Opinion : フレッド・フランクス大将の人生訓 (2003/8/18)
 

すっかり更新をサボってしまい、放置状態になっていて申し訳なく思っているコンテンツに「推薦図書」のコーナーがある。その中に、湾岸戦争で米陸軍第 VII 軍団の指揮を執ったフレッド・フランクス米陸軍大将 (前 CENTCOM 司令官のトミー・フランクス大将とは別人なので注意) とトム・クランシーの共著「熱砂の進軍 (原題 : Into the Storm)」が含まれている。

時を遡ること 5 年近く前、独立しようかどうしようか、独立してやっていけるのか、などと悩んでいた時期に、たまたま、この本が出た。もちろん、本来は湾岸戦争の地上戦について知りたくて買ったのだが、まったく違うところで激しく揺さぶられた一冊で、今に至るまで、自分の物の考え方に大きな影響を及ぼしている。一冊の本の影響力としては、我が人生で最大級だったかもしれない。


御存知の方は御存知の話だが、フランクス大将の左足は義足だ。1970 年 5 月のカンボジア侵攻作戦に参加した際に、手榴弾を投げつけられて足首の骨がぐしゃぐしゃになり、膝から下の切断を余儀なくされたのだという。実は、「熱砂の進軍」の中で、もっとも読み応えがあったのが、この負傷と、その後の苦悩と再起についてフランクス自身が語っている部分だった。

もともと軍人は「身体が資本」の商売だから、その身体に大きな負傷が加われば、なんとか治したいと思うもの。まして、脚を切断しなければならないかもしれない、なんていわれれば、軍人でもそうでなくても、できれば切断せずに済ませたいと思うのが当然だ。フランクス大将もそうだったようで、最終的に切断手術を受ける決断を下すまでに、半年以上の時間がかかっている。切断した脚は元に戻せないのだから、簡単な決断であろうはずがない。

ここで大したものだと思うのが、その間の苦悩や落ち込みについて赤裸々に語っているところ (自分には真似できない)。まして、それまで軍の主流を歩んできたウェストポイント出身の陸軍将校だ。普通だったら蓋をしておきたいと思うような話で、よくぞここまで、と思うほどに心中を吐露している。負傷し、さらに「脚の切断が必要」といわれてとめどなく落ち込み、そこから這い上がってきた過程は、他のどんな話よりも、読み手である自分を揺さぶった。
詳しい内容については書ききれるものではないので、ぜひとも手にとって読んでいただきたいと思うのだが、その中でも、特に「これ」という言葉を引用したい。

「実現しなかったことを思うのではなく、実現した事柄に感謝しつつ、目前の戦いに集中して、進んでいかなければならない」
「何も変化のない人生などないだろう。そんな人生はありえないのだ」
「痛みに耐えることで、人はそこから知恵と強さを得る (中略) 痛みを完全にはね返すことはできないが、大切なのは、立ち直って生きつづけてゆくことだ」
「打ちのめされながら、ふたたび立ち上がって戦いに臨む者は、そう簡単にへこたれない。順風満帆できた者は、いざとなると、あぶなっかしい」
「過去やそのときの損得に、あるいは将来やいま手にしていないものに、とらわれるべきではないのだ」

元気なときにこれらの言葉を目にしても、「ふーん」となるだけかもしれない。だが、へこんでいる人、落ち込んでいる人、悩みを抱えている人の心には、何かしら響くものがあるはずだ。

自分の身辺で体験した話に照らしてみても、フランクス大将が書いている話には頷けるものがある。何の苦労もなく順風満帆な人生を歩んでいるだけの人よりも、なにかしらの挫折を経験して、そこから這い上がってきた人の方が強いし、決意や意志が強固なものだ。(しばらく前にも、そんな事例に身近なところで遭遇した)
そうした強さこそ、今みたいな時代にもっとも必要とされているものではないかと思う。成功体験しか持たず、その成功体験や成功法則にしがみついている人ほど、身動きが取れなくなっている時代だから。


ちなみに、フランクス大将は同じ「熱砂の進軍」の中で、こんなことも書いている。

「戦うからには、百対〇が、戦場における適正な得点差だ。日曜午後の NFL のアメフトの試合なら、二十四対二十一というスコアでもよいかもしれないが、戦場ではだめだ」
「敵が AK-47 銃で一発撃ってきたら、こちらの全火力をつかって反撃した。あらんかぎりの火力で敵を攻め、向こうが一発撃ったこと自体を後悔させるようにしたものだ」

これが米軍の基本的な考え方だとすると、アフガニスタンで数十人規模の銃撃戦に A-10 や F-16 や AC-130 を呼んでくる米軍の戦闘のやり方にも納得がいく。
それに、この「百対〇主義」は、自分個人のやり方にも、公私ともに多大な影響を及ぼしている。分かる人は分かる話だと思う (苦笑)。

ちなみにこの本、フランクス個人の話に限らず、同様にベトナムで深手を負ったアメリカ陸軍を立て直す過程の方も読み応えがある。今、何かを立て直さなければならない立場に置かれているすべての人は、騙されたと思ってこの本を読んでみるようお薦めしたい。きっと得るものがあるはずだから。

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