Opinion : 予算増・人員増だけの問題じゃない (2017/2/20)
 

実は、その他のお役所や各種団体や企業でも同じようなところはあると思うけれど、そこまで話を拡げると散らかりすぎるので、今回は自衛隊の話にフォーカスして書いてみる。

何の話かといえば、「人と予算を増やせば解決するのか ?」という話。

本来任務は増える、それ以外にも細々した仕事がいろいろ増える、でも人も予算も増えないので現場は大変。そういう話はいろいろ耳にする。すると当然ながら「人も予算も増やしてくれよ」という声は出てくる。

でも、単純に人と予算を増やせばそれで問題は解決するんですか ? と問いたい。


そもそも「人を増やす」とは何なのか。定員を増やすことなのか、充足率を上げることなのか。定員だけ増やしても、募集が進まなかったり、募集できても定着しなかったりすれば、結果として充足率は上がらない。

つまり「人をとる」ことだけでなく「とった人を定着させる」ことも考えないといけない。時間と費用をかけて育成した人材があっさり辞めてしまったのでは、国家的損失である。

自衛隊というと一般に連想されるのは、いわゆる戦闘職種。確かに、それがもっとも目立つ市重要な分野であることは論を待たないけれども、それ以外にも、実に多様な職種がある。それがみんなきちんと仕事をすることで、初めて第一線の戦闘職種が威力を発揮できる。

だから、多様な職種がある、多様な能力を発揮できるフィールドがある、ということを知ってもらうのは大事だし、実際、そういう取り組みもなされていると聞く。でも、それを見て「この職種で自分を試してみたい」と思って入隊した、その後は ?

希望通りに、能力を発揮できる職種で思う存分にやれれば理想的。でも、その本来任務への専念を阻害するような要因があったら、どうなるだろう。

「この分野で頑張ってみたい、自分のスキルを伸ばしてみたい」という意欲が強い人ほど、本来の任務と違うところに時間をとられて、思うに任せない環境に直面したときに、ガックリ来てしまわないだろうか ?

以前に書いた観閲式・観艦式・航空観閲式の話もそう。偉容を見せるのも重要だから、儀礼・儀典がどうでもいい、とはいわない。でも、程度問題である。

本来の趣旨からすれば、まず実戦で役に立つスキルをとことん磨き上げるのが先決で、それを部外者や他国の軍人に見せることが、結果として抑止力になるんではないか ? たとえば塹壕や掩体の構築ひとつとっても、手間暇かけた「展示用のきれいな掩体」より、「これだけ実戦的な掩体を迅速に造れます」という方が良くはないだろうか。

あと、過重勤務の話だってそう。寝ないで頑張ってる方が評価されるという組織文化、あるいは寝ないで頑張らないと仕事が片付かないという仕事のあり方・進め方をどうにかしないと、貴重な人材を磨り減らしてしまう。

ここぞというところで全力を発揮するためには、能力を伸ばしたり発揮したりできる環境を整備しないといけない。そして、普段から過重勤務になって疲弊してしまってはまずい。それらが実現できないと、結果として貴重な人材の定着を妨げることにならないか ? それを放置しておいて、定員だけ増やして解決するんか ?

もちろん、誰もが希望通りの職種に就ける、あるいはそれを続けられるとは限らないし、希望と違う職種に回されてみたらツボにはまった、ということだってあるだろう。それもまた、最優先すべき仕事を後回しにさせられたのでは、いい方向には回っていかないのでは。


実のところ、稼ぎの多さをアピールするのは難しいだろうし、福利厚生をアピールするといっても限度がある。ことに軍人 (自衛隊員含む) は、なにかしらの使命感とか気概が必要な仕事じゃないのか。民間の景気が良くなって、相対的に公務員の募集環境が厳しくなれば、なおのこと。

だったら、その使命感や気概をつぶすような環境を作ってはいけない。そういう見地からいって現状はどうなのか、何か改善できることはないのか、もっと根本的なところで組織文化や仕事の進め方から見直さなくていいのか。そういうことを、中の人には真剣に考えて欲しい。

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