残り 60% を「成功報酬」として支払います。まかり間違って国税勝訴で確定してしまった場合、成功報酬はありません。つまり、勝っても負けても着手金だけは必要ということになります。

そのほか、裁判所に提出する書類には「印紙」を貼らなければならないので、提訴に際しては「印紙代」もかかります。こちらも、「訴訟物の価額」に応じて印紙の額が違ってきます。もし、高裁・最高裁と上級審に話が進めば、その都度、印紙代がかかります。

この辺の費用を計算するためのソフト「貼用印紙計算」を、関根稔法律事務所の Web サイト からダウンロードできます。このソフトは制度改定があるごとにバージョンアップするので、常に最新版を使うように注意が必要です。


フェーズ VI : 提訴後の審理

提訴すると最初に決まるのは、その訴訟がどこの部門に係属し、担当裁判官が誰になるかです。東京地裁の場合、民事だけで 1 部から 50 部までありますが、その中でも「行政部」と呼ばれている、行政訴訟担当部門の中のいずれかに係属することになります。東京地裁の場合、ひょっとすると、なにかと国を負かし続けていることで有名な民事 3 部の藤山雅行裁判長が担当になるかも知れません :-)

ちなみに、こちらが「代理人」として弁護士を立てるのと同様、被告となる国側も代理人を立ててきます。書類の上では、原告は納税者個人、被告は所轄の税務署長ですが、実際には「被告指定代理人」として各地の国税局に勤めている「訴務官」とかいう肩書きの人が出てきます。つまり、国税庁専属の「訴えられ屋」が代理として出てくる訳です。
この人達は、複数の税務訴訟を掛け持ちで、被告指定代理人を務めています。ここのところ、特に東京ではストックオプション税務訴訟が大量に提起されているので、あちこちの訴訟で同じ名前の「被告指定代理人」を見ることになります。

非常に残念なことですが、行政訴訟の場合、刑事訴訟みたいに法廷で丁々発止とやり合うことはありません。原告・被告ともに、陳述はすべて「書面」で行います。
この、主張内容を文書にまとめたもののことを「準備書面」といい、これが、行政訴訟における主役となります。したがって、準備書面の内容に何を盛り込むかがキモになる訳ですが、過去に提起されている訴訟を通じて双方の主張内容が出揃ってきているので、どの弁護士さんが担当になっても、そうむやみに外れた内容の主張になることはないでしょう。

基本的には、訴訟の原因になった処分をしたのが被告 (国側) なので、まず被告が準備書面を提出して主張を出してくるのを待ち、それを受けてこちら側から準備書面を出して反撃し、被告側の主張を論破することになると思われます。ですが、この辺は担当の代理人 (弁護士) によっても考え方がいろいろあると思われます。

後は、法廷で書面をやりとりして、次回の日程を決めて、ということを何回か繰り返した後、判決に至ります。裁判官は、準備書面という形で提出された双方の主張や、それと一緒に提出された「証拠文書」を後で調べながら判決の内容を固めて、判決文を書くことになります。
もっとも、地裁でも高裁でも、納税者が勝てば国側の控訴は避けられないので、審理がどんどん進めば進むほど、あなたが最高裁の原告席に座れる可能性が高くなります。一生にそう何度も座れるとは思えない場所なので、楽しみにするのも一興かと思われます (ぉ


フェーズ VII : もし勝訴を勝ち取ったら

国側の悪あがきの度合いから見て、この件は確実に最高裁まで行きます。先行している訴訟が最高裁で結審して、その判決が出た時点で「判例が確定した」ことになります。そして、その時点で進行中の他の訴訟についても自動的に結審して、確定した判例にならって判決を下すことになります。
つまり、先行している訴訟が勝てるかどうかが、後に続く納税者すべての命運を左右している訳です。そのため、すでに高裁に上がっている訴訟の動向は要注意です。

最終的に勝訴判決を勝ち取ることができれば、国税のみならず地方税についても、一時所得として計算し直して、給与所得として納税した額との差額を還付してもらうことになります。その際、最初に納付したときから起算して、年に 4.1% の還付加算金がつきます。ただし、この還付加算金については、「雑所得」として翌年の所得申告時に計上する必要があるので、忘れないでください。

ここで問題なのは、還付加算金を「雑所得」として申告する際に、「必要経費」として弁護士さんに支払った着手金や成功報酬を計上できるかどうかです。常識的に考えれば、所得の原因であるところの還付加算金を得るには訴訟が必要であり、その訴訟の代理人に支払う費用としての弁護士報酬ですから、「必要経費」と認めるのが妥当でしょうが、多分、税務署はあーだこーだと理由をつけて、否認しにかかってくるでしょう。
ひょっとすると、ストックオプション税務訴訟の次は、第二ラウンドとして「還付加算金と弁護士報酬をめぐる税務訴訟」が多発することになるかも知れません (笑)


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